




うま味調味料の商品化に始まった味の素グループの事業は、食品からヘルスケア、バイオ、電子材料/機能材料まで多様な領域にわたる。業容は拡大しても、「事業を通じて社会価値と経済価値を共創する」という理念は不変で、現在も経営の基本方針「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」として受け継がれている。
「近年はASVの実践に不可欠なDXの推進に注力しています。さらにAIの急成長を受け、味の素グループにおけるDXを、AIとの共生が前提の『DX with AI』に再定義しました」と味の素の中村 茂雄氏は語る。
これを踏まえ、グループのDXの3つの特徴もアップデートした。具体的には、「各組織が自律型でDXを推進すること」「DXを業務変革、ネットワーク変革、事業変革、社会変革の4つのステージに定義し段階的に進めること」「AI前提で能力開発して全員参加で企業変革を進めること」である。
「同時に構築したのが、各部門にサイロ化していた業務データをグループ全体の資産として共有し、データドリブン経営に生かせるようにするデータ基盤『ADAMS(Ajinomoto Data Management System)』です。構造化データだけでなく文書などの非構造化データも統合し、AIを効果的に活用する環境を整えました」(中村氏)
DX with AIを浸透させるべく、味の素グループは社内の誰もがAIを業務で円滑に使えるようにし、ワークショップの開催や部門ごとの利用状況を示すダッシュボードの公開などを通じて活用の機運を高めた。
「その結果、AIを月20回以上利用する従業員の割合は70%を超え、業務改革や新たな価値創出に向けた取り組みが活発化しました」と中村氏は語る。
例えば営業部門では、AIを活用した商談ロールプレイや企画アイデアの検討などを通じて業務生産性を高め、顧客対応に充てられる時間を拡大。営業知見をデータ化して共有することで、経験の浅い若手の営業力も引き上げている。
研究開発部門では、研究報告などの社内ナレッジと接続した研究開発専用AIエージェントの作成に着手。将来的にAIが仮想空間でのシミュレーション実験の主体となり、人は戦略創造や判断に集中することを構想している。
AI活用が新しい商品やサービスの開発につながった事例も続々と生まれている。その1つが、AIによる「おいしさ設計技術」に基づくレシピでつくられる冷凍宅配弁当「あえて、」だ。おいしさと栄養バランスを兼ね備えたことが評価され、累計販売数は250万食を突破した。
「勤務環境の制約から欠食や偏食が生じやすい救急医療スタッフに提供する試みも行い、社会課題の解消にも貢献しようとしています」(中村氏)
AIを活用すれば、一人ひとりの健康状態に見合った献立をつくるという手間のかかる作業も大きく省力化できる。そんな観点から事業化されたのが、医療関係者や介助者向けの栄養指導支援サービス「ReTabell」だ。「食欲がない」「噛みにくい」といった食の悩みに応じ、AIが栄養関連学会のガイドラインに準拠した最適なレシピを瞬時に組み立てて提供する。
栄養バランスやコスト、食材重複など、多くの条件に配慮することが求められる給食の献立づくりに役立つのが「AI献立プランナー」だ。独自のアルゴリズムと操作しやすいインターフェースで、献立作成の業務負荷を約7割削減。慢性的な人手不足に直面する給食業界で高い評価を受けている。
「AIやデジタルは、『アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する』という私たちのパーパスを実現し、企業価値を持続的に高めるための手段です。これまでの取り組みを通じて株価は上場来高値を更新し、2025年にはDX銘柄にも選定されました。これらはゴールではなく、さらなる成長に対する期待の表れだと捉え、今後も企業価値を向上させていきます」と、中村氏は変革への意志を強調した。