池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち powered by JICA

ロシアによるウクライナ侵攻は、国際社会に突きつけられた新たな課題です。今、私たちには何ができるのでしょうか。

池上彰
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社会起業家は清貧であるべきか

社会起業家は清貧であるべきか

小木曽さん:ただ、長期的な視点で考えると、投資した側の最大の利益は目の前の金銭ではないという考え方が、少しずつとはいえ金融業界でも生まれています。それがESG投資につながり、インパクト投資にもつながっています。

池上:ソーシャルビジネスの現場で働く人の給与についてはどう考えますか。投資家への金銭的リターン、あるいは、一刻も早い社会課題の解決のためには低賃金で働くべきなのでしょうか。

田口さん:これまでのソーシャルビジネスは、従来のビジネスのオルタナティブ(代替)な存在でした。だから、給与が低いのが当たり前だと考えられてきたのだと思います。でも、本当は、ソーシャルビジネスはオルタナティブではなく、ネクストスタンダードだと思っています。そして、ネクストスタンダードの世界で優秀な人材を確保するためには、低賃金でいいと思いません。高い給与で働いてもらって、しっかり利益が出る仕組みに磨き上げられるのもソーシャルビジネスのいいところだと思っています。

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ボーダレス・ジャパングループの1社、ミャンマーの小規模農家とハーブの製造・製品化を行い、貧困の解消を目指すAMOMA natural care(写真提供:ボーダレス・ジャパン)

池上:ボーダレス・ジャパンでは、順調に給与が上がっているのですか。

田口さん:上がっています。ただ、今の日本のように経済が成熟すると、人はお金だけでは動かなくなる。お金以外の軸も重視しています

池上:とはいえ、社会課題の解決をしながら高い給与を得ることに、抵抗のある人たちもいるでしょう。NGOなどに対しては「寄付金から人件費を捻出するなんて」という声も耳にします。

田口さん:そういう声もありますね。WEBで「ボーダレス・ジャパン」を検索すると「怪しい」という言葉がサジェストされます(笑)。でも、そういうことを言う人はノイジーマイノリティー(声高な少数派)で、大半の人は理解してくれている。これは、実践者として持っておくべきマインドセットだと思います。

池上:「インパクト投資」も「怪しい」とセットにされてしまってはいませんか。

小木曽さん

小木曽さん:今のところはないと思います、気付いていないだけかもしれませんが(笑)。投資という言葉が付いていることもあってか、ビジネスとして認識されているように感じます。実際にはインパクト投資には、インパクト重視でフィランソロピー(慈善活動)色が強いものから、市場並みの収益の創出を目指すビジネス色の強いものまで、非常に多様で幅の広いアプローチがあります。

池上:インパクト創出を主な目的とするものと、収益を主な目的とするものまで、幅があるのですね。

小木曽さん:そうです。そして今、私たちが取り組んでいるのは、収益を犠牲にしないで、インパクトを創出するようなファンドが主になります。なぜなら、インパクト投資が金融商品として受け入れられるためには、収益を上げる必要があるからです。

池上彰

池上:ボーダレス・ジャパンのように社会課題を解決しながら利益を出す企業が増えると、そこへ参入する企業も、そうした企業に出資しようという金融機関も増えそうですね。

小木曽さん:それが大事だと思っています。企業も、財務指標に加えて非財務指標も見ながらマテリアリティー(重要課題)を絞り込んでいますし、ソーシャルビジネスに参入する企業や金融機関が増えることで、ソーシャルビジネスもインパクト投資も当たり前のことになっていくからです。そうなったとき、ビジネスとソーシャルビジネスの違い、投資とインパクト投資の違いは、そこに収益以外のものを求める意思があるかどうかになると思います。

田口さん:ビジネスとソーシャルビジネスは、似て非なるものです。なので、似て非なるものであることはしっかり意識していないと、ソーシャルの飾りを付けながら利益追求に突っ走るビジネスが誕生しかねません。

池上:うわべだけのソーシャルへの取り組みは、ソーシャルウォッシュなどとも呼ばれますね。環境に配慮しているふりをして実はそうではないという意味の、グリーンウォッシュといった言葉もあります。

田口さん:例えば再生可能エネルギー事業などは「これだけ二酸化炭素排出量を削減しました」と量で示すことは簡単です。それに加えて発電所建設によって環境にどんな影響があったのかなどまで含めて評価する、つまりその質をより深く評価する必要があります。ちょうど今が、ルールメークのタイミングのように思います。

小木曽さん:出ると思っていたインパクトが出ないことも、副作用のようなインパクトが出ることもあります。インパクト投資についてもインパクトウォッシュという言葉がすでにあるので、どのようにインパクトを測定するかという指標の確立、また、いかに確実性を担保するかが重要です。