柏木孝夫氏(以下敬称略): この春から、ようやく電力小売りが全面自由化します。
英国ではサッチャー政権時代の1990年に、ドイツも98年に自由化しました。それから20~30年たとうとしています。英国の場合、自由化で約100社の小売事業者が参入しました。ドイツの場合は、最初20%くらいのシェアを新電力が占めました。現在は50%程度になっています。その中にはシュタットベルケ(地域インフラ公社)と呼ばれる自治体主導のものもあり、いろいろな意味で経済活性化に役立っています。
世界的にみると、日本の自由化は一歩遅れているようにも言われますが、私はそうは思っていません。英国やドイツが自由化したのは、アナログの時代だった。日本の場合は、デジタル革命でインターネットとエネルギーが一体化した時代の自由化になるわけです。そのデジタルの時代に最初に自由化するのが日本だということです。世界は日本に注目しています。
そして、約8兆円もの市場が新たに開放されるわけです。いろいろな意味で、経済、産業へのインパクトは非常に大きいと思います。

「日本における自由化は遅れたように見えますが、すでにこういった土台があったということです」(日下部氏)
日下部聡氏(以下敬称略): 英国の自由化は国営企業から民営化する際に始まったわけですが、民間の電力会社が電力供給を担うということでは、日本は先行していました。民営化したのは1951年です。
その後、高度経済成長期には電源不足になり、電源の開発が急務となった。そこで、電力会社以外のプレーヤー、電源開発だとか、あるいは新日鉄や住友金属のような素材系の大企業の自家発電というものが発達していきました。実は高度成長期から、既存の電力会社と、大企業の自家発との擬似的な競争はあったのだと、私は考えています。
需要を制御するデマンドレスポンス的なものについても、すでに需給調整契約という大型契約者向けのメニューを、電力会社と当時の通産省と素材系の産業とで開発していました。ピーク時に電気が足りなければ、需要家が自ら需要を抑制することで、電気料金がディスカウントされるというものです。省エネ、省電力を促す料金体系も、実は当時から開発していた。
ですから、日本における自由化は遅れたように見えますが、すでにこういった土台があったということです。
その上で今回、初めて全ての消費者が電力を選べるようになるわけです。電力産業全体の市場規模は現在、約18兆円にもなります。そのうちの約8兆円もの市場が開放されるということは、日本の産業史の中でも、かなり大きなインパクトだと思います。
消費者の関心は、思いのほか高いようですね。東日本大震災後、日本は不幸なことに電力不足になり、電気料金は高騰しました。そして、電気代に対する消費者のセンシティビティが、ものすごく上がりました。
また、技術が変わるという極めてよいタイミングでスタートを切られることも、大きな影響を与えるのではないかと考えています。