3つのメニューの大枠は斎田教諭が決めたが、「青春御膳」の天ぷらに使う野菜などは季節代わりで、その選定は生徒が中心になって行っている。野菜を選びに生徒が斎田教諭とともに農家に出向くこともあるという。
「たとえば同じ枝豆でも、品種ごとの味や食感の微妙な違いを作り手の農家から直接聞け、その場で味を確かめたりもできる。自ら畑にいくことで料理のヒントを得られるのです」(斎田教諭)。
最近は、農家から提案された食材を生徒の判断でメニューに組み込んだことも。取れすぎたムラサキイモを使ってくれないか、との申し出を受け、生徒が試作の上、ふだん使っているサツマイモから一時的にムラサキイモに切り替えた。申し出から商品として提供するまではわずか2週間。生徒たちが自分たちで判断し、スピーディーに対応できたのは「種まきや収穫の手伝いに行く機会があり、野菜にはそれぞれ一番おいしい旬がある、ということをきちんと理解できていたためでは。厨房にこもり、畑に足を運んでいなかったら、臨機応変に対応できなかったかもしれません」(斎田教諭)。地域の農家との連携が、生徒の成長に一役買っているようだ。
食材の管理や仕入れや発注も生徒自身が行う。コロナ禍の現在、まごころきっちんは密を避けるため、事前予約制を採用。生徒は予約数をまかなうために必要な食材の量を決め、発注書に記入。週末の営業に向け、週後半の放課後から仕込みを行い、当日は11時のオープンに合わせ、8時から厨房で調理する。
「オーダーを踏まえながら1、2年生に指示を出し、調理や盛り付けをリードするのは、班長や副班長以下、3年生の役割です。教員の私が行うのは、生徒が書いた発注書に記入ミスがないか確認して業者に送ったり、支払いをしたり、お客さんから予約の電話を受けたりする程度です」(斎田教諭)。
教師の指示を仰がなくても、生徒が自主的に動けるのは、すべき業務が徹底的にマニュアル化されていることも大きいという。

「マニュアルは教師側が一方的に決めたものではなく、これまでの営業で得た知識をもとに生徒たちが話し合い、アップデートしてきたもの。守るべき指針があることで、経験の少ない高校生でも自分がどう動くべきかわかるし、不測の事態がおきても、『マニュアルに照らせば自分はこう動くべきではないか』と予測も立つ。厨房のリーダーだった3年生が毎年ごっそり抜けてしまうのが、高校生レストランの宿命。マニュアルをしっかり作り、次の学年に受け継ぐことは、営業上、たいへん重要です」(斎田教諭)。
部活動を通じて培われた自主性は、レストラン運営以外の場面でも存分に発揮される。三笠高校では飲食店でのインターンシップを単位として認めており、2年生全員が夏休みに5日間のインターンシップを体験。さらに希望者は就職先検討の一環として、企業や飲食店での5日間の現場研修にも参加する。どちらも受け入れ先は生徒が各自、希望する店を見学訪問し、内諾を得るのが決まり。現場研修先には札幌市内のホテル、都内にあるミシュランの星付き店など、有名店も少なくない。
「修学旅行の自由時間にお目当ての店で食事し、その場でちゃっかり現場研修の約束を取り付けてくるつわものもいます。学校側は、『今度、うちの生徒が伺うのでよろしくお願いします』と先方に挨拶する程度(笑)。なぜ当校の⽣徒がそこまで⾃主的に動けるのかについては、人を頼らず、自分で決めるという精神が育っているからとしか言いようがありませんが、レストラン運営で得た、『自分はしっかりやれている』との自負も後押ししているのかもしれません」(畑教頭)。
今回の取材は2020年11月7日に実施した。その後、北海道が新型コロナウイルスの警戒ステージ3に引き上げられたことに伴い、現在、高校生レストランは休業中。ただ、調理部をはじめ三笠高校の部活動自体は続いている。
「調理部では新しいメニューの考案や、部活動を引退する3年生から下級生への引き継ぎもあります。今は教員が引き受けている予約電話の受け付けを生徒自身で行えるよう、講習会も開きたい。お客様に料理を提供できないのは残念ですが、来年度の営業に向けてパワーアップするための有意義な充電期間にしたいと思います」(斎田教諭)。
前述したように、まごころきっちんはオープン2年目の2019年、1万5000食を提供し、1,893万円の売上を計上。ここから食材費や光熱費などの諸経費を引いた利益のうち、約65%は建物や厨房設備の修繕費などとして市が積み立てている。また残りの35%は生徒がレストラン運営以外の部活動で行う基礎練習や、料理コンクール応募に向けた試作品作りの食材購入費などに使われている。
三笠高校調理部、製菓部の生徒は道内の企業などと連携し、弁当やおせち料理、スイーツなどのコラボ商品も開発している。また、こうした取り組みに学ぼうと全国から教育機関や自治体が視察に訪れる。「三笠市といえば高校生レストラン」といわれるほど、市の認知度・好感度アップに貢献。その結果、交流人口は3万2900人、地域経済効果は7,590万円に上っている。新生三笠高校を地域活性化の起爆剤とする、という目標は達成されているといえるだろう。
今後さらに取り組みたいことは何か。斎田教諭に尋ねると、「食を学ぶ全国、全道の高校生との連携強化です」との答えが返ってきた。
「北海道立幌加内高校には、そば打ちのコンテストで日本一になったそば局があります。昨年度は彼らが打ったそばと、うちの生徒たちが揚げた天ぷらをセットにして提供したところ大変好評をいただきました。また、今後は近隣の農業高校とコラボした新メニューも作ってみたい。三笠高校生レストラン「エソール」を『三笠高校の生徒が運営するレストラン』だけに留めておくのはもったいない。『食について学んでいる全国の高校生の情報発信の拠点』としてアピール、活用することで、三笠市や北海道、そして全国の食のプロフェッショナルを目指す子供たちの成長をより一掃後押ししていきたいです。きっとこういう活動によって、食のマチ、三笠市のブランド力アップに貢献できるはずです」