柏木孝夫氏(以下敬称略):2016年11月4日、20年以降の地球温暖化対策の枠組みを定めた「パリ協定」が発効しました。協定は世界共通の目標として、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2℃未満」に抑え、さらに1.5℃に抑えるよう努力することを明記しています。これによって世界は一気に「低炭素」から「脱炭素」へと舵を切ったと感じています。2017年は世界が競って脱炭素に向かい走り始める1年になるのではないでしょうか。

「実は消費されるエネルギーのうちの75%は熱など、電気ではない。ですから、熱の有効活用は省エネの大きな柱となり、コージェネの重要性も増しています」(藤木氏)
藤木俊光氏(以下敬称略):パリ協定は国際社会が一致団結して地球温暖化に取り組むことを決めた画期的な協定だと思います。先進国も途上国も関係なく、すべての国が参加して合意するというのは大変なことです。しかも、単に数合わせでCO2(二酸化炭素)削減量を決めようという姿勢ではなく、きちんと結果を出すために地球の温度上昇の限度を目標に据えた。まさに歴史的な合意です。
パリ協定で日本は30年に温室効果ガス排出量を13年比26%削減する公約を掲げています。今後はこの目標をどう達成していくかが問われます。
柏木: 国際社会での取り決めですから、机上の空論に終わらせるわけにはいきません。日本は今まで以上の省エネを進めなくてはならない。同時にデジタル革命を活用し、デマンド側からきめ細かく制御して効率的なエネルギーシステムを構築する必要があります。
藤木: 生産現場の人たちに話を聞くと、削って削って、という省エネは既にかなり手を尽くしている。別の角度から考えていくべき時期です。もしかしたら中期目標だけなら今までの延長で我慢に我慢を重ねて削っていけばギリギリで達成できるかもしれません。しかし、その先には「21世紀後半には排出量ネットゼロを目指す」という長期目標も控えています。これは我慢の省エネでは到底、達成できない。イノベーションと新たなインベストメントが必要です。
柏木: 今後、さらなる省エネを進めていく上で要となるのが熱の利用でしょう。デマンド側で地産地消型のエネルギーシステムを構築し、排熱も有効利用できるコージェネレーション(熱電併給)システムを導入して熱を使い尽くすことが不可欠だと思います。
15年に策定された「エネルギーミックス」の中で、コージェネは30年に1190億kWh、デマンド側で使う電力量の12%超を供給するという目標が掲げられました。定量的な数値が明記されたのは初めてのこと。コージェネがこのように位置づけられたのは画期的でした。
藤木: 実は消費されるエネルギーのうちの75%は熱など、電気ではない。ですから、おっしゃる通り、熱の有効活用は省エネの大きな柱となります。その意味でコージェネの重要性も増しています。単に機器を普及させるだけでなく、どう有効に利用するかが問われる局面になってきていると思います。
例えば、補助金を投じたある工業団地では規模の大きなコージェネシステムを導入し、その中の幾つかの工場が熱と電気を融通し合いながら活用しています。ここにICT(情報通信技術)で制御する仕組みを加えれば、ライドシェアサービスの「Uber」や空部屋シェアサービスの「Airbnb」のような、全く新しいサービスが生まれるかもしれません。設備、ICT機器等への新たな投資も引き出せるのではないかと思います。