池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
池上彰

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実働2時間の“怠け者”が生まれ変わった理由

実働2時間の“怠け者”が生まれ変わった理由
JOGGOとLUNA
(上)ボーダレス・ジャパングループのJOGGO(ジョッゴ)はカラーオーダーができるレザーアイテムの製造・販売を通してバングラデシュの就職困難者の貧困に取り組む
(下)タンザニアのLUNA sanitary productsは低所得層でも買える生理用ナプキンの製造・販売を行い、若年妊娠したシングルマザーの貧困の解決を目指す(写真提供:ボーダレス・ジャパン)

田口さん:ボーダレス・ジャパンはミャンマーのリンレイという村で、オーガニックのハーブを栽培する事業を行っています。その土地で頑張れば得られる収穫量を、その一家が食べていけるだけの価格、希望小売価格ならぬ農家希望価格で買い取っているのですが、ある農家の奥さんに「うちの夫は怠け者だと思っていた」と言われたことがあります。
ボーダレス・ジャパンと仕事をする以前は、朝10時に畑に出かけて昼12時には帰ってきていたそうです。ところが今は、朝早く弁当を持って畑に出かけ、収穫量を増やすために堆肥の研究などもして、帰宅は夕方遅くなってからだそうです。
頑張れば報われる環境が整ったことで、頑張るようになったのです。男性の肩を持つつもりはありませんが、そんなこともあったなと思い出しました。その人たちが本当に持っている能力をいかに発揮させるかも、重要な社会課題だと思います。

池上:やってあげるのではなく、やりたくなるような環境を用意するということですね。今から15年ほど前にアフリカでのJICAの活動を取材したときも、支援先の人たちは「援助ではなく投資をしてほしい」と言っていました。そして一緒にリターンを得ましょうと。

田口さん:あげるのではなく貸す、という姿勢が大切だと思います。

池上:返済しなくてはならないというプレッシャーが良い方向に働くのですね。日本も戦後、世界銀行からお金を借りて東海道新幹線を整備しました。

田口さん:返すという前提が、事業を持続可能にすると思います。僕らは日本のODA(政府開発援助)に感謝しています。いろいろな国でパートナーとして事業をしていると、現地の人たちから日本のODA、日本人への感謝とリスペクトを感じるからです。「あの橋は日本が造ってくれたんだ」とか、その地域の人は本当によく知っています。

池上:ラオスの山間部へ行ったときも、橋のたもとに、この橋はピープル・オブ・ジャパン、日本の人々の援助によって造られましたという文言と日の丸が刻まれていました。

田口さん:先輩方による国際協力のおかげで、僕ら日本人のビジネスパーソンは仕事がしやすくなっています。

池上:そうした財産も生かしながら、これから日本はビジネスを通じて、どのような国際協力をしていけるでしょうか。

小木曽さん:少し前に、アジアの女性向けのマイクロファイナンスへの投資を担当したことがあります。

池上:マイクロファイナンスとは、ちょっとしたビジネスを始めるための少額を投資するものですね。

小木曽さん:デフォルト率(債務不履行率)が低く、金利も高い人気のあるファンドなのですが、当時はまだ知られていなくて、日本の金融機関がなかなか加わってくれませんでした。しかし、そのときに、JICAとJBIC(国際協力銀行)がジュニア投資(資産保全性が低く保有期間が短い)を引き受けてくれたことで、シニア投資(資産保全性が高く保有期間が長い)に生命保険会社と企業年金が参入してきてくれました。いわゆるブレンデッド・ファイナンスの呼び水となってくれたのです。政府がこうした投資の場面で特別な役割を果たすことは、インパクト投資に関心を持つ国内の企業の背中を押すことにもなります。ここには大きなポテンシャルがあると感じています。

池上:田口さんはどのようなところにポテンシャルを感じますか。

浄水プロジェクト
笹川平和財団でミャンマーの浄水プロジェクトに携わっていた頃の小木曽さん (写真提供:小木曽さん)

田口さん:いろいろな場所へ行って感じるのは、日本人の優秀さです。大抵の日本人は「普通に」仕事の話ができます。一方、これは基礎教育の影響なのかもしれませんが、普通に仕事の話ができる人が少ない地域もあります。なので、日本企業が進出して、現地の人と一緒に仕事をするということは、自社のメリットになるだけでなく、現地の人の仕事のレベルを引き上げ、その国の国力を引き上げることにつながります。
その意味では、海外協力隊経験者にポテンシャルを感じます。彼らは現地の人とのコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めるプロフェッショナルです。ボーダレス・ジャパンは、JICA海外協力隊の帰国後の起業支援活動を始めましたが、彼らが持つノウハウがスタートアップ創出につながることを期待しています。

池上:私のNHK時代の後輩記者が、単身カンボジアに移り現地の人とコットンを育てるところからアパレル事業を始め、ようやく軌道に乗せたのですが、読み書きができなかった社員にイチから仕事を教えたら、よそから引っこ抜かれてしまったとか。

田口さん:そうそう、分かります。

池上:最初は嘆いていました。

田口さん:でもそれは、いいことなのです。僕らが払える以上の金額を提示されてヘッドハントされることは、彼ら彼女らにとっていいことです。

池上:ヘッドハントされるような人材の育成という形で貢献できたわけですね。

小木曽さん:私たち日本人にとっても途上国で働く良さがあります。私は日本から出て途上国に行くと気が楽になるなと感じていました。同調圧力もないですし、自分らしくあればいいんだと実感できます。そういった環境に身を置くことで自分の才能に気付き、開花させる人も多いはず。特に若い人に、それを実感してほしいです。