戦火の最中、
ウクライナの放送と教育を守る
101
終わらない戦争が世界の形を
変えている
戦争がなかなか終わりません。美しい街並みに上がる炎と立ち込める煙、倒壊した建物、破壊されたダム、立ちすくむ人々。ロシアによるウクライナへの攻撃は今日も続いています。
「ドネツク、ルハンスク、ハルキウなどロシアとの国境に近い東部地域を中心に被害は甚大で、世界銀行などの試算※によると2023年2月時点での被害額は1350億米ドル、つまり約20兆円にのぼっています。さらに復旧・復興にはその3倍の費用がかかると予測されています」とJICA(国際協力機構)中東・欧州部ウクライナ支援室の小早川徹室長は言います。※出所:“Ukraine Rapid Damage and Needs Assessment(RDNA2)”(2023年3月)世銀、ウクライナ政府、欧州連合(EU)、国連発行
被害はほかの数字にも表れています。
侵攻が始まった2022年のウクライナのGDPは、前年に比べて29.2%も減りました。
ロシアの侵攻前には4400万人いた人口も減っています。もともと、ウクライナはヨーロッパ最貧国のひとつ。国外に職を求め出稼ぎをする人が多く、人口は減少傾向にありましたが、ロシアの侵攻によって人口の2割に当たる約810万人が国外に避難し、人口減少に拍車がかかった格好です。
一方、ウクライナ国内の貧困層(1日の支出が1人当たり6.85米ドル以下)は710万人も増加し、人口全体の24.1%にもなりました。4人に1人が貧困層。これは15年前の水準に逆戻りしたことになります。
しかも、影響を受けているのはウクライナだけではありません。
食糧、なかでも小麦を例に挙げましょう。ロシアは世界一、ウクライナも世界 5位の小麦輸出国です。ロシア自身が輸出を制限し、また、ウクライナが穀物輸出をできないよう輸出拠点である黒海沿岸の港を封鎖するなどした影響で、世界中で食糧の価格が高騰しました。ウクライナからの穀物輸出の平常化は現在も先行き不透明な状態が続いています。
実は日本は小麦のほとんどを、アメリカとカナダ、そしてオーストラリアから輸入しています。ロシアやウクライナで作られた小麦はまず入ってきていません。
しかし、これまでロシアやウクライナからの小麦に依存していた国々が他国から調達しようとしたり、自国のために輸出を制限したりするため、国際相場が急騰し、日本でもパンや麺類の価格が上がりました。
また、ロシアは世界最大の肥料輸出国であるため、それを必要とする食材についてもしかりです。加えて、天然ガスや石油をロシアから買わないとしたことで西洋諸国を中心にエネルギー価格も高騰しています。
日本から約8000km離れた場所で起きている戦争は、決して対岸の火事ではないのです。
人の命を奪い、日常を奪い、文化を破壊する戦争は、人道的理由からもあってはならないものです。その手段に暴力を選ぶというのも、法の支配によって保たれている国際秩序をないがしろにするものです。加えてグローバル化により複雑につながった食糧やエネルギーの危機を世界にもたらします。
当たり前のことですが、地球上に生きている誰もが、世界中のどこでであっても、戦争が起きること、続くことを望んではいません。
だからロシアは侵攻をやめるべきだ。ウクライナから撤退すべきだ。西側諸国の多くはそう考えています。日本もその立場です。しかし、全ての国や地域が同様に考えているわけではありません。
2023年2月、国連総会がロシア軍に対して「即時、完全かつ無条件の撤退」を要求した決議案に賛成したのは、193カ国の国連構成国のうち141カ国。一方、ロシアをはじめ、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、マリ、ニカラグア、シリアの7カ国は反対票を投じました。また、中国やインド、アフリカ各国を中心に32カ国が棄権票を投じ、13カ国は投票しませんでした。
日本にいるとどうしても、世界のほとんどの国がウクライナを応援し、ロシアを批判しているだろうと思いがちですが、ロシアに経済制裁をしている国は世界の4分の1でしかありません。インドや中国は経済制裁どころか、ロシアから安く石油を購入しています。
ロシアによるウクライナ侵攻は、このような各国の立ち位置の違いも鮮明にしました。
こうした状況で、日本には何ができるのでしょうか。