パリ協定の発効を受け、世界は脱炭素へと走り始めている。我が国も脱炭素実現に向け、「第5次エネルギー基本計画」で再生可能エネルギーの主力電源化を打ち出した。菅義偉首相は所信表明の中で、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言。今後は蓄電システムやコージェネレーション(熱電併給)システムとの組み合わせで変動の大きい再エネをカバーし、強靱性の高いエネルギーシステムを構築していくことが求められる。
2019年にリチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞し、2020年1月には産業技術総合研究所が新設したゼロエミッション国際共同研究センターの初代研究センター長に就任した吉野彰氏と、エネルギーシステム研究の第一人者としてエネルギー政策に長年かかわってきた東京工業大学特命教授/名誉教授でコージェネ財団理事長の柏木孝夫氏が、脱炭素時代のエネルギーシステムと、その中で構築すべき蓄電システムの在り方について語り合った。
柏木孝夫氏(以下敬称略): 2019年、吉野さんがリチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞されたニュースには日本中が沸き立ちました。今、リチウムイオン電池は携帯電話から電気自動車(EV)まで、いたるところに使われています。「電気を移動させる機能を持つ」電池の登場によって、世界には新たなサービス、ビジネスが生まれ、広範囲にキャッシュの流れが出てきました。リチウムイオン電池の発明は社会・経済システムをも変革する、まさにイノベーションだったと思います。
そもそも吉野さんがリチウムイオン電池の開発を志したのは、どういう理由だったのでしょうか。

ノーベル化学賞受賞の理由は2つあり、1つが「モバイルIT社会の実現に貢献したこと」。もう1つが「サステナブル社会の実現に貢献すると期待できること」でした。電気をためるというリチウムイオン電池の機能が、まだ出現していないサステナブル社会の実現に大きく貢献するであろうと評価されたのです。ある意味で、大きな使命を負ったと感じています。(吉野氏)
吉野彰氏(以下敬称略): 実は私はもともと電池の研究開発を志していたというわけではないのです。旭化成に所属していた1980年ごろ、世界で話題になっていたポリアセチレンという新素材の研究開発を手掛けることになり、この新素材をどういう製品に結びつけるかを検討する中で浮かんできた1つの用途が電池でした。
電池業界を調べると、新型二次電池への社会的ニーズは非常に高く、当時も既に研究開発は盛んに行われていました。ところが各社とも商品化にはことごとく失敗していたのです。ネックになっていたのが負極材料。電気化学的な機能のあるポリアセチレンならば負極材料として活用できるのではないかと考え、電池の研究開発に取り組みました。最終的に負極材料にはカーボンを使いましたが、スタート段階ではポリアセチレンで試みていました。
柏木: リチウムイオン電池を搭載したEVはガソリン車と異なり走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しません。リチウムイオン電池が社会に一層普及・浸透すれば地球全体の環境負荷を低減することができますね。
吉野: ノーベル財団から説明されたノーベル化学賞受賞の理由は2つあり、1つが「モバイルIT社会の実現に貢献したこと」。もう1つが「サステナブル社会の実現に貢献すると期待できること」でした。電気をためるというリチウムイオン電池の機能が、まだ出現していないサステナブル社会の実現に大きく貢献するであろうと評価されたのです。ある意味で、大きな使命を負ったと感じています。
電池は発電するわけではないのでエネルギーシステムの主役にはなり得ませんが、名脇役といえる存在です。モバイルIT社会はリチウムイオン電池がなければ成り立ちません。サステナブル社会でもその図式は全く同じ。なくてはならない存在です。