池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
池上彰

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誰が日本を助けてくれるのか

誰が日本を助けてくれるのか

日本がこれまで支援してきたアジアやアフリカの国々は、冷戦時代には第三世界と呼ばれていました。西側でも東側でもない、第3のポジションという意味です。1955年にインドネシアのバンドンで開かれた第1回アジア・アフリカ会議、通称バンドン会議の場で、参加した29カ国が反帝国主義、反植民地主義を共通項に、西にも東にもつかない第三世界として連帯することを約束したのです。この国々が最近はグローバルサウスと呼ばれ、国際社会で存在感を増しています。

国連
2023年2月、国連総会でロシア軍の即時撤退などを求める決議案の採決が行われた

例えば、2023年2月、国連総会でロシア軍の即時撤退などを求める決議案の採決が行われました。賛成したのは193カ国中、“西側”を中心とした141カ国です。
反対したのは当事者であるロシアのほか、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、マリ、ニカラグア、シリア。反対した7カ国のうち2カ国がアフリカの国です。
棄権したのは中国など32カ国で、うち、南アフリカ、モザンビーク、スーダン、ウガンダ、アルジェリアなど16カ国がアフリカの国でした。東南アジアはインドのほか、ベトナムやラオス、モンゴルなど7カ国です。
またアフリカのタンザニアやカメルーン、セネガルは無投票でした。

ロシアを支持する、あるいは、ロシアを非難しない理由が分からないという人もいるかもしれません。
しかし、例えば南アフリカにとって、西側はアパルトヘイトという差別政策を推し進めた当事者であり、ロシアの前身であるソ連はそのアパルトヘイトへの反対運動を支えてくれた恩人です。
かつて欧州の植民地だったアフリカの国の中には、ロシアに反するということは、ロシアの敵である欧州を利することになるので受け入れがたいという感情もあります。アフリカあるいは東南アジアと一言で言っても、それぞれの国にはそれぞれの歴史と事情があるのです。

一方で、東南アジアやアフリカの各国は、それぞれの事情を乗り越えて、連帯して動いてもいます。
2023年6月、対ロシアの決議で棄権や無投票を選択した南アフリカやウガンダ、セネガル、賛成したエジプトやザンビアなどアフリカ7カ国の代表団が、和平を呼びかけるためにロシアとウクライナを訪問しています。国連決議では一致しなかったものの、アフリカとしての共通のスタンスと存在感を示したことになります。

2023年9月、ASEAN諸国のほかロシアや日本、米国、中国など18カ国の首脳が参加して行われた東アジア首脳会議で採択された共同声明では、ロシアによるウクライナ侵攻には触れていません。しかし、ASEANが発表した議長声明では「ほとんどのメンバーがウクライナへの攻撃を強く非難」したとされています。

さあ、今後、もしも国際社会で日本に深く関係する決議が行われることがあったとしたなら、アジアやアフリカの国々は、日本の味方をしてくれるでしょうか。

緒方さん
講演するJICA理事長時代の緒方貞子さん(撮影は2011年)

国際協力には「そんなことをするお金があるなら国内で使え」という批判がつきものです。対象が、日本から遠く離れたアフリカであればなおさらです。2010年2月、私は当時JICAの理事長だった故緒方貞子さんに、そうした声をどう思うかと尋ねたことがあります。

緒方さんは、困っている国を助けるのは当たり前だと即答し、さらに「それでも、そうした疑問を持つなら『グローバル化を避けては通れないから』というのが答えです」と続けました。グローバル化によって世界はつながっている、だから「先進国であっても、他の国に頼らなければ生きていけません。日本はこれまでアジア圏での共存共栄を考えてきましたが、その範囲は世界に広がっています。グローバル化とはそういうことです」とおっしゃっていました。

マグロ
2010年、マグロ禁輸案の否決に日本の漁業関係者は安堵した

緒方さんがそう指摘した翌月、実際に、日本は多くの味方のおかげで助けられてもいます。2010年3月に行われた第15回ワシントン条約締約国会議では、米国やEUが賛成の意向を示していた大西洋クロマグロの国際取引を禁止する案が可決される見通しでした。しかし、日本が多くの国に反対を呼びかけ、最終的には否決されました。もし可決されていたら、当時、大西洋クロマグロの約8割を消費していた日本の食事情は変化を余儀なくされていたでしょう。

さて、アフリカ、東南アジア、そして世界と日本の関係は、今後、どうなっていくのでしょうか。

東南アジアにおける日本の信頼度の高さについては前述した通り。また、アフリカに対しては、米国やロシアが関心を失った時期も支援を拡大してきたことにも触れました。

しかし今、それぞれの地域で支援に当たっている日本人たちは、日本が忘れられてしまうのではないかという危機感を抱いています。支援額が年々減っていること、対照的に中国の存在感が高まり、ASEANでは域内協力も始まっていること、特にアフリカでは日本企業の進出が他国に比べて遅れていることなどが原因です。

これまでの支援で積み上げてきた信頼を無にしないためにも新しいアクションが必要です。これからの世界の課題解決に求められるのは、行政と民間企業、大学・研究機関やNGOなどがそれぞれの得意分野を生かして共に活動する「共創」です。
次回第4章では、「共創」の一例として、社会課題をビジネスの手法で解決する「ソーシャルビジネス」で注目のおふたりと未来の国際協力について語り合っていきましょう。