Vol.9メタバース
「未来のデジタル体験を創り出す」
メタバースに注力するFPTの野望
既存の遠隔コミュニケーションの限界を超えろ――。こうした意気込みで、ベトナムIT最大手のFPTソフトウェア(以下、FPT)がある技術の開発と実用化に力を注いでいる。メタバース関連だ。オフショア開発をはじめとしたアウトソーシング事業で急成長を続ける同社の取り組みに迫る。
「既存のアウトソーシングビジネスに並ぶ新たな収益源として、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するサービスの開発を進めている」。FPTのCOOを務めるチャン・ダン・ホア氏はこう話す。
ホア氏は「アウトソーシングビジネスは好調だが、多くの人員が必要だ。今はビジネスの拡大に合わせて人員を増やすことができているが、将来的にはどこかで限界がくる」と説明。未来を見据え、次なる稼ぎ頭の育成を狙う。
チン・サオ・マイ氏
稼ぎ頭の育成として注力分野の一つに、これまで自社で培ったノウハウを活かした新IT製品群akaSuiteがある。FPTが2015年から提供をはじめ、現在までラインナップの強化・拡充を続けている。現在40~60の製品がある中で、FPTが最も注力しているものの1つが、2021年10月より開発を進めているメタバース(仮想空間)を構築するためのソフトウェア「akaVerse」である。
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった「XR」と呼ばれる技術を活用し、メタバース上で社員同士や、企業と顧客のコミュニケーションを可能にする。FPTのグローバルマーケティング兼パートナーアライアンスの責任者を担うマイ氏は「コロナ禍で物理的な交流が難しい中、メタバースであれば遠隔でのコミュニケーションにおける様々な課題を解決できると考え、akaVerseの開発を決めた」と語る。
対面同様の「エモーション」が伝えられる
非対面のコミュニケーションツールである電話やメール、チャットと比べた場合、メタバースにはどのようなメリットがあるのだろうか。akaVerseプロダクトオーナーを担うタン氏は「従来から存在するツールの場合、コミュニケーションが言語だけになり、エモーショナルな要素(感情)が乏しくなってしまう。メタバースの最大の特徴は、対面と同様にエモーションのやり取りできることだ」と説明する。
ヴ・ズイ・タン氏
近年急速に利用が拡大しているWeb会議ツールと比較した場合はどうだろうか。「Web会議ツールの場合、多くの人がカメラをオフにしてしまう。社外と打ち合わせる際などは、カメラの使用を強制する訳にもいかないので、結局は言語だけのコミュニケーションになってしまうケースが多い」(タン氏)。
メタバースは「アバター」と呼ぶ自分の分身となるキャラクターを操作することもできる。同じ仮想空間を共有し、お互いのアバターを使って、音声や身振り・手振りを組み合わせることにより、臨場感のあるコミュニケーションが可能になる。
メタバースは企業内外のコミュニケーション以外にも、展示会などのマーケティングやコンサートや旅行などのエンターテインメントなど、様々な分野での活用が期待できる。マイ氏は「メタバースであれば、友人と一緒に月へ行く、といったことも可能だ。akaVerseは『Breaking Boundaries(限界を超えろ)』をスローガンに開発を進めている」と明かす。
品質、開発スピード、スケーラビリティに優れるakaVerse
akaVerseならではの強みと言えるのはどのようなところなのだろうか。タン氏は「最大の特長は品質、開発スピード、スケーラビリティの3つだ」と話す。品質については、「最も重視しており、数多くのシステムインテグレーションで培った開発手法や開発経験が生きている」。
自社開発にこだわり、様々な最新技術を柔軟に取り入れることで、開発スピードを高めている。一例として、円形ブース360度全方位に設置された複数台のカメラで人を撮影し、数分でリアルなアバターを作成するシステムがある。従来、リアルなアバターを作成する場合、3Dで映像撮影を行ってから完成までに約2週間を要していた。同システムで用いている画像変換技術は、東南アジアで初の採用事例だという。
スケーラビリティについては、拡張しやすいアーキテクチャを採用すると共に、徹底的な標準化により基盤の柔軟性を高めている。基盤を運用する人材についても、採用拡大や他部署との連携などによって今後のビジネス拡大に対応していく考えだ。大学生向けの教育プログラムを展開し、即戦力人材としてトレーニングした上で採用する取り組みも進んでいるという。
対面での信用確認にイノベーションを
akaVerseの開発チームは現在50人ほどだ。既に「ベトナムの大手銀行や日本の大手企業とのプロジェクトが進行している。ベトナムの自動車メーカーであるビンファストとはバーチャルイベントを共同実施した」(マイ氏)。今後は顧客を増やし、開発チームの体制を拡大していく。
今後の展開として、銀行振込やクレジットカード払いの際の認証プロセスや、保険会社における契約加入時の顧客との面談支援などへの適用を検討している。タン氏は「金融のような、顧客の信用を対面で判断している事業であれば、メタバース上で代替した上で、顧客体験を向上させることができるはずだ」と話す。
akaSuiteの各サービスは、社内ベンチャーのような体制で独立して進められている。akaVerseの責任者を務めるマイ氏とタン氏の肩書が「共同設立者」となっているのはそのためだ。
akaSuiteのそれぞれのサービスが軌道に乗った場合は、マネジメント・バイアウト(MBO)するケースもある。akaSuiteの責任者も務めるホア氏は「将来的な独立を勧めることで、社員はモチベーションを高く保って迅速に製品を開発する。ビジネスが成功し、MBOの際にFPTも株式を持てば両者が利益を得られる」と狙いを説明する。
若い社員のやる気を最大限に引き出し、その活力によって新サービスを次々と創出、企業や社会の課題をデジタルによって解決し、同時に人材も育成していく――。メタバースの技術やサービスを身近に感じられるデジタル社会が、すぐそこまで迫っている。
DXアクセラレート2024、
デジタル活用の勘所



