




AIでできることは、すべてAIに任せるべきなのか。日常業務に欠かせないツールの1つとなっているAI。「調べる」「作る」といった人の作業をアシストし、大幅な業務効率化をもたらす。AIエージェントはさらにその上を行く。自ら考え、必要な情報を調べ、ツールを使いながら、複雑なタスクを自律的にこなしていく。AIは単なる「ツール」から、仕事の一部を担う「労働力」へ変わりつつある。だからこそ企業には、AIを使う領域と使わない領域を見極める力が求められている。
経営視点で見ると別の様相が浮かび上がる。従業員が1時間業務を効率化できたとしても、その1時間がそのまま企業の利益になるわけではない。生まれた時間をより価値の高い仕事へ振り向ける。業務そのものを見直し、必要な人員やコストを変えていく。「企業全体の成果につなげるには、業務プロセスや組織そのものをAI前提で再設計する必要があります」とNTTデータの冨安 寛氏は主張する。AIを導入することと、AIで企業全体の成果を生むことにはギャップがあるのだ。
トークン消費の急増が、この状況をさらに難しくしている。今後、企業のトークン需要は大幅に膨らむという予測もある。当然、AIコストも肥大化する。AIが仕事をするためのコストそのものが、企業経営にとって無視できなくなっている。
この課題はNTTデータ自身が既に経験している。社内調査によると、リクエスト回数ベースの課金体系が推論量を反映する仕組みに変わったことで、AI利用コストは17倍に拡大。生成AIの一般業務での利用が想定以上のスピードで広がり、当初の年間予算をわずか数カ月で使い切ってしまったという。こうした経験から、NTTデータは、AIをどこで、どのように、どれだけ使うのかを設計する重要性を認識した。
「AIのライセンス数ではなく、これからは『AIをどのように使うのか』を考える必要があります。AIの利用そのものを設計することが、新たなテーマになっています」と冨安氏は訴える。
大切なことは「AIを使用することが、最も価値を生む選択なのか」という“問い”を持つことだ。「AIを使うことで、求める品質が実現できるのか。そのためのコストは適正か。そして本当に業務全体が速くなり、継続的に使い続けられるのか。品質、コスト、スピード、運用を総合的に考えた上で判断することが重要です」(冨安氏)
NTTデータはこうした観点で自社のAI活用のあり方を見直した。財務審査業務では、定型的な処理は従来の自動化やルールで対応し、例外的なケースや文脈を踏まえた判断のサポートなどにAIを適用。その上で最終的な判断を人が行うようにした。業務全体を見直すことで、業務効率を維持しながらトークン消費も最適化できたという。
自らの成果を生かし、顧客企業の変革も支援している。その1社が日用品大手の花王だ。人とAIの役割分担を設計し、生活者調査データや購買データ、SNSデータを活用して「AI生活者」を作成。AIインタビュアーも用意し、AI同士でインタビューを実施した。これにより、モニター調査にかかる期間を、1.5カ月から0.5日へ短縮できる可能性を見出した。
大手地方銀行の横浜銀行は、AIありきではなく、業務課題を明確にした上で、効果の大きい領域から生産性向上に取り組んでいる。課題特性に応じて、AIと既存ツールを組み合わせる。その結果、M&A業務の資料作成工数を62%削減。融資計算業務はプロセスそのものを見直すことで、年間1640時間かかっていた業務を287時間まで削減できた。
また、専門性の高い業務では、汎用AIの性能だけでは期待する判断品質に届かないケースもある。成果につなげるには、業務知識や判断基準をAIにどう組み込むかが重要になる。こうした変革を加速するため、NTTデータは2025年12月に新会社NTT DATA AIVistaを設立した。AIのトップレベル人材を集めた技術者集団だ。このAI技術力と、NTTデータが蓄積してきたドメイン・業務ナレッジを組み合わせ、AI時代の変革をリードしていく。
AIはこれからも進化し、できることはますます増えていく。AIをどのように使い、どう組織の成果につなげていくか。企業側の「判断する力」が、これまで以上に重要になる。