Vol.13AI
品質判定を4倍高速化!
最高AI責任者が明かす、生産現場のAI革新
オフショア開発を強みにITアウトソーシング事業で成長を続けるベトナムIT最大手のFPTソフトウェア。最近は日本企業のDX支援でも実績を重ねており、製造業では品質管理と予知保全のAIを搭載した「Intelligent Inspection(I2/アイツー)」ソリューションを展開している。I2の特徴や導入事例、FPTソフトウェアのAI戦略などについて、同社のCAIO(最高AI責任者)を務めるグエン・スアン・フォン氏に聞いた。
――自己紹介をお願いします。
私はFPTソフトウェアでAI(人工知能)の最高責任者をしており、AI/機械学習の分野で10年間の実務経験を持ちます。FPTソフトウェアではAIの研究開発ラボを3年間率いています。このAI研究開発ラボの役割は最先端のAI技術研究だけでなく、その成果を製品やサービス、ソリューションに反映させることまでを含んでいます。
具体的な研究分野としては強化学習、効率的なニューラルモデリング、コード用表現学習、音声ベースのインテリジェント検査、コンピュータービジョンベースのOCRと画像生成などがあります。
――最近はAIの進化に注目が集まっていますね。
ええ。最近はジェネレーティブAI 、中でもChatGPTが話題ですね。世の中ではその回答精度の高さに注目が集まっていますが、ソフト開発者にとっては別の際立った特徴があります。それは、事前に学習を重ねた言語モデルを容易に利用できるようになった、ということです。
従来は言語モデルを使ったシステムを開発しようとすると、多大なリソースと専門知識が必要でした。ChatGPTの登場により、ソフト開発者は優れた言語モデルを容易に利用できるようになり、企業の特定のユースケースに合わせて調整する、といったことが可能になりました。例えば、言語モデルを使って顧客や社員に向けた高度なチャットボットを作る、といったことが容易にできます。
私もAIの専門家として、ChatGPTやそのベースとなる技術である大規模な言語モデル(Large Language Model)の研究に力を入れています。
――日本でのAIの適用分野に特徴などはありますか。
日本では様々な産業分野でAIが盛んに使われています。例えば生産ラインの最適化、品質管理の向上、機械の制御といった使い道です。日本の製造業の現場では、労働環境の改善や生産性の向上が大きな課題となっていますし、今後人口減少やカーボンニュートラル実現などのチャレンジはより大きくなります。こういった状況を変えるための手段として、AIが非常に注目されています。
一方、例えばベトナムでは文章認識や言語認識、IDカードの認識、顧客のオンライン本人確認(eKYC)によく使われています。農業の分野でも活用され始めていますね。
――FPTとしてはどんな業種でのAI活用に注目していますか。
AIは様々な分野・業界で幅広く利用されているので、広くAI導入をご支援したいと思っていますが、特に注目しているのは製造業です。生産性や作業効率の向上にAIが大きな力を発揮するため、導入が進んでいます。
特によく使われているのは製品の品質管理や機器の故障や異常の検知・予知、作業員のパフォーマンス評価といったことです。日本の製造業は高い競争力を持ちます。当社のAIと日本企業の業務ノウハウを組み合わせれば、競争力をさらに引き上げられると考えています。
――FPTが製造業向けに提供しているAIソリューションについて詳しく教えてください。
製造業向けには「Intelligent Inspection」の頭文字を取った I2(アイツー)という名称でソリューションを展開しています。I2はスマートファクトリーを実現するための包括的なAIソリューションです。画像解析の「VisionAI」、音を解析する「SoundAI」、IoT(Internet of Things)デバイスやセンサーから大量のデータを収集・分析する「SenseAI」の3モジュールから成ります。
I2を使うことで、品質管理を自動化して生産時間を短縮したり、生産ラインの機器の故障を予測してダウンタイムを短縮したり、といったことが可能です。
PoC(Proof of Concept)を実施せずにすぐに生産ラインに導入できるのが特徴です。対象とする生産ラインを容易に拡大できる強みもあります。
2週間で生産ラインへの導入を完了
最高AI責任者(CAIO)
グエン・スアン・フォン氏
――I2ソリューションの活用事例と、導入効果について教えてください。
グローバルでビジネスをされている日本の自動車向け内装部品メーカーに導入していただいています。このメーカーは自動車のドアのパネルを生産しており、そこに使う部品は非常に高い品質基準が設定されています。そもそも製造業界ではマーケットのニーズに応えるために品種のデザインが頻繁に変わったり、種類が増えたりしているため、品質管理がより難しくなっています。
そこでこのメーカーはI2を導入し、人が行っている部品の不良品判定の一部を自動化しました。現時点では判定作業を完全に自動化することはできませんが、人間の作業をサポートするような形でI2を活用することで、判定のスピードが従来の4倍に向上しました。
導入が短時間で済んだこともご評価いただいています。I2を導入する際に必要なのは、AIの教師データとして用いるための数枚の正しい商品の画像と不良品の画像だけです。別途判定ルールをプログラミングする必要はありません。これはVisionAIに最新のAIモデルを搭載することで可能になっています。この事例では、教師データをもらってからI2を生産ラインに導入するまでの期間が、わずか2週間でした。
――既に日本でも事例があるのですね。日本企業の導入が拡大しそうな状況ですか。
はい、多くのメーカーの方とお話ししているところです。さらなる導入拡大を期待しています。
――他にも製造業向けの事例はありますか。
ベトナムのある大手家電メーカーでは、製品の品質改善にご活用いただいています。このメーカーはモーターを搭載した家電を作っており、品質をチェックする際はベテランの作業員が実際にモーター音を聞いて不良がないか判断していました。ベテラン作業員の人数があまり多くないことに加え、工場は機械音などが響いているため、モーター音の聞き分けが難しいという課題を抱えていました。作業員が連続して作業すると判断の精度が落ちる悩みもありました。
これらの課題を解決するために、このメーカーはI2を導入し、感音センサーを直接製品に付けて品質をチェックする方法に切り替えました。これにより、騒音などがある環境でも、リアルタイムにモーター音から良・不良を判定できるようになりました。
この事例では、正常な商品のモーター音のみをI2が学習することで、異常を検知する形を採っています。現在のエラーの認識精度は95%です。I2導入後は、ベテラン作業員の方のノウハウを取り込むための試みを続けており、近い将来100%の精度を達成できる見込みです。
――製造業以外ではAI導入が進んでいますか。
米国の施設管理での事例を紹介しましょう。この施設は美術品を保管しており、温度と湿度を適切に調整する必要がありました。人の出入りが多く、季節ごとに大きく気候が変わる地域でもあります。そういった環境の中で、近い将来の環境の変化を予測しながら、I2によって約30台の産業用エアコンを制御し、温度と湿度を一定に保つ仕組みを構築しました。
――エアコン本体も温度や湿度の調整機能を備えていると思うのですが、より高い精度で管理したということでしょうか。
そうですね、この事例で構築したシステムの目的は、温度や湿度をできる限り一定に保つことに加え、電力の効率的な利用というもくろみもありました。例えば、実際に温度が上がってから冷房を強めて温度を下げようとするより、温度が上がりそうなことを感知して冷房を強める方がエネルギーの消費を抑えられます。この施設においては、センターで取得したデータを基に分析や予測を行い、約30台のエアコンを適切に制御しています。これにより最大で約30%の電力を削減できました。
FPTのAI開発の力を世界の大手に並べたい
――FPTソフトウェアのCAIOとしての目標を教えてください。
FPTのAI開発の力を世界の大手企業と並ぶレベルまで発展させることです。そのために、世界の研究者のネットワークに参加して連帯しています。私は普段、世界的に有名なAIの研究施設であるカナダのMila – Quebec Artificial Intelligence Instituteにいます。ここでAI研究の権威であるヨシュア・ベンジオ教授の指導を受けながら、共同で研究しています。このインタビューもカナダからオンラインで参加しています。
今後はカナダでの研究の成果を、FPTのサービスやI2のような製品に還元していきます。AIはお客様の生産性向上だけでなく、FPTグループの内部プロセスを効率化するためにも活用できます。FPTの中で様々なAIのサービスや製品を活用して効果を実証し、それをお客様に展開していくという活動を続けていきます。
直近では、最初にご紹介したジェネレーティブAIを活用したAIのモデルを作り、FPTの開発者のプログラミングを支援しています。これも近い将来、新サービスとしてお客様に提供したいと思います。AIの潜在力と我々の開発力に期待していただきたいです。
DXアクセラレート2024、
デジタル活用の勘所

