




国内外211路線の航空輸送事業を中心に、年間約4800万人の空の旅を支えているJALグループ。2026年3月に発表したJALグループ経営ビジョン2035では、10年後のあるべき姿として「安全・安心な未来の空のもと、人やモノの往来を支え続けたい」「お客様の心に響く出会いと体験をあらゆる場面でお届けし続けたい」「人やモノの移動を通じて、関係・つながりを創造し、社会全体に広げたい」という3つの具体像を挙げている。このビジョンを実現するため「全社横断戦略としてDXを位置付けています」とJALの鳥取 三津子氏は話す。
DX推進の必須テクノロジーがAIである。JALグループは全社員がAI を利用できる環境を整備し、活用を促進するため、経営からのメッセージ発信や勉強会によるフォローなどを実施している。「社員のAI利用率は大きく向上しており、2025年度末時点で運航乗務員、客室乗務員、空港スタッフ、整備スタッフらも含め全社員の65%が業務利用しています。デスクワークの社員に限れば8割以上まで利用率が高まりました」と、取り組みの成果を語る。
2023年からDX人財育成の体制も充実させているが「マインドや文化を醸成するフェーズから、現場で成果を生み出す実践フェーズへの転換点を迎えた」と分析。そして、2030年度までにグループ全社員の10%に当たる約4000人をDX人財に育成するという目標を掲げている。「2025年度のDXマインド浸透度調査では『十分な教育が行われている』と感じる社員の割合が1年で47%から75%へ大きく増加しています」と鳥取氏が言うように、多くの社員が教育・研修の有用性を実感している。
人財育成への投資と共に、2025年のJALデジタルの設立など、組織変革も進行中だ。強化された基盤を基にDXで目指す具体像の1つが、航空機整備の高度化。2016年度から取り組んでいる故障予測アルゴリズムは、機材のデータを蓄積することで、前兆をとらえた故障前の部品交換などで故障発生件数を抑制。また、空港のヒヤリハットデータを分析し、類似事例から共通の要因を導き出す取り組みも行っている。
「過去の膨大な定性データをAIで読み解くことで、より実践的な分析へ進化させています」(鳥取氏)。航空事業には多くの“想定外”が存在するが、データ活用によって、高度な安全・安心を届けられるという。
飛行中の雷を回避する取り組みもDXで精度を高めている。国内の航空機への被雷は年間数百件発生しており、機体が損傷するケースもある。「従来は弱い雷雲から発生する雷を回避しきれませんでしたが、新サービスの利用により、発雷ポテンシャルが高いエリアを予測できるようになっています」と鳥取氏は言う。三菱重工業と共に特許を取得した新技術により、機内のインターネット環境に頼らず、地上から雷予測情報を送ることができるようになったという。「パイロットがひと目で把握できる被雷予測を提供し、より安全な航路を選定できるようになりました」(鳥取氏)。
他にも、AIを活用した整備部門の効率化の取り組み、量子コンピューティングを使った整備計画の自動作成、顔認証技術を活用し、自宅での顔データ登録から空港での顔パス通過までのシームレスな次世代型搭乗体験の提案など、多くの事例を鳥取氏は紹介した。
「航空事業の枠を超えた新たな社会価値の創出に向け、ドローンや空飛ぶクルマの事業化支援も強化しています。将来的には、宇宙空間での人・モノの輸送を軸とした新しい経済圏、生活圏、エコシステムの確立にも寄与したい」と語る鳥取氏。空から宇宙まで、DXを軸にした事業変革と新たな価値創造に向けて、JALグループは挑戦を続けている。