Vol.8DX
日本の基幹産業、自動車業界の
DXを支えるベトナムFPT
壮大なデジタル化プロジェクトが始動
オフショア開発をはじめとしたアウトソーシング事業で急成長を続けるベトナムIT最大手のFPTソフトウェア(以下、FPT)(関連記事)。同社がいま、製造業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)支援に力を入れている。最大の注目は、製造業の雄とも言える自動車業界向けだ。
FPTとスマートホールディングス株式会社(以下、スマートホールディングス)が互いの強みを持ち寄り、製造業DXに突き進む。こんな目的で2021年に特徴的な取り組みが始動した。FPTと、自動車製造業向けにITソリューションを展開するスマートホールディングスが合弁会社FPT SMART TECHNOLOGIESを設立したのだ。スマートホールディングスはトヨタシステムズ、豊田通商、電通国際情報サービスと資本提携ならびに業務提携をしている。
FPT SMART TECHNOLOGIESへの出資比率はFPTが51%、スマートホールディングスが49%だ。主に自動車業界向けにDXサービスを提供するとしている。
DXの前段階として図面のデジタル化が必須
FPT SMART TECHNOLOGIES(FST)の中井氏は合弁会社設立の経緯について、「自動車業界向けのDXをお手伝いする際、より深い業務の理解が必要ということになり、大手自動車会社様から自動車業界に精通しているスマートホールディングスをご紹介いただいた。そこから話が発展し、合弁会社を作ることになった」と明かす。
FPT SMART TECHNOLOGIESがまず取り組むのが、図面のデジタル化だ。多くの自動車メーカーは過去に生産してきた自動車の図面を電子データとして保管していることもあるが、TIFFファイルといった画像形式などが中心だ。
画像形式だと、図面に含まれる部品などの情報をキーに検索することが難しい。製造物責任法(PL法)による安全・安心を守ることは必須である。また、過去図面を検索し新たな図面を起こす際の作業を省力化する、といったこともできない。
このような課題を解決する目的で、図面に含まれるキー情報をタグ付けすることで「意味を持つデータ」として管理しようというのが、図面のデジタル化プロジェクトだ。
図面をデジタル化すればすぐDXが行える訳ではもちろんない。だが、自動車メーカーが設計から生産、販売、保守といった一連の業務プロセスをデジタル化してDXを本格化するには、図面のデジタル化するところから始めなくてはならない。つまり図面のデジタル化はDXにとって必要不可欠な取り組みと言える。
FPT SMART TECHNOLOGIESはベトナム第三の都市ダナンに専用拠点を構え、現在70名以上体制で図面を月約1万枚のペースでデジタル化するプロジェクトを着々と進めている。
自社のAI技術を活用して開発した「AI-OCR」などを使うことにより、作業の自動化を行っている。それでも完全自動化は難しく、「人が補わなくてはならない作業は残る」(FSTの中貝氏)。人手を介する作業もダナンのエンジニアが担う。
FPTであれば高品質な人材を確保できる
世界を代表する自動車メーカーの図面のデジタル化、というDXに不可欠な重要プロセスを進めるためのパートナーとしてFPTが選ばれたのはなぜか。
最大の評価ポイントは、FPTのダナンを訪問時に目の当たりにした、自動運転向けのアノテーション、セグメンテーション、データ入力業務のBPO作業を効率よくこなしているFPTの人材の質と量だったという。FPTはオフショアの経験が豊富で、日本語を話せる技術者を多く抱える。ベトナムは日本との時差も2時間と少ないため、オンラインでのコミュニケーションも取りやすい。自動車会社向けの図面を扱えるよう人材の質をさらに高めるために継続して問題解決、改善活動などの手法を学び、現在の品質に至っている。
拠点としてダナンを選んだのは、コスト効果を高めるためだという。ダナンは首都ハノイやベトナム最大の都市ホーチミンほど人件費が上がっていない。FPT SMART TECHNOLOGIESは日本で作業するレベルの品質を維持しながらコストを30%以上削減できるとみている。
しかしながら、プロジェクトスタート当初から品質、生産性の面で目標としていた効果を得られたわけではない。
品質、生産性、コストに関して設定したKPIを達成、維持するために、スマートホールディングスのメンバーから指導を受けながら、改善に取り組んでいる。その範囲は、作業者のスキルアップを支援するだけでなく、モチベーションの維持、不良(ミス)の際の真因の特定、適切な対策の検討、同じミスを繰り返さないためのプロセス改善から横展開までマネジメント全体にまで及ぶ。
そうして、マネジメント方法や作業者それぞれの業務改善マインドの向上を図りながら、一年以上にもわたって改善をし続けてきたことによって、ようやく当初の目標以上の成果を上げることができるようになった。
FPTとFPT SMART TECHNOLOGIESは図面のデジタル化の「その先」にある需要を見据える。それはデータ活用支援だ。図面に含まれる様々なデータをビジネスに活かすための分析支援など、新たなビジネスの可能性を探る。
FPT SMART TECHNOLOGIESは自動車メーカー向けの図面デジタル化を進めることによって製造業向けのノウハウを蓄積し、将来は自動車以外の業界にもサービス対象を拡大していく計画だ。
有力な候補と考えているのが建設業界だという。「建設業で使われるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)には、自動車業界向けサービスと通じる部分がある。ノウハウを活かせる」とFSTの中貝氏は意気込む。
DXアクセラレート2024、
デジタル活用の勘所

