柏木孝夫氏(以下敬称略):この鼎談では、「アフォーダブルで持続可能な低炭素エネルギーシステム」はどうあるべきかについて、議論していきたいと思います。
はじめにGXの国際動向についてお聞きします。世界はカーボンニュートラルに向けて歩みを進めてきました。しかし、米トランプ政権誕生を契機に、米国は化石エネルギーを重視するようになり、欧州はドイツを中心にリアリティーある解を探るようになるなど、変化も生じています。今の情勢をどう見ていますか。
日下部聡氏(以下敬称略):米国が化石エネルギーに回帰し、欧州は教条主義でなく現実路線での脱炭素を志向するようになったというのは事実です。ただ、世界の潮流が脱炭素から低炭素に変わったかと言えば、それはないと思います。
日本のエネルギー選択の歴史を振り返ってみてください。明治維新では、それまでの薪から石炭に転換しましたが、実現には40年かかっています。戦後の高度成長期には石炭から石油へと転換しましたが、これも40年ほどかかりました。石油危機を機に志向するようになった脱石油は、京都議定書と組み合わさって低炭素の流れになります。これも1970年代から30~40年かけて技術を確立しています。
今は2016年のパリ協定発効によって脱炭素へと舵を切ってから10年です。40年の営みで考えれば、第1コーナーを回ったところです。脱炭素への転換は今も継続している最中です。
生成AIの普及で電源需要の爆発的な増加が見込まれる中、各国とも、脱炭素型電源を開発すべきであるという認識を確実に持っています。米国は原子力を徹底的に追求し、化石エネルギーを使うためのCCS(CO2の回収・貯留)にも力を注ぐ。中国は風力・太陽光・電気自動車(EV)など得意な脱炭素技術を極める。エネルギーの主権を巡って、各国とも自国に有利な技術への集中投資を始めた局面だと捉えています。
岩城智香子氏(以下敬称略):脱炭素に向けた技術開発に関して、現時点で「これ」という決定的なものはありません。また、技術は時代を追って重要性が顕在化してくることがあります。例えば熱は扱いづらく関連技術が社会実装されにくい面がありましたが、脱炭素化の中で新たな価値が見いだされ注目されています。段階的に減らすとされていた原子力も、「第7次エネルギー基本計画」では最大限活用する方針が明記されました。今の段階で何か選択肢を切り捨てるのではなく、エネルギーについては長い時間スケールで技術開発を継続していくべきと思います。2026年度から排出量取引制度(GX-ETS)が始まり、カーボンプライシングが導入されます。企業も脱炭素に向けた技術開発への投資をより合理的に決定することが期待されます。