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「コメどころタンザニア」誕生の秘密
アフリカ最高峰のキリマンジャロ山、アフリカ最大の湖・ビクトリア湖の南側に位置するタンザニアでは、水資源が豊富な地域が全国に点在しており、農業が盛んです。雇用の67%を農業従事者が占めていて、国内総生産(GDP)に占める農業の割合は23%に上ります。
かつてはアフリカの最貧国のひとつであったタンザニアは稲作によって大きく変わりました。タンザニアのコメは品質が高く、輸出金額の30%を占める一大作物となっています。
タンザニアの農業の強さの理由を、同国農業省農業研修・研究局局長代理のゴッドフレイ・エドワードさん、作物モニタリング・食料安全保障局副局長のアラディウス・カテガノさん、機械化局エンジニアのファディリ・ンガズィジャさん、国家灌漑(かんがい)庁(NIRC)のペトロ・ラワイ・サルワトさんに聞きました。
池上:ロシアによるウクライナ侵攻によって、タンザニアの食料事情はどのような影響を受けていますか。
エドワードさん:近隣には危機的な状況におかれた国もありますが、現時点でタンザニアの食料事情に大きな影響は及んでいません。確かに燃料や肥料の値段は上がっていますが、安全で栄養のある食料が国民に行き渡っています。その一因に近年、タンザニアでコメの生産量が増え続けていることがあると思います。
タンザニアでコメは、メイズ(トウモロコシ)と並ぶ主食のひとつです。コメも主力作物のひとつで、自給率は100%を超えています。しかし、10年ほど前までは国内需要に生産が追いつかず、輸入に頼っていたといいます。約10年で何が起きたのでしょうか。
アフリカでのコメの生産量を倍増させることを目的に、日本のJICAと国際NGOによってアフリカ稲作振興のための共同体、通称CARDが立ち上がったのは2008年のことでした。
サブサハラアフリカの23カ国を対象としてスタートした際のCARDの目標は、アフリカ全体のコメ生産量1400万トンを10年間で倍増させることでした。タンザニアもCARDに参加し、自国のコメ生産量の倍増を目標に掲げました。
「コメを育てる」と言っても、どのような環境で育てるのか、どんなコメを育てるのか。アフリカでも国によって違いがあります。コメというと水田という印象がありますが、畑でもコメは育ちます。
水田で育つ品種は水稲、畑で育つ品種は陸稲として区別されます。その違いは、生産性と味に表れます。一般的に、水稲のほうが陸稲よりも生産性が高く、また、味もよいとされています。
私は2009年にタンザニアの隣国・ウガンダで、ネリカ米と呼ばれるコメを育てる現場を取材したことがあります。ネリカ米とは、New Rice for Africaの略。アフリカで育てやすいように開発された陸稲です。灌漑が進んでいない地域では、水稲という選択肢をとることが難しいのです。
池上:タンザニアではどのようなコメを作っているのですか。
カテガノさん:TXD306という品種です。収量が多く、香りが豊かで味がよいという特徴があります。
池上:国外に輸出もしているのですね。
ンガズィジャさん:東アフリカではコメが主食として食べられるようになっています。ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、それからこれまではトウモロコシを主食としてきたケニア、さらには遠く離れたベルギーにも輸出しています。
品質の高いタンザニアのコメは高級食材として海外に売れる作物として重宝されています。タイやインド、パキスタンのコメと比べて価格競争力も非常に高いのです。
実はタンザニアでは70年代から灌漑設備を整備していました。目的はコメの生産量の増加です。日本の支援により、まずは一部地域で灌漑水田を増やして知見を蓄え、90年代からその成果をタンザニア全土に拡大しています。
タンザニアにとってCARDは、そうした下地があったうえでのチャレンジでした。
CARDが目指したのは、耕作面積拡大に頼らない増産です。単純に水田の面積を2倍に広げれば、収穫量も2倍に増えますが、それだけではなく、種子の改良や、より栽培環境に適した品種の選定、農家の栽培技術を上げることなどで、耕作面積を増やしたり人手をさほどかけたりせずに収穫量を増やすことを試みました。
こうした地道な取り組みが、「なぜタンザニアがロシアのウクライナ侵攻で食料危機に見舞われなかったのか」に対する答えです。タンザニアはそのノウハウをアフリカの他国に伝えるための研修事業も行うなど、今では稲作が重要な外交の手段になっているといいます。
2018年までのイニシアティブであったCARDは生産量倍増という目標を達成し、2019年からは第2段階である、CARD2が始まっています。アフリカでのコメの需要が生産量の増加を上回る勢いで伸び続けているので、さらなる増産が必要だからです。対象国も23カ国から32カ国に増え、2030年までに5600万トン生産という目標を目指しています。2008年に比べると4倍ということになります。
タンザニアでは今後、どのような手段で増産を考えているのでしょうか。
池上:生産量を増やすため、これからはどのような取り組みをしていきますか。
サルワトさん:灌漑エリアの拡大を検討しています。タンザニアには、灌漑可能な土地が2700万ヘクタールありますが、現在まで整備されているのはそのうちの2.5%に当たる72万ヘクタールにとどまっています。2025年までにこれを120万ヘクタールに拡大する計画です。
エドワードさん:生産量を増やすことに加えて、いかに高く売っていくかという発想で戦略をたてるようになっています。収入が増えることは農家にとって大きな励みです。
CARD2では、RICEアプローチが導入されています。
RICEとは、英語のコメという意味にもなりますが、ここではResilience=回復力、Industrialization=産業化、Competitiveness=競争力、Empowerment=エンパワーメントの頭文字です。気候変動や人口増に負けないコメの生産と供給システムを構築し、民間セクターと協力してコメ作りの様々な工程で産業化を推し進めることで、輸入米に負けない競争力をつけ、農家を含めすべての農業従事者の暮らしを潤そうというわけです。
質の高いものを作り、それが高く売れれば、働く人の意欲が高まり、さらなるスキルアップを目指すことにつながります。
実はタンザニアでも、若者の農業離れが問題となりつつあるそうです。高学歴の若者ほど、農業よりもITなどの産業に関心を持つことが多いためです。農業を職業としても、産業としてもさらに魅力的なものに育てていく必要があります。