




日本企業の経営モデルは時代と共に変化してきた。KPMGコンサルティングの佐渡誠氏は、それを「5つの世代の変遷」という考え方で説明する。戦後復興期に新たな産業を創った第1世代。高度成長期に国内外に拡大する仕組みを構築した第2世代。バブル期に成功モデルを磨いた第3世代。失われた30年という低成長時代に企業活動の持続性を守り抜いた第4世代。そして今、AIという新しい武器を手にし、経営・産業再興期である第5世代に突入している。
「第5世代は再びクリエーションの時代です。経営者はGenesis Leaderとして、既存の延長線上で最適化を追求するのではなく、新たな時代の価値観や競争原理を生み出し、次なる成長の起点を創らなければなりません」と佐渡氏は言う。
佐渡氏は、再解釈して刷新すべき要素として「経営層の思考」「経営の舵取り」「テクノロジーの役割」の3つを挙げる。
従来の日本の経営リーダーの多くは、短期的な「P/L」を重視してきた。単年度収益を重視する経営は成果が蓄積されず、やがて頭打ちになる。第5世代の経営では、長期視点を持ち、R&Dや新規事業、将来に向けてのアセットに投資すべきであると佐渡氏は主張する。すなわち「B/S」をより重視するわけだ。
「P/L型も大切にしながら、B/S型によって企業のアセットを長期的に積み上げていく。経営層にはそのようなバランス思考が必要なのです」(佐渡氏)
2つ目の要素、経営の舵取りもアセットに関係する。AIが業務の多くを担うことによって、現場業務は平準化され、暗黙知は形式知化される。商品やサービスの品質はコモディティ化していく。しかしどれだけAIが進化しても、AIに代替されないアセットもある。それが、「顧客との信頼関係」「ブランド」「組織能力・実行力」「企業文化」「技術資産」「エコシステム」である。第5世代の経営者は、この6つのアセットに磨きをかけるべきだという。
3つ目のテクノロジーの役割は、第5世代においては「AIの活用法」とほぼ同義である。佐渡氏は、AIの活用領域を「基盤」「事業」「経営」の3つのレイヤーに整理する。
企業の基盤とは、すなわちアセットである。顧客、人材、技術などのアセットを可視化し、連携させることが、基盤レイヤーにおけるAIの活用法であり、それらを有効に生かしながら、新しい価値を創出していくのが事業レイヤーでのAIの使い方だ。
経営レイヤーでのAI活用も重要である。佐渡氏は「様々なアセットをどのように統合するか。事業成果をどのように企業全体の成長につなげていくか。顧客との信頼をどのように構築していくか。そういった戦略立案と意思決定を行うためにAIを活用することが、第5世代の経営者には求められています」と説明する。
KPMGは、3つのレイヤーのそれぞれで企業や公的機関のAI活用を支援してきた。例えば、金融機関が保有する膨大な非構造化データを可視化し統合する取り組みは、基盤レイヤーでの支援である。事業レイヤーでは、AIを活用して新事業を創出する活動を後押ししている。人口減少が進む地方自治体における未来シナリオづくりは、経営レイヤーにおけるAI活用支援といえる。
「長期視点に基づいた経営。AIに代替されないアセットへの注力。多様な領域でのAI活用。その3つの視点を重視することで、第5世代ならではの新しい産業が生まれていくと私たちは考えています。ただし、最後に忘れてはならないのは“創造への熱”を持つことです。戦後産業を創造した第1世代には確実に“成し遂げてみせるという熱”があったはずです。環境は違えど、クリエーションの源泉には熱が必要なのは第5世代も同じです。熱はAIでは絶対に発現しえない人間ならではの価値なのですから」と佐渡氏は語る。
本格化していくAI時代に向き合う姿勢を、同社は「Trust&Growth(信頼と成長)」という言葉で表現する。「信頼を基盤に、企業固有の力を新たな成長につなげる取り組みに“熱”を持って伴走するパートナーであり続けたい」と佐渡氏は力強く語った。