池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
池上彰

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日本が反政府組織を支援した理由

日本が反政府組織を支援した理由
フィリピン
ミンダナオ島
フィリピン・ミンダナオ島

7000以上の島からなり、1億人以上が暮らすフィリピンで、2番目に大きな島がミンダナオ島です。
このミンダナオ島にイスラム教が伝わったのは13世紀といわれています。以来、ミンダナオ島ではイスラム教徒が多く暮らしていましたが、第2次世界大戦後に他の島からキリスト教徒が入植し、対立が発生します。
その対立は1970年、フィリピン政府とイスラム教徒との間の紛争に発展しました。その結果、イスラム教徒が多く暮らすミンダナオ島のバンサモロ地域は、首都マニラなどを中心とした経済発展から取り残され、国内で最も貧しい地域となってしまいました。

その後、2011年に日本で行われた政府とイスラム教徒側との非公式対話、2014年の包括和平合意を経て、イスラム教徒によるバンサモロ暫定自治政府が誕生したのは2019年、紛争開始から50年目の出来事でした。
私は2019年3月、発足したばかりのこの暫定自治政府の首相に就任したムラド・イブラヒムさんにフィリピンでインタビューしました。そのときムラドさんが繰り返し口にしていたのは、未来への期待と日本への感謝の言葉でした。

実は和平への道のりには、日本が大きく関与していたのです。
2006年に国際停戦監視団(IMT)に職員を派遣して以降、フィリピン政府とイスラム教徒側の両者と連携して、非公式対話の場を設けました。さらに、イスラム教徒側に対して、いずれ自治政府が成立した際には必要になる人材の育成や、産業を支える営農の支援などを行い続けたのです。

こうした支援は、日本にとっても挑戦でした。
それまで主に取り組んできた道路を整備したり橋を造ったりするような支援とは異なりますし、何と言っても、政府と対立する組織を支えることでもあるからです。

ミンダナオ島におけるイスラム教徒は反政府とみなされ、50年近くもの間、自国の政府から無視され、迫害されてきた人たちでもあります。それでも、日本は丁寧に信頼関係を築いて、長い道のりを共にしてきました。

バンサモロ暫定自治政府は現在、2025年に予定されている正式な自治政府の設立に向け、準備を進めています。
その一環で、暫定自治政府の要人たちが2023年9月、日本を訪れました。視察団の一員として来日した農水産農地改革大臣のモハマド・ヤコブさんに話を聞きました。

ヤコブさん
バンサモロ暫定自治政府(BTA)の農水産農地改革大臣(MAFAR)、モハマド・ヤコブさん(写真:清水真帆呂)

池上:今回の来日の目的を教えてください。

ヤコブ大臣:ひとつは議院内閣制について学ぶことです。私たちの自治政府は地域を構成する多数の民族による民主的自治を推進するために議院内閣制をとることが決まっていますが、フィリピンは大統領制ですし、東南アジアを見渡しても手本となるような大国がありません。ですから日本から議院内閣制について学びたいのです。もうひとつの目的は、日本の農業への取り組みを、私たちの主産業である農業の参考にすることです。

池上:広島を視察されたそうですね。

ヤコブ大臣:広島の名産であるレモンの生産の現場を訪れ、スムーズに加工や市場につなぐ仕組みについても学ぶことができました。また、スマート農業への取り組みも視察しました。私たちが先進技術をすぐに導入するのは難しいと思いますが、目指す姿として大いに参考になりました。
広島には原爆が投下された経験がありながら、多くの関係者の努力によって復興を遂げてこられたことも実感でき、多くの気付きを得ました。それらを我々の施策に生かしていきたいと考えています。

池上:2019年に暫定自治政府ができてからこれまで、どのような変化がありましたか。

ヤコブ大臣:2018年には51%だった貧困率が39%まで改善しました。また、コメやトウモロコシの生産量も増えていて、フィリピン内での地域別生産量ランキングも向上しています。

池上:今、ウクライナでは戦争による被害が出ています。みなさんの平和構築の経験を生かせはしないでしょうか。

ヤコブ大臣:まず戦争についてはとても悲しい気持ちでいます。近代化した社会での戦争はあってはならないことです。
私たちの経験がどのように生かせるかは分かりませんが、私たちの和平プロセスでは日本政府とJICAが不可欠な役割を果たしてきました。その中でJICAの落合さん(落合直之氏・元バンサモロ暫定自治政府首相アドバイザー)からもらった有用なアドバイスに「対話する以上の最善策はない」というものがあります。同じテーブルで話し合うことでしか、和平は達成できないと思っています。