




JFEスチールは2025年12月、国内5拠点の製鉄所・製造所の生産管理を担う基幹システムを、メインフレームから柔軟性の高いオープン系システムへ移行させるプロジェクトを完遂した。総投資額は1000億円超。国内有数の大規模ITモダナイゼーション事例である。
同社のメインフレーム導入は早く、半世紀以上を経て老朽化・複雑化し、DX推進の足かせとなっていた。そこで全面刷新が企図され、2016年にまず西日本製鉄所から着手。全社での業務プロセスの統一を目指したが、設計段階でつまずき、2019年に中断を強いられた。
「『新規に構築し直すのだから』と、現状をよく調べずに着手したのが失敗の原因でした」と西 圭一郎氏は振り返る。JFEスチールの前身である川崎製鉄と日本鋼管が運用していたメインフレームのコード体系や、製鉄所・製造所ごとの設備仕様の違いに配慮せず、安易に全社共通の業務プロセスを想定して設計を開始してしまったという。
プロジェクト中断後にシステム全体のソースコードを数えると、約2億ステップにも及ぶことが判明した。この膨大かつ困難な取り組みを継続すべきか否か、葛藤した西氏の背中を押したのは、過去の社内資料だった。そこには1980年代の時点で既に情報システム部門がメインフレーム刷新の必要性を認識していた事実が記されていた。つまり、この問題は長年先送りされてきた経営課題だったのである。
「巨額の投資であり、システム刷新だけでは投資に見合うほどのリターンは得られない。しかし、いつかやらなくてはならないのだから、自分たちの代で責任を持ってやり遂げようと決断しました。その背景には、『国内で鉄鋼生産を続けることは国益にもつながる』との思いもありました」と西氏は当時の胸の内を明かす。
2020年にプロジェクトを再開した際には、システムを一からつくり直す「リビルド」ではなく、既存プログラムを新しい言語へ移行する「リライト」を選択した。長年にわたり蓄積してきた業務ロジックこそがJFEの競争力の源泉であり、そのノウハウは継承すべきと判断した。また、システム刷新を最短期間で完遂し、カーボンニュートラル対応など本業の改革へ速やかにつなげることも重要な課題であった。これらを同時に実現する現実的な選択肢はリライト以外になかった。
実行面では、拠点ごとに刷新時期をずらし、先行案件で得た知見を次の拠点へ反映させながら、スモールサクセスを積み重ねる方式を採用した。さらに、プロジェクトメンバーに実務部門出身者を多く登用することで、現場目線で業務やプログラムの徹底的な断捨離を推進し、業務を熟知したメンバーがテストの効率化にも主体的に取り組んだ。
こうした方針転換とプロジェクト運営上の工夫が功を奏し、約7年を見込んで走り出したプロジェクトは5年2カ月で完了。先行拠点で得た成功・失敗の知見を横展開したことで生産性が高まり、終盤は投資額も序盤と比べて6割ほど圧縮できたという。
完成した新システムは安定稼働を続けている。今後は、システムに蓄積したデータ資産を柔軟に活用することで、企業価値のさらなる向上に取り組む意向だ。
「今回のプロジェクトを通じて感じたことがあります。それは、日本中の企業が“脱レガシー”を実現することが、日本全体の活性化に向けて不可欠だということです」と西氏。そこでJFEスチールは、同じくシステム刷新に課題を持つ製造業に向けて、PMO※業務支援サービスの提供を開始した。
特徴は、システム開発側ではなく「実務者側」の目線で課題に寄り添う点にある。自らの経験を生かして、システム刷新の方針策定からプロジェクト推進までを幅広く支援する。
多くの企業がレガシーシステム刷新の必要性を認識しながら、その難しさゆえに決断を先送りしている。そうした中でJFEスチールの事例は、技術論だけでなく「目的の明確化」と「やり切る覚悟」の重要性を示すものといえる。多くの失敗と成功を積み重ねた同社の経験は、“脱レガシー”に悩む企業の道標となるだろう。
※ Project Management Office:プロジェクトの円滑な遂行を裏方として支える組織・業務のこと