




PwCコンサルティングは、2023年から継続的に「生成AIに関する実態調査」を行っている。2026年2月の最新調査では、日本、米国、英国、中国、ドイツ、韓国の計6カ国の大手企業における生成AI活用の実態や効果を明らかにしながら、日本企業が今後取り組むべきAI戦略を考察した。
「調査によると、他の5カ国の企業と比べて、日本企業が生成AIの導入で後れをとっているわけではありません」と同社の三善 心平氏は言う。問題は、生成AIの導入と活用の効果が「期待を大きく上回った」企業が1割以下にとどまっていることだった。この点は、例えば米国では4割に上っていた。現場への実装や、そこでの価値創出といったポイントにおいて、日本は世界に追いついていく必要があるといえるだろう。
活用効果が「期待を大きく上回った」企業にはどのような傾向が見て取れるのか。
「特徴の1つが、課題の設定や企画立案、意思決定支援など、従来的には人間が担うと考えられていた領域にもAIを活用していることです」と三善氏は話す。情報収集・整理や文書作成といった単純なタスクに限定することなく、AIが人間のスキルを幅広く代替できることを想定して活用を進めていた。
継続的な価値創出に向けては、AI活用の成果を従業員や顧客に「還元」することが重要になるという。例えば、従業員に対する財務的還元は一層のAI活用に向けたインセンティブになる。AI活用の成果が給与に反映されることは、高度なAIスキルを持つ人材の採用にも有利に働くだろう。
組織のAI活用が進めば、製品・サービスの質や価格競争力が上がって顧客提供価値が増大する。これがAI活用成果の顧客への還元だ。結果、売り上げや利益の向上といった組織の目標の達成にも貢献することになる。
「AIツールを導入して活用を推進するだけではこのサイクルは回せません。従業員や顧客にメリットを感じてもらうことが、継続的なAIの価値創出とビジネス変革に向けた条件です」と三善氏は強調する。
PwCコンサルティングでは、この生成AI活用による変革サイクルを支える要素について、3つのキーワードで表現している。それが「AI Readiness(活用の準備)」「Evaluation(評価)」「Activation(実行)」である。
土台になるのがAI Readinessで、ここには業務プロセスの可視化やAI活用のためのデータ整備などが含まれる。Evaluationは、AI活用によって達成すべき価値や避けるべきリスクを定義することを指す。そしてActivationは、前述した還元のプロセスに当たる。従業員の一層のAI活用を促し、継続的な顧客接点の質の向上、顧客提供価値の増大を図る。
「日本企業が成果の還元を行う際には、自社に適した形を考えることが大切です。メンバーシップ型雇用が中心で、組織へのロイヤルティが高い傾向がある日本企業では、個人のメリットを提示するだけでは十分なインセンティブにならない可能性があるからです。『組織がどうよくなるか』を明示することが1つのポイントといえるでしょう」と三善氏は述べる。
また同調査では、AI活用を「企業理念の実現手段」と位置付け、取り組みを進めた企業が成功する傾向があることも見えてきたという。AIは自社の理念や使命の実現に資するものであり、活用を進めることが不可欠だ─。このような明確なメッセージを経営層が発信することが、AIの価値創出に向けたもう1つのポイントといえるだろう。
「企業理念を、AI活用の取り組みにおける“北極星”と位置付け、全員でそこを目指して歩んでいく。このような企業が、AI時代に躍進することができるのです」と三善氏は語った。