進む「農福連携」 農業の担い手不足を解決し、障がい者の働く場所を確保

 「その一方で、先進的な事業所のなかには、知的障がい者に重機の操縦をまかせているところもありました。一般に知的障がいのある方は、自分で判断をすることは苦手だとされ、繰り返し作業ばかりやることが多いのです。お茶の葉を刈る機械を操縦しているその姿を目の当たりにしたときに、問題は、『障がい者だからできない』と決めつけて仕事をさせない健常者の側にある、と確信しました」(濱田氏)

農福連携の2つのパターン

 その後、濱田氏は「農福連携」をキーワードにこの分野での研究をすすめつつ、意識啓発のためのPR活動を展開、研究がメディアで取り上げられたり、農福連携の先進事例が新聞で取材されたりするようになるなかで、取り組みが少しずつ世の中に浸透していった。

 関心が急速に高まったのはここ数年だ。農林水産省が交付金をつくり、厚生労働省が助成金をつくるなど、行政側が支援に乗り出したことで、農福連携をはじめる施設も増えてきた。

 濱田氏によると、連携のパターンは大きくわけて2つあるという。1つは、障害福祉サービス事業所が農業生産に取り組むもの、もう一つは、農家や農業法人が障がい者を雇用するもの。

 「まず福祉関係者に農福連携の認識を広めることに力をいれました。その結果、忙しいときに福祉サービス事業所に農作業を委託する農家が増えています。今後は、農業サイドに農福連携の取り組みをもっと知らしめて、障がい者の雇用につなげていくことを進めていきたいと考えています」

 農業サイドにとって障がい者雇用のハードルは高い。雇用できるだけの売上げが必要だし、対象となるのは、障がいが重くないある程度働ける障がい者に限られるなど現実問題としてなかなか手が出せないのだ。

 そうしたなかで、農家や農業法人が障がい者を雇用する連携パターンで先駆的な取り組みの成功事例として注目を集めているのが、静岡県浜松市でネギやチンゲンサイなどの水耕栽培を行っている「京丸園」だ。

障がい者をビジネスパートナーに

 「これがトレーを洗う機械です」と言いながら、京丸園の鈴木厚志社長は、正面のボタンを押した。音楽が流れ、水を流しながらブラシが回り出す。機械にトレーを差し込むと反対側から洗い上がったトレーが出てきた。それをコンテナに入れ、2枚目、3枚目と続けてトレーを機械に差し込んでいく。52枚の洗浄が終わったところで、別の音楽が流れ出した。

 「コンテナがいっぱいになったことを知らせる音楽です。洗った枚数を数える必要はありません。数える時間も数え間違えるリスクもありません。これなら、障がいを持った人が1人で作業可能だし、誰がやっても、早く、正確に洗浄作業を進めることができます」と鈴木氏は胸を張った。

障がい者を採用したことで、職場の雰囲気がよくなり、作業効率もアップしたという(写真:廣瀬貴礼)

 機械を導入することで、作業効率は130%アップしたそうだ。「機械に投資した分を差し引いて、数パーセントだけれども担当者の給料を上げることができました」(鈴木氏)

 京丸園は、1996年から毎年1人ずつ障がい者を雇用してきた。現在100人が働いているが、そのうち25人が障害のある人で、企業からの受け入れを含めると38人が障がい者だ。

 「実は、僕は障がい者に農業はできないと思っていました。求人を出すと、お母さんに連れられた障がいのある子が応募してくることがあったけれど、障がい者ときいただけで断ってきたのです」と鈴木氏は振り返る。

 ところがあるとき、頼み込まれ、研修という形で1週間だけ障がい者を預かることになり、「ボランティア的な気持ちで」受け入れたという。すると、驚くべきことが起こった。職場の作業効率がアップしたのだ。

 「驚きました。みんなが障がいを持った彼を支えようと、物をとってあげたり、困っているようなら声をかけたり、後ろを通るときにイスをちょっと引いたりする。障がい者が人の優しさを引き出し、職場の雰囲気がよくなったんです。農業って手作業が多いから、場の雰囲気がいいと作業効率があがるんです」(鈴木氏)

京丸園が導入したトレー洗浄機。「障がい者が働けるように、仕事や作業を工夫することから、生産現場が変わっていく」と語る鈴木社長(写真:廣瀬貴礼)

 障がい者の存在が、パート従業員の能力をアップさせ、生産量の増加につながったのだ。「これはボランティアをしている場合じゃない。ビジネスパートナーとして迎え入れよう。障がいのある人の作業能力は、健常者の半分程度かもしれない、でも、農園経営は個人戦ではなく団体戦だ。農園の総合力がアップすればそれでいいじゃないか」と考えた鈴木氏は、この年から今に至るまで毎年1人ずつ障がい者を雇用し続けている。

 「毎年障がいを持つ子がくるということは、必ずそこに解決すべき課題が生まれます。それを解決していくことが、農園を変え、自分たちが新しい農業をつくっていくことになる。京丸園は、誰もが参画できるユニバーサル農園を目指していますが、その出発点は、あの時、障がい者の雇用を決めたことにあります」