グーグル・クラウド・ジャパンと
NTTデータがAIエージェントで得た果実
グーグル・クラウド・ジャパン
上級執行役員 パートナー事業 兼 法人営業統括
上野 由美氏
AIリーダーとしてのグーグルの進化は目を見張るばかりだ。2026年2月には最新版の「Gemini 3.1 Pro」をリリース。上野氏は「Gemini 3ファミリーでは従来の理解力と思考力に加えて“行動する能力”を獲得しました」と語る。
グーグル・クラウド・ジャパン
上級執行役員 パートナー事業 兼 法人営業統括
上野 由美氏
これによりAIは、目的や目標を理解して計画を立案し、自律的に実行するデジタルワーカーへと進化を遂げた。グーグル社内ではAIエージェントを活用することで、営業がリードから商談に転換する割合が14%向上し、財務部門の処理能力が2倍に。開発部門ではコード生成の5割を任せ、イノベーションのスピードを劇的に加速することに成功した。
“金の卵”であるAIエージェントを企業の成長エンジンへと発展させるにはどうすべきか。上野氏の問いに対し、NTTデータの冨安氏は「人間と同じで、まずは『大胆に任せる』心構えが大切」と述べ、次のように続けた。
NTTデータ
取締役副社長執行役員
テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当
冨安 寛氏
「チャット型AIのようにつきっきりでマイクロマネジメントに偏ると成長は見込めません。ただし、大胆に任せるうえでどのような準備をしていくのかは引き続き重要です。AIにハルシネーションはつきものであり、すべてが正しいわけではないからです。さらにはセキュリティの問題なども関わってくるため、そこを人間がどのようにカバーしていくかがポイントです」(冨安氏)
NTTデータ
取締役副社長執行役員
テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当
冨安 寛氏
事実、NTTデータではAIエージェントを活用して開発プロセスを見直し、従来の自動化と比較して桁違いの生産性向上を実現した。この手法をバックオフィスにも展開してROIに貢献する成果を創出し、顧客にも展開していきたいと話す。
そこから得られた学びについて、冨安氏は「AIに大胆に任せるには、人間による品質担保が不可欠です。AI時代の到来により、一周回ってこれまで携わってきた仕事に一層真剣に向き合う必要が出てきたことを実感しています」と締めくくった。まさに「AIと共存する社会」を象徴する言葉と言えるだろう。
グーグル社内でのAIを営業や財務、開発プロセスに組み込み、具体的な業務成果につなげている
分科会Discussion Report
「効率化」の先へAIと「共創」する企業変革とは何か
AI導入が期待した成果につながらない壁をどう乗り越えるべきか。本分科会ではAI実践に取り組む化学、飲料、人材、IT企業のキーパーソンが集結。AIを「点」の効率化に留めず、業務プロセス全体を巻き込む「線」へと進化させ、新たな収益機会を生み出す「企業変革(面)」を実現する道筋を議論した。ファシリテーターは日経BP 総合研究所 所長の河井保博。
左から、日経BP 総合研究所の河井保博、積水化学工業の前田直昭氏、グーグル・クラウド・ジャパンの藤井俊平氏、NTTデータの奥田良治氏、サッポロホールディングスの桑原敏輝氏、パソナグループの溝江由里子氏
プロセスを再定義する次元の変革
前田さん、桑原さん、溝江さんはDXを推進するリーダーの立場です。AIの登場は、自社のデジタル変革にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
前田
AIの流れを見ていて強く感じるのは、社会全体の動きが急速に変わっていることへの危機感です。仮に現状は問題がなくとも、世の中が新幹線や飛行機に乗り始めているのに、自分たちだけが自転車で走っているような状態では競争力の低下を招くことになります。採用や定着の面でも、働く環境として魅力がなくなれば人が集まらない可能性があります。
これまでのDXでも一定の成果は出てきましたが、AIやAIエージェントによって、プロセスそのものを再定義する次元の変革が求められています。今後はAIエージェントが企業の中でどこまで自律的に業務を担えるのかが大きな問いになるはずです。どのAI技術が優れているかという技術論よりも、AIを前提とした新しい業務のあり方に企業文化や組織がどう適応していくのか。そこが本質ではないかと考えています。
桑原
DX部門を立ち上げた当初はビジネスモデルやプロセスを変えていく経営基盤の取り組みとして進めていましたが、事業課題や経営目標とはやや分断された状態でした。そこで近年は、中期経営計画や事業目標との整合性をどう取るかが大きなポイントになっています。そのような中AIの登場によって、DXに本格的に取り組む土台が整いました。DXで扱ってきたデジタル技術がAIに集約されてきたことで、以前よりも分かりやすくなったという実感を強くしています。
溝江
パソナグループは『社会の問題点を解決する』という企業理念のもと創業しました。その原点を踏まえ、社会課題の解決にテクノロジーをどう活かしていくかという視点でDXを捉えています。私自身は“人を活かすこと”が仕事の本質だと考えているので、「人」を軸にしたテクノロジーの進化に挑戦していきたいと思っています。
昨今では役員もAIへの関心が高く、「まずは使ってみよう」という気運が高まっています。ただし、具体的にどう活用していくのかに関しては現場レベルまで十分に浸透していないのが実情です。個人情報を多く扱う事業でもあるため、導入に対する意欲は高いものの、適切なルール整備やガバナンスを前提に、安心・安全な活用環境を整えていく必要があります。進展はしているものの、まだ多くの課題が残っています。
サービス提供側も日々進化
AI同士が対話する世界が現実に
グーグル・クラウド・ジャパン、NTTデータから見た日本企業におけるAI活用の現状はどうなっているのでしょうか。
グーグル・クラウド・ジャパン
藤井 俊平氏
藤井
わずか数年で、人間のように世界を認識できるAIモデルが急速に進化しました。この進化がビジネスとAIをより密接に結び付け、中期経営計画の中核にAIを据える企業が増えています。
グーグル・クラウド・ジャパン
藤井 俊平氏
一方で日本企業におけるウォーターフォール型プロジェクトはたくさんの課題を抱えています。例えば業務の属人化や、要求した仕様と実際の成果物のズレなどです。これらはITだけでなく、建設やマーケティングなど他分野のプロジェクトでも共通して見られます。また、人手不足や優秀な人材への業務集中も多くの企業で起きています。そこで私たちは課題を解決するために、AIによって業務プロセスを一元化できるエージェントプラットフォームの「Gemini Enterprise」活用を提案しています。
さらに今後数年間で、企業間でもAIエージェントが連携するワークフローが広がっていくと見ています。2026年1月に当社が発表した小売業向けの「Universal Commerce Protocol」をはじめ、エージェント間通信のプロトコルも登場しています。おそらく今年は、こうしたマルチエージェントの連携を前提とした新しいビジネスシナリオが出てくるのではないでしょうか。日本でもぜひ実現していきたいと考えています。
NTTデータ
奥田 良治氏
奥田
NTTデータでは「Smart AI Agent®」を掲げています。これはAIエージェントを「パーソナルエージェント」「デジタルワーカー」「特化エージェント」と大きく3つに分類し、3種類のエージェントが連携しながら、個人や組織の仕事を支えていく世界を構想しました。
NTTデータ
奥田 良治氏
ここ2〜3年の動きを見ると、まずバックオフィス業務の効率化からAI活用をスタートしたケースが多いです。さらに2024年後半から、顧客接点に関わる分野の活用が増えてきました。特にマーケティング分野ではAI活用の可能性が高く、実際に多くの企業で取り組みが進んでいます。
中でもうまく進んでいるのがりそなグループで、AI推進に向けたCoE(Center of Excellence)の設立を当社が支援しました。本CoEを起点に、AI活用の民主化や人材教育と同時に、業務プロセス全体を見直す取り組みを進めています。こうした形でお客様と一緒に組織をつくり、変革に伴走していくことが私たちの新しい価値提供の形になります。
実装元年といわれる2026年
AIエージェントで何が変わる?
今回参加されたユーザー企業の皆さんはAIエージェントの可能性についてどのように考えていますか。
桑原
私たちは中長期成長戦略の中で、顧客体験を強化するビジョンを示しています。ただしメインの酒類事業はBtoBtoCのため、直接の顧客データを保有しにくい課題があります。そこで外食事業である「サッポロライオン」の会員データやPOSデータの分析にAIエージェントの導入を検討しています。
まだトライアルを始めたばかりですが、今日のお話を聞いて様々な示唆をいただきました。藤井さんのお話にあったようにエージェント同士が連携する世界になると、かなり可能性が広がります。例えば受発注に関して卸のAIと当社のAIがやり取りして適正な数量を決めたり、物流の稼働状況まで踏まえて調整したりできれば、これまで拠点ごとに行っていた調整を1カ所でコントロールできるようになるかもしれません。
溝江
今日のテーマになっている「点」から「線」、そして「面」への展開になぞらえれば、現在は個別業務での活用から、部門横断でつなぐ段階へと進めているところです。フロントからバックオフィスまで一気通貫でつなぐのは、組織が大きくなればなるほど難しいからです。その意味でも、NTTデータさんが示された特化型AIは参考になりました。例えば現場の担当者が専門的な問い合わせを受けた際に、その場で必要な情報にすぐにアクセスできず、確認に時間を要する場面は少なくありません。今は属人的な確認作業に依存せざるを得ない状況ですが、AIエージェントを通じて自己解決できれば対応スピードが上がり、サービス向上にもつながる。そうした使い方ができると感じました。
前田
当社は化学メーカーということもあり、R&D(研究開発)領域ではマテリアルズ・インフォマティクスなどAIやデータサイエンスを活用した取り組みでかなり成果が出始め、P/L(損益計算書)への影響が確認されています。
一方で一般従業員は、これからAIエージェントを使って業務プロセスを少しずつ改善していく段階です。ツールが便利であるがゆえに、従業員が本来の目的を見失い、利用自体が自己目的化してしまう懸念があります。そこでデジタル変革推進部では、ルール整備やデータガバナンスに注力しています。いわばホップ・ステップ・ジャンプのような進め方で、2025年度はその手前の試行を進めてきました。2026年度から始まる新しい中期経営計画では、実際の業務課題を持つ現場や事業部と一緒に検証を進めながら技術的な可能性を確かめつつ、本格的に取り組んでいく予定です。
成長戦略の中で
AI活用の視点を持つこと
AIと「共創」する抜本的な企業変革を実現するためには何が必要でしょうか。
積水化学工業
前田 直昭氏
前田
本来は面で考えて動くのが理想ですが、エネルギーが非常に大きくかかる。このため、面を意識したバックキャストで点から始めています。
積水化学工業
前田 直昭氏
具体的には、データがある程度蓄積されて課題意識があり、解決を進めようとするリーダーがいる領域から着手しています。そこにDX部門がパートナーとして入り、ときには社内コンサルのような形で伴走しながら成果を出していく。当社には改善活動の文化がありますので、現場の改善の取り組みと、AIを長年扱ってきたエンジニアの知見を組み合わせて、各部門の人たちと「最も効果があるポイント」を探りながら進めていきます。
サッポロホールディングス
桑原 敏輝氏
桑原
経営と対話すると、「DXやAIがどうビジネスインパクトにつながるのか」と必ず聞かれますが、それは当然のことです。社内では半期ごとにアンケートを取るなどして、社員の声を含めた複数の視点からDXの進捗を確認しています。こうした現状把握を継続していくことが重要です。そのため私たちの部門では、まず経営課題や1つのテーマにコミットした取り組みを大きな柱として動かし、そこから派生する施策を展開する形を取っています。最終的にはKGIが経営指標になるので、そこに紐づくKPIを設定できれば、経営とも一定の共通言語で会話ができるようになります。
サッポロホールディングス
桑原 敏輝氏
パソナグループ
溝江 由里子氏
溝江
私たちは人材ビジネスが中心ですから、やはり「人」に関する課題が大きいです。育成自体は非常に力を入れていますが、育成後のキャリアパスの構築や、さらなる能力発揮の場をどう提供するかがこれからのテーマですね。成果を出している人たちは課題発掘の力を持っていますが、スキルを養うには経験が必要です。AIは、そうした経験の差を補完し、一人ひとりの成長や判断を支える存在になり得るのではないかと期待しています。
パソナグループ
溝江 由里子氏
奥田
かつてはビッグピクチャーを描き、半年から1年を費やす長期プロジェクトが一般的でしたが、今は違います。AIを活用すればラフスケッチを何度も描き直しながら、積極的に前に進めていくアプローチが可能になります。私たちも皆さんの壁打ち相手になりながら一緒に進めていきたいと考えています。
藤井
先ほど紹介したように、AI同士に対話させる世界が今後数年のうちに自然なものになります。まさに登場から数年で世界中の人がスマートフォンを持つようになったのと似たような広がり方です。
そうなると、現時点で皆さんが抱えている課題がよりシンプルに解決できる可能性が出てきます。その中で大事なのは、成長戦略の中でAIをどう活用していくかという視点をしっかりと持つことです。今後も私たちは、最大限効果が出るAI支援を続けていきます。








