



生成AIやAIエージェントに続く次の潮流として注目されているのがフィジカルAIだ。その背景には、製造や物流、エネルギー、建設、保守メンテナンスなどの現場が直面する人手不足や技能継承、設備老朽化といった課題がある。AIの進化により、人の実演から学ぶことや現場作業の文脈理解、状況変化への対応が可能になりつつあり、これまで自動化が難しかった領域への適用も現実味を帯びてきた。
一方で、社会実装に向けては課題も残る。それが「安全」「現場理解」「コスト」の3つだ。日立製作所(以下、日立)の風間頼子氏は「AIの誤りを事故につなげないこと、現場固有の知識をAIに取り込むことが重要になります。また、必要な機能や性能を現場ごとに適切な形で実装していくことも欠かせません」と説く。
こうした課題を乗り越えるため、日立では製造や保守メンテナンスといった現場でフィジカルAI活用を進めている。例えば昇降機のメンテナンス現場では、ウエアラブルカメラや作業支援デバイスを活用。必要な情報を即座に届け、見落としを補い、判断を支援することで、より安全かつ確実に作業できる環境づくりを進めている。
ただし、その目的は人を置き換えることではない。AIが負荷の高い作業や判断支援を担い、人はより高度な業務へ注力する環境づくりを目指しているのだ。
そのためには、AIが現場の状況を正しく理解し、人や設備と連携しながら動く仕組みが欠かせない。こうしたフィジカルAIの実装を支える考え方が「情物一致」である。これはITの情報と、OTが担う設備や機械などの現物を一致させながら、制御・運用し、学習を繰り返すことで、安全性と最適化を両立させるという考え方だ。
それでは、情物一致を実際の社会インフラの現場で具現化するには何が必要なのか。その共通基盤として日立が位置付けるのが「HMAX」だ。HMAXは、現場の設備や製品から集めたデータとAI、そして鉄道やエネルギー、製造などの社会インフラ領域で培ってきたドメインナレッジ、さらには安全性や信頼性を支えるサイバーセキュリティーを組み合わせ、社会インフラでAIを活用するための次世代ソリューション群である。
HMAXの背景には、日立が10年以上にわたって取り組んできた「Lumada(ルマーダ)」の実績がある。同社の黒川亮氏は「これまでLumadaで培ってきたデータ活用の知見とAI技術を組み合わせて、お客様の経営課題や社会課題を解決し、デジタルインフラの価値を向上し続けるのがHMAXです」と説明する。
HMAXの特徴は、技術だけでなく、それを現場へ定着させるための人材や運用の仕組みまで含めて長期に提供し続ける点にある。具体的には、課題発見から実装、運用、改善に至るまでAIやITの専門家だけでなく、現場設備や運用を知る専門家も含めたワンチームで伴走型の支援を行うという。風間氏も、「現場を理解する人とAIを理解する人が同じ目的を共有することで、初めてフィジカルAIを社会実装できます」と語る。
今後も日立はHMAXを通じて、フィジカルAIの社会実装を加速させるとともに、人とAIが協調しながら社会インフラの価値向上を実現する未来を目指す考えだ。