2019年にノーベル化学賞を受賞し、2020年1月に産業技術総合研究所が新設したゼロエミッション国際共同研究センターの初代研究センター長に就任した吉野彰氏と、エネルギーシステム研究の第一人者としてエネルギー政策に長年かかわってきた東京工業大学特命教授/名誉教授でコージェネ財団理事長の柏木孝夫氏との対談の後編。
脱炭素実現に向けた道筋や日本が注力すべき脱炭素技術、ゼロエミッション国際共同研究センターが事務局となって推進する「東京湾岸ゼロエミッションイノベーションエリア」構想などについて語り合った。
柏木孝夫氏(以下敬称略): 吉野さんは2020年1月、産業技術総合研究所に新設された「ゼロエミッション国際共同研究センター」の初代研究センター長に就任されました。どのような目的で活動する組織でしょうか。

ゼロエミッションの技術開発は国際協力を含む協調の必要な分野です。そもそも地球環境問題は人類共通の課題。それを考えると研究機関、大学、企業とバラバラで研究を行うのは効率が悪い。ゼロエミッションを目標とする研究開発の核となる組織が必要です。現在、産総研の中にはゼロエミッションにつながる研究が10テーマあります。これをセンターにまとめ、相乗効果を図ります。(吉野氏)
吉野彰氏(以下敬称略): ゼロエミッションの技術開発は国際協力を含む協調の必要な分野です。そもそも地球環境問題は人類共通の課題。それを考えると研究機関、大学、企業とバラバラで研究を行うのは効率が悪い。ゼロエミッションを目標とする研究開発の核となる組織が必要です。産総研内でそういう議論が深まっていた時期にたまたま私がノーベル化学賞を受賞し、しかも理由の1つが「サステナブル社会の実現に貢献すると期待できる」ということでしたから、「これは引き受けざるを得ないだろう」と思いました(笑)。
現在、産総研の中にはゼロエミッションにつながる研究が10テーマあります。これをセンターにまとめ、相乗効果を図ります。不足する部分はセンター外の組織と協調しながら一層の研究開発を進めていきます。
柏木: 政府は2020年1月、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づき、「革新的環境イノベーション戦略」を策定しました。5分野・16課題・39テーマを設定し、これにより世界のカーボンニュートラルと、過去に排出された大気中のCO2をも削減する「ビヨンド・ゼロ」を達成する革新的技術を2050年までに確立しようという非常に野心的な戦略です。重点領域として「非化石エネルギー」「蓄電池を含むエネルギーネットワーク」「水素」「カーボンリサイクル、CCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage:CO2回収・有効利用・貯留 )」「ゼロエミ農林水産業」の5つを挙げています。個人的には、日本は蓄電池、水素、CCUSの領域で強さを発揮できるのではないかと考えています。
吉野: どの国も今しばらくは化石燃料を使わざるを得ません。トータルでCO2排出量をゼロにしようと思えば、どこかでマイナスをつくる必要があります。ネガティブエミッションテクノロジーの実現が求められます。ネガティブエミッションとカーボンニュートラルを同時並行で実現する。そういう社会システムを考えなくてはいけません。
今、地球上でネガティブエミッションに相当するものの1つが光合成。もう1つはCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)に近いものですが、土壌のアルカリ成分による中和です。残念ながら地表面に近いところでは既に中和反応は終わっています。ただ地中のもう少し深いところにはまだアルカリ成分があります。無理やり地中に埋め込むのではない、化学的なCCSはネガティブエミッションの1つの道ではないかと思います。