インタビュー

[特別対談]電力自由化と新たな経済成長 電力小売り全面自由化がもたらすインパクトと分散型エネルギーシステムの可能性(前編)

[特別対談]電力自由化と新たな経済成長 電力小売り全面自由化がもたらすインパクトと分散型エネルギーシステムの可能性(前編)
2016年3月9日(水)公開
構成・文/桜井敬三 写真/加藤康
 

この4月から電力小売りが全面自由化される。家庭部門を中心とする約8兆円もの市場が新たに開放されることになる。様々な業界からの参入が表明され、新たなビジネスモデルの出現の可能性を強く感じさせる。電力自由化をはじめとするエネルギーシステム改革によって、エネルギー産業はもとより、経済および産業全体の競争力強化を推し進める経済産業省資源エネルギー庁の日下部聡長官と、この改革にも深くかかわってきたエネルギーシステム研究の第一人者である東京工業大学の柏木孝夫特命教授が、電力自由化がもたらす新たな成長の可能性について議論・提言する。

競争やデマンドレスポンスはすでに始まっていた

柏木孝夫氏(以下敬称略): この春から、ようやく電力小売りが全面自由化します。

 英国ではサッチャー政権時代の1990年に、ドイツも98年に自由化しました。それから20~30年たとうとしています。英国の場合、自由化で約100社の小売事業者が参入しました。ドイツの場合は、最初20%くらいのシェアを新電力が占めました。現在は50%程度になっています。その中にはシュタットベルケ(地域インフラ公社)と呼ばれる自治体主導のものもあり、いろいろな意味で経済活性化に役立っています。

 世界的にみると、日本の自由化は一歩遅れているようにも言われますが、私はそうは思っていません。英国やドイツが自由化したのは、アナログの時代だった。日本の場合は、デジタル革命でインターネットとエネルギーが一体化した時代の自由化になるわけです。そのデジタルの時代に最初に自由化するのが日本だということです。世界は日本に注目しています。

 そして、約8兆円もの市場が新たに開放されるわけです。いろいろな意味で、経済、産業へのインパクトは非常に大きいと思います。

「日本における自由化は遅れたように見えますが、すでにこういった土台があったということです」(日下部氏)
「日本における自由化は遅れたように見えますが、すでにこういった土台があったということです」(日下部氏)

日下部聡氏(以下敬称略): 英国の自由化は国営企業から民営化する際に始まったわけですが、民間の電力会社が電力供給を担うということでは、日本は先行していました。民営化したのは1951年です。

 その後、高度経済成長期には電源不足になり、電源の開発が急務となった。そこで、電力会社以外のプレーヤー、電源開発だとか、あるいは新日鉄や住友金属のような素材系の大企業の自家発電というものが発達していきました。実は高度成長期から、既存の電力会社と、大企業の自家発との擬似的な競争はあったのだと、私は考えています。

 需要を制御するデマンドレスポンス的なものについても、すでに需給調整契約という大型契約者向けのメニューを、電力会社と当時の通産省と素材系の産業とで開発していました。ピーク時に電気が足りなければ、需要家が自ら需要を抑制することで、電気料金がディスカウントされるというものです。省エネ、省電力を促す料金体系も、実は当時から開発していた。

 ですから、日本における自由化は遅れたように見えますが、すでにこういった土台があったということです。

 その上で今回、初めて全ての消費者が電力を選べるようになるわけです。電力産業全体の市場規模は現在、約18兆円にもなります。そのうちの約8兆円もの市場が開放されるということは、日本の産業史の中でも、かなり大きなインパクトだと思います。

 消費者の関心は、思いのほか高いようですね。東日本大震災後、日本は不幸なことに電力不足になり、電気料金は高騰しました。そして、電気代に対する消費者のセンシティビティが、ものすごく上がりました。

 また、技術が変わるという極めてよいタイミングでスタートを切られることも、大きな影響を与えるのではないかと考えています。

 
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プロフィール
日下部 聡(くさかべ さとし)氏

日下部 聡(くさかべ さとし)
経済産業省 資源エネルギー庁 長官
1960年生まれ。82年、横浜国立大学経済学部卒、通商産業省(現・経済産業省)入省。89年、米国ロチェスター大学留学。97年、資源エネルギー庁公益事業部公益事業制度改正審議室長。2002年、経済産業政策局産業組織課長。10年7月、大臣官房審議官(経済産業政策局担当)。同年10月、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)。12年、大臣官房総括審議官。13年、官房長。15年7月より現職。

柏木 孝夫(かしわぎ たかお)氏

柏木 孝夫(かしわぎ たかお)
東京工業大学 特命教授/名誉教授
コージェネ財団 理事長
1946年東京生まれ。70年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。79年、博士号取得。東京工業大学工学部助教授、東京農工大学工学部教授、東京農工大学大学院教授などを歴任後、2007年より東京工業大学ソリューション研究機構教授、12年より特命教授・名誉教授。11年よりコージェネ財団理事長。経産省の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長などを歴任し長年、国のエネルギー政策づくりに深くかかわる。現在、同調査会の省エネルギー・新エネルギー分科会長、基本政策分科会委員などを務める。主な著書に「スマート革命」「エネルギー革命」「コージェネ革命」など。