池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
池上彰

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社会課題は世界の「伸びしろ」

社会課題は世界の「伸びしろ」
お三方

池上:国際協力をはじめとした社会課題の解決に興味はあるけれど、やりたいことが見つからない、見つかったとしてもどうしたらいいか分からないという人もいます。田口さん、ボーダレス・ジャパンは“やりたいこと持ち込み会社”だと言っていましたね。やりたいことの見つけ方、その事業化のためのヒントを下さい。

田口さん:テクニカルなことを言うと、課題だけを見ていても前に進みません。課題というのは原因があって生じるものなので、僕らが事業をつくるときには必ず原因を探りに行きます。原因が分かると、やらざるを得なくもなります。

SDGIJ実績例
(上)SDGインパクトジャパンが世界最大級のアグリ・フードテック特化型VCと組んで開催した「ジャパン・アグリ・フードテック・ミートアップ2023」の表彰式
(下)SDGインパクトジャパンが手掛けるモルドバのバイオエネルギー工場の写真。穀物残渣(ざんさ)を再利用して天然ガスを代替するエネルギー生成を目指す(写真提供: SDGインパクトジャパン)

池上:課題ではなく原因を探す。それから?

田口さん:事業化に当たっては、ソーシャルコンセプトと僕らが呼んでいる社会づくりの設計図をつくります。具体的には、対策となるソリューションを考え、そのソリューションをビジネスモデルに落とし込みます。

池上:例えばどんな具合でしょう。

田口さん:ストリートチルドレンが増えていることが課題だとします。原因はいくつもあると思いますが、例えば、家に居場所がないことだとしましょう。であれば、居場所としてのシェルターをつくることがソリューションになります。では、シェルターをつくりそれを運営していくことがビジネスになるかというと、多くの人が難しいと感じるでしょう。では、シェルターの運営受託というビジネスはどうでしょうか。今、多くの企業はCSR(企業の社会的責任)のための予算を確保しています。そうした企業から、その企業の名前の付いたシェルターの運営を委託してもらう。これならビジネスになりそうです。

池上:なるほど。誰がお金を払うのかを考えるのですね。

田口さん:そうです。企業からすると「シェルターを運営しているので寄付してください」と「社名の付いたシェルターの運営を受託するので、委託費を払ってください」とでは全く異なります。

池上:これは大きなヒントです。小木曽さんはどうでしょうか。

小木曽さん:今のお話を逆の立場から見ると、企業に在籍しながらソーシャルビジネスにも関われる機会が増えているということになります。日頃から社内で「ソーシャルビジネスをやってみたい」と周りに言っておけば、そうした機会に情報が入りやすく、その部署に行くチャンスも生まれやすいと思います。特に最近はソーシャルビジネスの幅が広がっていて、例えば、製造業ならサステナブルな調達や、人権に配慮したサプライチェーンの構築が求められています。企業の中にいながら、ソーシャルビジネスに関わることができる時代になってきています。

田口さん:起業するにしても、週末起業でもいいのですよね。

小木曽さん:いいと思います。実は、副業やインターンでソーシャルビジネスに関わりたいという人も多いのです。

田口さん:僕らも今、日本のビジネスパーソンに世界各地の工場や農家を見てもらう機会を設けようと考えています。それは、実際に現場を知ってもらってから、その工場や農家に何を発注できるか、それをどうやって“自分の”ビジネスにつなげるかを考えてもらい、行動に移してもらうためです。

池上:自社のビジネスではなく、自分のビジネスですね。

田口さん:そうです。最初の一歩のための小さなパッケージを用意できたら、始められる人が増えると思っています。

小木曽さん:社会課題の解決は困っている人のためだけのものではなく、自分たちがハッピーになるため、自分を生かすための行動だという認識に変わりつつあります。ですから、多くの人が身近なところから自分の力を発揮できるようになれば、楽しく社会課題を解決していけると思います。

BJ社長会議
ボーダレス・ジャパンの“カンパニオ”が集う社長会議(写真提供:ボーダレス・ジャパン)

田口さん:最近、ボーダレス・ジャパンではステートメントという、パーパスのようなものを初めてつくりました。「SWITCH to HOPE 社会の課題を、みんなの希望へ変えていく。」です。社会課題という言葉には「困難」といったイメージが付きまとっているので、社会課題とはいずれみんなの希望に変わるポテンシャルである、希望の裏返しであると言いたいのです。

池上:現在、人口増加率日本一の千葉県流山市にはかつて働く親が保育園に子供を預けに行くのが大変だという課題がありました。そこで、流山市は、親が保育園ではなく出勤で使う駅に子供を連れていけば、市が子供を一時的に預かり、駅から保育園に送り届けるという仕組みをつくりました。今では子育てしやすい街として有名ですが、こうした取り組みが功を奏している。そこにあったのは課題ではなく、子育てしやすい街になるための伸びしろだったというわけです。

BJバングラディシュ
バングラデシュではスキルがない就労困難層が「仕事と夢」を持てる社会を目指す事業を行う(写真提供:ボーダレス・ジャパン)

田口さん:そうです、まさに世界は伸びしろだらけです。

小木曽さん:私も、日本のジェンダーの状況についてはいつも「伸びしろしかない」と言うようにしています。

池上:その伸びしろを伸びしろのままにしないためには、資金面以外ではどんなことが必要でしょうか。

田口さん:みんながソーシャルビジネスに関わる社会は素晴らしいと思っていますし、自分らしいペースで自分らしくやる人が増えることが重要だとも思っています。一方でボーダレスのカンパニオには、むちゃくちゃ本気でやりたい人を小さく終わらせないための仕組みがある。伸びしろが大きく伸びるか否かは、本気でやるかどうかです。人間はどういう意思で生きるかで決まります。精神論ですみません。

小木曽さん:何をしたいか、どこへ行きたいかがしっかりと自分の中に根付いている人が、伸びしろを希望に変えられるのだと思います。根底がぶれなければ、つらくても長く続けられますし、成功の確率も上がります。特に、今は先が見えにくい世の中です。社会の仕組みが大きく変わるような変化の最中にあります。この状況でビジョンを持つのは難しいことですが、トライアル・アンド・エラーを重ねながらも目指すものを持っていることが大切かなと思います。

お三方 お三方

おふたりの話から、何を感じられたでしょうか。ロシアのウクライナ侵攻、中東問題、米中の対立など世界の不確実性が高まる中、「これからどうなるのだろう」と不安になるのも仕方ありません。しかし、それだけではあまりにも受け身です。

危機の機は機会の機です。そこに新しいビジネスチャンスを見いだすこともできます。ピーター・ドラッカーは「未来を予測する一番いい方法は、自分で未来を創ることだ」と言っています。身近なところから「どうなるのだろう」ではなく「こうしていこう」と主体的に考え、立場を超えてつながりながら一緒に解決していくことが、これからの時代には必要です。

この連載では、当事者だけでは解決できない世界の課題解決に、日本が共に取り組む様々な活動を紹介してきました。世界と日本、そして自分がつながっていることを感じていただけたのではないでしょうか。
世界の未来を自分で創る。それは日本の国際協力にも通じる発想だと思います。

お三方