DXアクセラレート2024、デジタル活用の勘所 DXアクセラレート2024、デジタル活用の勘所

「NIKKEI Digital Forum in Asia 2023」
DX

若手IT人材育成に注力するFPT
「DXやEV向けソフト開発で日本の力になりたい」

ベトナムのICTリーディングカンパニー FPTコーポレーションは、コスト競争力や技術力、人材動員力などを武器に、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援などのサービスを世界中の企業に提供している。日本企業が抱えている課題の解決にFPTが提供できること、今後の日本との協力関係などについて、チュオン・ザー・ビン取締役会長、FPTリテールのグエン・ド・クエン最高執行責任者、FPT大学のホアン・ナム・ティエン副学長の3人が講演した。

チュオン・ザー・ビン 氏
FPTコーポレーション
取締役会長
チュオン・ザー・ビン 氏

 2023年はベトナムと日本の外交関係樹立50周年であると同時に、FPTの創立35周年に当たる。ビン会長は、「ベトナムにとって日本は最も親密な関係を築いている国であり、当社にとっても最大のパートナーだ。今後も日本とより良好な関係を築き、両国の発展につなげたい」と話した。

 ビン会長は昨今の世界情勢に触れ、「世界は難しい状況にあるが、ベトナムは日本を含む18の国と包括的戦略的パートナーシップを結び、友好的な関係を築いている」と語った。直近でパートナーシップを結んだのは米国で、2023年9月にバイデン大統領がベトナムを訪問してグエン・フー・チョン共産党書記長と会談して実現した。

 中国、ロシア、韓国、インドなどとも戦略的パートナーシップを結んでいる。中国とは2008年にパートナーシップを締結し、2022年11月にチョン書記長が中国を訪問し、習近平国家主席と会談するなど、関係は良好だ。ビン会長は「ベトナムは戦争などの困難を乗り越えて平和を一番に願う国だ。そんなベトナムだから果たせる役割があるはずなので、様々な国の間に入って関係を良くするお手伝いがしたい」と語った。

FPTの豊富な人材が
日本の課題解決を支援する

 ビン会長は日本企業が抱える課題の一つとして、多くのレガシーシステムが残っていることを挙げた。DXによって業務を大きく変えるためには、レガシーシステムのマイグレーションが必要になるが、「日本にはそれを実行するためのエンジニアが不足している」(ビン会長)。

 エンジニア不足を解消する手段としてFPTが提案するのが、ベトナムの若手人材の活用だ。FPTは自社で「FPT大学」を運営し、エンジニアの育成に力を入れている。FPT大学は現在18万人の学生が在籍しており、AI(人工知能)やビッグデータなどの最新技術を勉強するとともに、「すべての学生が日本語を学んでいる」(ビン会長)。

図 日本が直面する課題とFPTの貢献
日本が直面する課題とFPTの貢献

 ビン会長は、日本のEV(電気自動車)開発の課題についても言及した。「日本の自動車産業はこれまで大きな成功を収めてきたが、今後のEV開発は内容がまったく変わる」とし、「組み込みソフトウエアの重要性が大きく高まり、ビジネスの成否に直結するようになる。我々には高いITの専門性と、日本のメーカーとの20年に及ぶパートナーシップで蓄積したノウハウがある。EV向けの組み込みソフトの開発においても、必ず力になれるはずだ」と続けた。

図 電気自動車の登場は自動車製造業界に大きな変化をもたらす
電気自動車の登場は自動車製造業界に大きな変化をもたらす

グループ傘下薬局チェーンの
急激な規模拡大をDXで支援

グエン・ド・クエン 氏
FPTリテール
最高執行責任者
グエン・ド・クエン 氏

 続いてFPTリテールのグエン・ド・クエンCOO(最高執行責任者)が、同社が2018年に買収した薬局チェーンのFPTロンチャウのDXについて紹介した。FPTリテールはFPTグループの中で小売業を担当する企業だ。

 FPTロンチャウは、FPTグループに加わった2018年時点では小規模なチェーンだったが、そこから急成長を遂げ、現在はベトナムの全63省に1500店舗があり、8000人の薬剤師が在籍する最大規模のチェーンに成長した。商品の最小管理単位を意味するSKU(Stock Keeping Unit)の数は1万5000に達しているという。

 クエンCOOは「ベトナムではコロナ禍を経て、健康への関心が非常に高まっており、薬局を利用する人が急激に増えている」と説明する。そうした需要の高まりを受け、FPTロンチャウはここ数年、年間500~600店舗のペースで店舗を拡大している。

 この急激な成長を支えたのがDXだ。フロントエンド、バックエンドに関わるすべてのシステムをクラウド上で動かすことにより、「店舗の開設に必要なシステムを数分で用意できる」(クエンCOO)。プロモーションやロイヤルティーが高い顧客向けのキャンペーンなどについても、数分単位で対応しているとする。

 FPTグループが自社開発したSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型需要予測ソリューション「Usee」を活用し、AIで各店舗に最適な商品を配分している。クエンCOOは「よくベトナムの全63省で同じビジネスを展開しているかと聞かれるが、それは違う。ベトナムは地域ごとに薬の使い方やヘルスケアについての考え方が異なっているため、それぞれの地域に合わせて商品やサービスを提供している」と語った。

 Useeによって顧客の需要を正確に予測できるため、扱う商品数は増え続けているにもかかわらず、来店時に顧客が欲しい商品の在庫が切れている確率は5%以下に抑えることができているという。クエンCOOは「Useeの開発前は50人の分析担当者が需要予測をしていたが、Useeの導入によって人手は必要なくなり、精度も大きく高まった」と解説する。

 実店舗とECサイト、コールセンターなどオムニチャネルで顧客に一貫した体験を提供する取り組みも進めている。これにより、「Webストアで商品を指定し、10分後に店舗に行った際に受け取る、といったことが可能だ」(クエンCOO)。

 ベトナムでは現在、多くの企業がDXに挑戦しているが、「成功するケースはあまり多くない」(クエンCOO)。そのような状況においてFPTロンチャウがDXに成功したのは、「技術は買って飾るものではなく、活用して課題を解決するものだと強く意識したためだ。顧客の幸せや従業員の幸せのために技術がある。それが分かっていれば、DXはうまくいくはずだ」(クエンCOO)とした。

図 テクノロジーによって顧客体験を向上させる
テクノロジーによって顧客体験を向上させる

2026年までに半導体関係人材
10万人の育成を政府と誓約

ホアン・ナム・ティエン 氏
FPT大学
副学長
ホアン・ナム・ティエン 氏

 続いてFPT大学のホアン・ナム・ティエン副学長が、ベトナムとFPTの半導体事業における取り組みを語った。

 ティエン副学長はまず、世界の半導体開発の状況について説明した。「米国と中国が二大巨頭であり、台湾や韓国がそれを追っている」と語り、「ベトナムも韓国のサムスン電子や台湾のフォックスコンの融資を受けて、年間650億ドル(約10兆円)規模の半導体輸出を目指している」と続けた。

 国家間の半導体開発競争について、「今でも非常に競争が激しいが、米国がさらなるシェア拡大を目指すと発表するなど、今後さらに激しさが増す見込みだ」(ティエン副学長)としながらも、「厳しさは十分理解した上で、我々はこのチップ戦争に参加する」と決意を述べた。

 日本の半導体産業についてティエン副学長は、「今はいろいろと厳しい状況だと聞いているが、私は東芝など半導体開発に携わってきた企業が大好きだし、尊敬している。正しい方向性に進めば、また軌道に乗ることができるはずだ」とエールを送った。

 半導体分野における競争力を高める施策として、FPT大学は新たにCPU半導体学部を設置した。「今後3年間で学生を1万人に増やす。学士や修士、短大卒の学士を育て、ベトナムの半導体産業を強くしたい」(ティエン副学長)。加えて、「2026年までに10万人の半導体関連人材を輩出すると政府に誓約した」(ティエン副学長)。

 開発するCPUは、ソケット数が多く高性能のものに限らないという。「現在は1000個、1万個のソケットを持つCPUが登場しているが、LEDやドライヤー、掃除機などの制御にはそのように高度なものはいらない。我々はそうした必要十分なチップも作っていく」(ティエン副学長)。

 FPTが半導体向けの組み込みソフト開発において高い技術を持っていることも、半導体ビジネスを展開するうえで強みになるという。加えて、半導体製造に必要なレアアースの資源がベトナムには豊富にあることや、若い技術者が多くいることも、「グローバルでチップ戦争に参加する上で大きな武器になる」(ティエン副学長)。

 レアアースについてティエン副学長は「まだ採掘されていないものが2200万トンあり、これは中国に次いで世界2位の規模だ」と説明した。ベトナム政府はレアアースを単に国外に販売するのではなく、「先端技術の工場を造り、自ら活用しなくてはならないと考えている」(ティエン副学長)とした。

 ティエン副学長は「日本には様々なビジネスに関する豊富な経験やノウハウがある。そこにベトナムの若いパワーを組み合わせれば、半導体をはじめ多くの分野で大きな力を発揮できるはずだ。ぜひ協力してほしい」と呼びかけた。

図 FPT大学は2026年までに10万人の半導体関連人材の輩出を目指す
FPT大学は2026年までに10万人の半導体関連人材の輩出を目指す
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