池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
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暑い島国なら海水で発電できる

暑い島国なら海水で発電できる
パラオ共和国は太平洋島しょ国のひとつ、人口約1万7000人の国

ロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギー価格も高騰させました。欧米が世界第3位の原油産出国であるロシアへ経済制裁を行った結果、供給量が減少したからです。
しかしこのことが、現在多くの国が進めている再生可能エネルギー導入に拍車をかけることになるかもしれません。中でもユニークな試みが、大洋州のパラオ共和国(以下、パラオ)で進められています。

コロール島
パラオ共和国コロール島の街並み
田中部長
JICA社会基盤部の田中啓生部長(写真:川田雅宏)
化石燃料への依存度が高い東南アジア

パラオは、フィリピンの東部にある大小300以上の島からなる島国です。第2次世界大戦で激しい戦闘が繰り広げられたペリリュー島もそのひとつです。総面積は屋久島と同じくらいで、人口は約1万7000人。主な産業は観光です。
電力の約9割を、軽油を燃やすディーゼル発電によってまかなっています。

電力源を、輸入した化石燃料に頼っているのは大洋州全体、また、東南アジアの特徴でもあるのですが、パラオではウクライナ危機後、軽油そのものと輸送費の高騰のあおりを受けて、2015年比で電気代が倍以上に跳ね上がっています」と言うのは、JICA社会基盤部の田中啓生部長です。

パラオを含む大洋州の国々では現在、日本の支援により、再生可能エネルギーへのシフトやロスの少ない送配電網の整備を目指した、グリーンパワー・アイランド・プログラムが進行中です。

再生可能エネルギーといえば、真っ先に思い浮かぶのが太陽光発電でしょう。パラオは年間の日照時間が長く、太陽光発電に適しています。すでにオーストラリアなどの支援によって太陽光発電所の建設が進められています。ただ、太陽光発電は雨天時や夜間は発電できないため、天候などに左右されない、より安定的な発電方式と組み合わせることが理想的です。

とはいえ、土地の高低差が少ないパラオでは水力発電は難しい。風力、バイオマスの導入も検討されたことがありましたが、なかなか進んでいません。

OTEC
久米島で実証実験が進む海洋温度差発電(OTEC)。久米島の海洋深層水発電施設とパラオの視察参加者たち(写真提供:JICA)
久米島町の海洋深層水の経済効果

そこで今、検討されているのが、海洋温度差発電(OTEC)です。

海洋深層水という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
海洋深層水とは、深度200メートルよりも深い海、深海にある海水です。太陽光が届かないため10度以下の低温で安定しています。その冷たい海水と、太陽光によって温められた表層の海水の温度差をタービン発電機により電力に変換するのがOTECで、再生可能エネルギーのひとつです。
日本では沖縄の久米島で実証実験が行われており、モーリシャスでも数年以内の実用化に向けた試行が始まっています。

OTECに適しているのは、表層海水が温かい赤道付近の地域です。パラオはこの条件を満たしています。海水を使うので、発電所は海沿いに建てる必要がありますが、パラオは島国なのでこの点も問題がありません。

問題があるとすれば、発電所の建設コストが高いことです。
ただ、夜間でも雨の日でも発電できるので太陽光発電をカバーすることができますし、海洋深層水の特長を生かした魚の養殖や飲める水づくりなど、産業を興す経済効果が期待できるのです。
海洋深層水は栄養が豊富な一方で大気に触れないため清浄。そのため、飲料水や化粧品製造、魚介などの養殖に向いているのです。実証実験が行われている久米島では、すでに人口700人中140人が海洋深層水関連の仕事をしており、その経済効果は年間約25億円に上るといいます。

OTECの視察のために久米島を訪れた、パラオ公共事業公社のマネジャー、アンソニー・ルディムさんに話を聞きました。

ルディムさん
パラオ公共事業公社のマネジャー、アンソニー・ルディムさん(写真提供:JICA)

池上:OTECにどのような印象をお持ちですか。

ルディムさん:初めて聞いたときはどんな仕組みなのか想像ができませんでしたが、今は、発電はもちろん、副次的な経済効果にもポテンシャルを感じています。パラオ公共事業公社は電力に加えて飲み水の供給も担っているのですが、OTECのために取水する海洋深層水から飲料水をつくることができれば、2月から4月にかけての乾期でも、水不足に悩まされることがなくなります。

池上:パラオで気候変動の影響を実感することはありますか?

ルディムさん:個人的には、台風が頻発するようになったと感じています。強風で送電網が影響を受けるため、電力供給が不安定になるリスクが高まります。一方で干ばつも心配です。今後も大きな干ばつが予想されています。2016年の干ばつの際は、水道の使用時間を1日4時間に制限せざるを得ませんでした。また、海面の上昇によって子供の頃に遊んでいた公園が水没してしまうのではないかという不安もあります。

池上:そうしたことが起こらないように、どのような取り組みを進めていきますか。

ルディムさん:2035年までに再生可能エネルギーですべての電力をまかなうことを目指しています。ディーゼルに依存している現状から、パラオの豊かな太陽光、さらには海洋を利用した発電へ移行することで、国外で何が起きても国民が安心して安全に暮らせるようになると思います。


このインタビューの後、ルディムさんは久米島を視察しています。


久米島視察
表層水と海洋深層水を利用したサンゴのふ化場(左)や、海洋深層水を淡水化し飲料水を製造する工場(右)で説明を受けた(写真提供:JICA)

ルディムさん:パラオの暖かさを生かした効率よい発電への期待が高まる、意義のある視察になりました。海洋深層水を使って養殖や薬品、化粧品の製造といったビジネスを展開している複数の企業も訪問しました。特にヘルスケア分野などに活用される微細藻類は、パラオにとっても魅力的な輸出品目になるでしょう。また、冷たい海洋深層水を活用することで、地球温暖化の影響による水温上昇で、エビなどの養殖にみられる収穫量減少などの問題も解決できるのではないかと感じました。


パラオでの成果は、東南アジアなど、やはりエネルギー源を輸入に頼っている海洋国へと展開されていくはずです。