主催者講演

日経BP 総合研究所

製造業DXサミット2024のテーマと背景製造業DXは新たな局面へ
変革のアプローチに進展の機運

日経BP 総合研究所
上席研究員
三好 敏

第4回目を迎えた今回の「製造業DXサミット」のテーマは、「『変革』を目指して新たな道をつくる」。これは製造業DXの局面が変わり、変革に向けた新たな動きが始まっている状況を表したもの。「道をつくる」という言葉には、ビジネスへの実装を前提にした具体的な動きが広がりつつあるというニュアンスを込めた。

局面が変わったのは、2020~22年だと認識している。多くの国や企業がカーボンニュートラル達成の目標を設定したことや、新型コロナウイルス感染症の感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻など、社会に大きな影響を与える動きが相次いだころだ。このころから製造業DXの流れの中で解決すべき業界全体の課題を表すキーワードとして、地球環境問題に関連する「サステナブル」と、有事の際にも安定した事業を継続できる基盤を実現することを示す「レジリエンス」という言葉が業界でクローズアップされるようになった。さらに最近になって、欧州を中心に企業間で安全にデータを共有できる環境を提供する「データ連携基盤」を構築するプロジェクトが相次いで立ち上がり、その動きが世界に広がりつつある。そのプロジェクトの多くが、構築するデータ連携基盤のユースケースとして「サステナブル」や「レジリエンス」に関連するシステムを掲げている。中には、いち早く実稼働しているデータ連携基盤もある。つまり、社会実装の段階を迎えつつある。今回の製造業DXサミットのテーマは、ここまでの状況を踏まえた。

主催者講演

パナソニックグループ

パナソニックグループのキーパーソンが贈るエール変革は最初から“失敗”するもの?
私心を棄て、製造業の復権に尽力を

パナソニック ホールディングス
執行役員 グループCIO
パナソニック インフォメーションシステムズ
代表取締役社長
玉置 肇 氏

「変革を任された人たちに対する心構えを、自分の経験を基にお話しします」と、最初に講演の趣旨を説明する玉置氏。「変革は最初から“失敗”が保証されています」と述べる玉置氏が、4年前にパナソニック ホールディングスのグループCIOに就任した際、どのような心構えで挑んだのか。玉置氏は当時、自ら実践した7つのポイントを紹介した。その中でも重要なことは、「私心を棄てる」と「社内の人を大切にする」だと述べる。

組織は変革を強いられている。しかし、組織に属する社員は変わりたくない。だから、外部から変革を任されてやってきた人が「私心」を持っているとうまくはいかない。「組織の皆と同じ目線になり、私利私欲を棄てて変革することが重要です」(玉置氏)。

また、変革を任されたからといって、「自分が教えてあげる」という気持ちで接する人もいるが、「それでは社員がついてこなくなる」というのが玉置氏の考えだ。「私よりも長くいる人たちの意見を尊重し、様々なことを教えていただきながら一緒に変革を進めていく」ことが重要となる。ただし「変革に聖域を設けない」ことも必要だと補足する。

最後に玉置氏は、「製造業の復権なくして、日本の国力は取り戻せないと思っています。一緒に日本の製造業の未来のために頑張りましょう」とエールを送り、講演を終えた。

主催者講演

hapi-robo st

異能経営者、富田直美氏が語る世界に向けて先端技術を発信する
実証実験の現場、中国・深セン

hapi-robo st
代表取締役社長
富田 直美 氏

製造業でキャリアを始め、複数の外資系IT企業の社長を歴任後、ハウステンボスCTOとして世界初のロボットホテル「変なホテル」をプロデュースした富田氏。2016年、世界のどこからでもコミュニケーションできるAIアシスタンス機能搭載の自律走行型ロボット「temi」を提供するhapi-robo stを設立した。

富田氏が注目しているのが中国・深センだ。1979年当時の最高指導者、鄧小平の改革開放政策により経済特区となった深センは、世界最先端のスマートシティとして成長を遂げ、今日の中国の経済基盤を支えている。「大阪府に近い大きさの街全体が、先端テクノロジーの実証実験の場となっており、中国圏のトップ大学や、欧米で磨きをかけたテック人材が籍を置く世界有数の企業が日々活動しています」(富田氏)。

民生用ドローンやその関連機器を製造するDJI、電気自動車メーカーの比亜迪汽車工業(BYD Auto)、通信機器やスマートフォンデバイスを提供する華為(Huawei)など、各領域の名だたる企業が深センに本拠を置く。また市街にそびえるスマートビル、DAS IntellitechのDAS Towerは、環境先進国を目指す中国を象徴する建物として注目だ。各種センサー類を駆使し、空調制御やエネルギー消費動向など多彩な情報をリアルタイムに可視化している。

「日本の製造業の次の一手を探る上で、深センは重要な手掛かりを与えてくれます」と富田氏は強調する。

主催者講演

アルファコンパス

「ハノーバーメッセ 2024」で見たDXの最前線加速する「Manufacturing-X」プロジェクト
生成AI・データ活用は具体的な領域へ

アルファコンパス
代表CEO
福本 勲 氏

福本氏は「ハノーバーメッセ 2024」(2024年4月開催)で見えてきた製造業DXの最新動向を、4つのトピックでレポートした。

1つ目は「データ連携基盤」だ。インダストリー4.0の推進団体「Plattform Industrie 4.0」が、製造業全体のデータ連携プロジェクト「Manufacturing-X」を中心に各分野のデータ連携を進める体制を明確にした。自動車業界の「Catena-X」や産業機器の「Factory-X」などは、Manufacturing-Xのサブプロジェクトとなる。

2つ目は「生成AI」だ。独Beckhoff Automationや仏Schneider Electric、独Siemensなどが生成AIを活用した開発支援システムを展示。トレーサビリティの保持やプログラミングを自動生成するデモを見せた。

3つ目は「仮想空間の活用」だ。Siemensがメタバースの開発環境、独EPLANがデジタルツインとロボットの連携、仏Dassault Systèmesが仮想空間に工場全体を構築するシステムなどを披露した。

4つ目は「データ活用基盤」だ。米MicrosoftやSchneider Electricがリモート化や遠隔管理に関する新ソリューションを展示していた。

「今年はデータ活用を実践できる具体的な技術や製品が、いよいよ続々と出てきた印象があります」と福本氏は総括した。

主催者講演

日立製作所

「Lighthouse」選出後も歩みは止まらない先進工場から描かれるグリーン戦略
検証の成果を展開し地域社会に貢献

日立製作所
制御プラットフォーム統括本部
大みか事業所
事業主管 兼 大みか事業所長
松本 一人 氏

日立製作所ではグループのGXを加速する「GX for CORE」と、顧客や社会のGXに貢献する「GX for GROWTH」を両輪とするグリーン戦略を描き、技術やノウハウの深化、環境価値向上に取り組む。

茨城県日立市にあって、社会インフラを中心とした情報制御システムの提供を担う同社の大みか事業所は、世界経済フォーラム(WEF)が先進工場として選出する「Lighthouse」に2020年、日本企業の国内工場として初めて選ばれた。

同事業所ではGX for COREの領域で、製造ラインの稼働実績データや工場内の電力使用データ、自家発電の再エネ利用状況のデータなどを組み合わせ、建屋ごと、製品ごとのCO₂排出量を可視化して削減施策に取り組んできた。「そこに最近では、再エネ調達関連のデータなどさらに多様な現場データを組み合わせて『脱炭素デジタルツイン』を構築。様々なアイデアを検証し、成果を蓄積しています」と同社の松本氏は紹介する。

GX for GROWTHの領域では、日立市が開設した「中小企業脱炭素経営促進コンソーシアム」に参画。各社のCO₂排出量可視化やCO₂削減ポテンシャルの算定、ロードマップの策定といった支援を行う。

「大みか事業所を実証フィールドに得た技術やノウハウを、地域やサプライチェーンへと還元すべく、取り組みを加速させています」(松本氏)

主催者講演

千代田化工建設

業界に先駆けてデジタル変革を推進4つのDXでリーディング・カンパニーへ
数カ月かかった経済性の検討が数時間に

千代田化工建設
常務執行役員
フロンティアビジネス本部・本部長
松岡 憲正 氏

千代田化工建設は2030年に向けて「トランジションエネルギー」「脱炭素ソリューションズ」「エネルギーマネジメント」「金属・先端素材」「ライフサイエンス」「O&Mソリューション」を重点分野と捉え、パートナリングやDX、人財のケイパビリティの強化を図っている。「社会の“かなえたい”を共創エンジニアリングする」というパーパスを実現するために、創業以来数々の挑戦を重ね、多くの「初めて」や「最大」を達成してきた。

デジタル化も業界に先駆けて着手してきた歴史があり、今後も取り組んでいく。現在取り組んでいるデジタル変革の中でも、「プロジェクトデジタル変革」では、遂行するプロジェクトにデジタル技術を導入し、業務効率性の追求や業務品質の向上を図る。「デジタル変革ビジネス」では、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルを構築している。

同社の松岡氏は講演では、3つの具体的デジタルソリューションを紹介。「P2X統合モデルツール」は、上流の再エネ電力生産から下流側の水素製造、水素利用による化合物生産までのバリューチェーン全体の最適化を図る事業化検討のシミュレーターだ。数カ月かかる経済性の検討を、数時間に短縮できる。また、「PlantStream」は、やはり数カ月かかっていた3Dの配管、電気計装などの設計業務を自動化するもの。「plantOS」は、生産設備やプラントのオペレーション&メンテナンスにおけるAIとシミュレーターの利活用を促進する。

主催者講演

公立鳥取環境大学

データ分析プロジェクトを現場改善だけで終わらせない業務改革プロジェクトの全社推進へ
経営・現場・エンジニア3者で情報連携

公立鳥取環境大学
経営学部 教授
AI・数理・データサイエンス教育研究センター長
齊藤 哲 氏

公立鳥取環境大学の齊藤教授は、「IoTを活用しようとしても、結果的に見える化などの現場改善にとどまっている例が多いです」と説く。

IoTとビッグデータを活用するためにAIを導入する際、経営層がトップダウンでプロジェクトを進めると、IoTとビッグデータを用意して、AIを導入してから目的を決めるという順番になりがちだ。AI導入を成功させるなら、まず目的を決めてから、それに合ったAIを選択し、必要なデータを収集するという流れになる。

IoTおよびAI導入プロジェクトは全社の業務改革プロジェクトとして取り組まなければならない。そのためには、経営層、現場、エンジニアの3者が連携する情報連携組織の設立が必要だ。これを実現する上では、業務モデリングツール「G-RD」を用いてマトリクス型で表記すると共通認識を得やすい。

AI導入は、設計→検証(PoC)→実装・運用のステップで行うことが望ましい。また、設計前の目的・目標設定でAIの目標精度を決め、現場も含めて合意しなければ、検証までの段階でストップしてしまう恐れも十分にある。

上記の導入ステップでは検証が終わるまでAIの性能が分からない。開発範囲や要件が決まらず、外部のIT企業の支援を受けにくくなる。「AI導入プロジェクトに関わるIT人材をリスキリングによって企業内で育成していくことも重要です」(齊藤氏)。

主催者講演

エヌビディア

「NVIDIA Omniverse」と生成AIで3Dによる可視化も加速進化を続ける生成AI最新情報
製造業で活用するためのヒントは

エヌビディア
エンタープライズ事業本部
事業本部長
井﨑 武士 氏

エヌビディアの井﨑氏は、製造業における生成AIについて「サービス・メンテナンス、モニタリング、プロセス管理、ロボティクス制御、デジタルツインなどの分野で活用が期待されます」と分析する。

このデジタルツインに向けて、同社はプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」を提供する。これはファイルフォーマットの異なる各ツールの相互接続を可能とするものだ。例えば「NVIDIA Omniverse」と生成AIを使って、PDFに書かれた2Dの見取り図を基に新しい工場の内部を3Dにして可視化。物やラインの配置などをあらかじめ確認できるようになるという。

「製造業でも、検索拡張生成(RAG)の注目度は非常に高いです」と話す井﨑氏は、大規模言語モデル(LLM)にRAGを使うことで、常に最新のデータから適切な回答を得られると説明を続ける。

複数の種類のデータを一度に処理するマルチモーダルAIについては、視覚言語モデル(VLM)を例に挙げる。「監視カメラの録画映像に対して質問するだけで、工場で発生した問題の回答をすぐに得られ、その際の映像を切り出してもらえるようになります」(井﨑氏)。

さらに井﨑氏は、デザイン生成に役立つ「NVIDIA Picasso」や、GPT-4を搭載して複雑なロボティクス制御が可能となる「Eureka」などを紹介。講演を通して製造業における生成AI活用のヒントを示した。

主催者講演

AIST Solutions

「ウラノス・エコシステム」に見る、戦う姿勢大きな構造変革が「引き算」で進む
官民連携で日本の遅れを取り戻す

AIST Solutions
Vice CTO
和泉 憲明 氏

7月1日、前職の経済産業省を離れ、産業総合研究所の100%出資によって設立されたAIST SolutionsのVice CTOに就任した和泉氏。「DXによる構造変革はこれから始まるのではなく、既に一段落しています」と警鐘を鳴らす。例えば20世紀初頭には移動手段が馬車から自動車に移り、産業構造が大きく変わった一方、市民の生活自体に大きな変化はなかった。「同じく、DXによる大きな構造変革も既に起きているのに、皆が気付いていません」(和泉氏)。そこでは日本企業が得意な、足りない機能を積み重ねていく「足し算」ではなく、無駄な機能を省いていく「引き算」の観点から変革が起きている。これも日本が出遅れている要因の一つだという。

日本もグローバルで戦う環境が整備できた。和泉氏は官民連携で構築した、企業・業界を横断したデータ連携・活用の取り組み「ウラノス・エコシステム」を紹介する。これは2023年9月にキックオフ、同年12月にテストを実施。その後わずか半年という際立ったスピードでシステムが構築された。日本自動車工業会をはじめ、半導体・電池に関わるメーカーなど「日本の製造業を支える企業と経済産業省が一致団結し、グローバルで戦おうとする姿勢が現れています」と、和泉氏は強調する。

最後に和泉氏は「これからも私は、日本の産業をけん引する側としてみなさんを支援したいと思います」と決意を語った。

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