池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
池上彰
第4章

共創が開く 
持続可能な未来

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課題解決には「お金」が必要

課題解決には「お金」が必要

第3章まで、ウクライナへの支援を中心に、日本の様々な国際協力の事例を紹介してきました。ロシアによるウクライナ侵攻、さらには中東問題と、社会は混迷する一方です。日本は、そして自分は「何ができるのか」と考えている方は多くいらっしゃるでしょう。
開発途上国の課題解決を担うのはもはや行政ばかりではありません。民間企業や金融機関、大学・研究機関やNGOなどがそれぞれの得意分野を生かして共に活動する「共創」が進んでいます。
そこで4章は、共創の実例として、社会課題をビジネスの手法で解決する、ソーシャルビジネスで注目のおふたり、小木曽麻里さん、田口一成さんにお話をうかがっていきます。

お三方トップ
写真左から、ボーダレス・ジャパン田口一成代表取締役社長、池上彰、SDGインパクトジャパン小木曽麻里共同代表取締役(写真:川田雅宏)

池上:早速おふたりに、自己紹介を兼ねてどんな事業をしているのか、お話しいただきましょう。まずは、SDGインパクトジャパンの共同代表取締役の小木曽麻里さん。ESG(環境・社会・企業統治)の視点から社会にインパクトを与える「インパクト投資」のファンドを運営され、社会課題解決に取り組む事業に投資家の資金が流れる仕組みをつくっています。
そもそも、インパクト投資とは、普通の投資とどのように違うのですか。

小木曽さんプロフィール
SDGインパクトジャパン共同代表取締役・小木曽麻里(こぎそ・まり)さん(写真川田雅宏)
東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に7年間勤務。退職後、米タフツ大学で修士課程修了。世界銀行資本市場部、世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京代表を務める。2017年には笹川平和財団で国内初のジェンダーレンズ投資ファンドを設立。19年、ファーストリテイリンググループのダイバーシティ担当部長および人権委員会事務局長を歴任。21年から現職

小木曽さん:通常、投資の目的は収益のみなのですが、インパクト投資は、収益に加えて社会や環境にポジティブな変化を起こすことを目的にしています。
例えばSDGインパクトジャパンでは、食物廃棄物を資源に変えたり、培養肉を開発したりするフードテックや、ロボットやAI(人工知能)などを活用した農場管理などアグリテックに投資するファンドを運営しています。脱炭素やフードロスの削減、土壌の回復や安全な食糧の確保を可能にする技術を持つ新興企業を見つけて投資することは、社会課題の解決につながり、かつ、ビジネスとしても大きな可能性のある注目分野です。

池上:大学では環境を学び、世界銀行で長年、国際協力に携わってこられたのですよね

小木曽さん経歴紹介
上)日本長期信用銀行勤務時代(右端
下)世界銀行時代、カザフスタンのインフラプロジェクトに関わる写真提供小木曽さん

小木曽さん:今の仕事の原点は学生時代に途上国を旅したことにあります。現地の人たちの笑顔が輝いていて、「日本ではこんな笑顔を見たことがない。いつか彼らと一緒に仕事がしたい」と思い、日本の金融機関を経て世界銀行に入りました。ただ、当時の世界銀行には企業出身者が1割もおらず、「民間企業は違う生き物」という認識に驚かされました。民間企業と一緒に動くことで国際協力は進むのに…と。実際、インクルーシブ・ビジネスやBOPビジネスが流行し始めた時期で、日本の複数の企業と組んで途上国の課題解決のプロジェクトを実現できました。一方で、すごくいいプロジェクトでもうまくいかない現実も見てきました。

池上:なぜでしょうか。

小木曽さん:お金が回らないからです。新自由主義を唱えた経済学者のミルトン・フリードマンは「経済が成長すれば、トリクルダウンによってお金は社会の最貧層まで流れる」と主張しましたが、何もしなかったら社会課題にお金は流れていきません。お金に「役割」を持たせたい、意思ある投資を促す仕組みをつくりたい。その思いで、2021年にSDGインパクトジャパンを設立しました。

池上:社会にインパクトを起こす投資だからインパクト投資というわけですね。
ボーダレス・ジャパンの代表取締役社長、田口一成さんも自己紹介からお願いします。ボーダレス・ジャパンは社会起業家を支えるプラットフォームで、現在世界13カ国で、48のソーシャルビジネスを展開し、グループ全体の年間売上高は75億円超、従業員は1471人。田口さんが最初に社会起業家を目指したのは大学2年生のときだそうですね。

田口さんプロフィール
ボーダレス・ジャパン代表取締役社長 田口一成たぐちかずなり)さん写真川田雅宏
福岡市生まれ。早稲田大学在学中にビジネスを学ぶために米国の大学に留学。2004年に商社のミスミ(現ミスミグループ)に入社。25歳でボーダレス・ジャパンを創業。ビジネスを通した貧困問題の解決方法を模索し、ソーシャルビジネスにたどり着く。27歳でソーシャルビジネスに特化した事業会社へ。社会起業家が集う「プラットフォームカンパニー」となる。現在は「貧困問題」「環境問題」「障害者差別」「耕作放棄地問題」など社会問題を解決する48のソーシャルビジネスを世界13カ国で展開

田口さん:栄養失調でおなかが膨らんでいるアフリカの子供たちをテレビで見て、これぞ自分の人生をかける価値がある、この子たちの救済に人生を使おうと思いました。ところが現場を知りたくてNGOの方に会いに行ったら、「本気で貧困問題を解決したいのなら、ここには来ないほうがいい」と言われました。

池上:どういうことでしょうか。

田口さん:寄付金や助成金頼りだと、出資者の意向に左右される。「お金を自分でコントロールできるようにならないとダイナミックで継続的な取り組みは難しい」と。彼の個人的な意見ではありますけれどね。こんな素晴らしいことをしているのにお金で困っているのか。ならば僕はビジネスの側からアプローチしようと決めました。

池上:「お金の問題か、では諦めよう」ではなく「お金が問題か、では取り組もう」なんですね。

田口さん:短絡的なのです(笑)。ビジネスの勉強をするために米国の大学に留学しましたが、勉強よりフェアトレードの茶葉を使うカフェでのボランティアに夢中になりました。帰国後、途上国の小規模農家から茶葉を輸入して同様のカフェを始めたいと、ベンチャーキャピタル(VC)を回ったら「ビジネスモデルは素晴らしいから出資はできるが、農家を助けるのはもうかってからやりなさい」と。

池上:国際協力はビジネスでもうかってからだと。

田口さん:それは僕のやりたいことではないから、出資はお断りしたのですが、一方で「確かに自分はビジネスを分かっていないな、勉強が必要だ」と。商社のミスミ(現ミスミグループ)の面接で「2年後には辞めます」と言って入社しました。

池上:受け入れてくれた会社もえらいです(笑)。