地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」の発効、電力・ガスの完全自由化など、エネルギーを取り巻く環境は大きく変化しつつある。我が国では大規模電源にコージェネレーション(熱電併給)システムや再生可能エネルギーなどで構成する分散型電源を調和させ、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術できめ細かく需要を制御する環境性・経済性・安定性の高いエネルギーシステムの構築が求められている。
政府は国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一つの課題に「脱炭素社会実現のためのエネルギーシステム」を挙げ、有望技術の開発・導入に動く。日本が構築すべき新しいエネルギーシステムのあり方について、SIPを担当する内閣府の赤石浩一政策統括官(科学技術・イノベーション・原子力担当)とエネルギーシステム研究の第一人者として国のエネルギー政策に長年かかわってきた東京工業大学の柏木孝夫特命教授/名誉教授が語り合った。
柏木孝夫氏(以下敬称略): 2018年7月、「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。第4次計画を決定した2014年からの4年の間に「パリ協定」が発効し、国内で電力・ガスが完全自由化するなど、エネルギーを巡る環境は大きく変わりました。特にパリ協定の発効で、世界は「低炭素」から「脱炭素」へと走り始めた観があります。内閣府政策統括官として、この流れをどう見ていますか。
赤石浩一氏(以下敬称略): パリ協定は日本にとって非常に良い枠組みだと思います。京都議定書は制限的、規制的な枠組みをメーンとするものでした。目標を達成しないと罰せられることから、各国とも目標を低く設定し、それをクリアすることに躍起になってしまった。日本もそうです。低い目標にとどめた上で、省エネや温室効果ガス排出量の少ない原子力へのシフト、「クリーン開発メカニズム(CDM)」で数合わせをすることばかりに目が向いていました。これではイノベーションは生まれません。
パリ協定には罰則などの規定はありません。京都議定書とは発想が逆になり、各国とも高い目標をつくることに力を注いでいます。こうした状況はイノベーションを創出する上で極めて重要だと思います。
柏木: 高い目標なくしてイノベーションは生まれないということですね。イノベーションは技術開発だけで創出できるものではありません。社会・経済システムの構造改革につなげ、新たな付加価値を生み出す流れをつくることが必要です。それには縦割り組織での対応では限界があり、省庁横断での取り組みが求められます。

「パリ協定には罰則などの規定はありません。京都議定書とは発想が逆になり、各国とも高い目標をつくることに力を注いでいます。こうした状況はイノベーションを創出する上で極めて重要だと思います」(赤石氏)
赤石: まさに、そこがこれから最も変化が求められる部分だと思います。パリ協定は産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇を「1.5℃以内」にとどめることを目指しています。「2℃以内」を目指す場合とは全く異なる対応が必要です。エネルギー・環境問題に限定した取り組みで終わるのではなく、大々的に包括的に省庁横断的に取り組み、社会・経済構造を変えなくてはなりません。
こうした背景も踏まえ、今、政府は「ソサエティー5.0」を提唱しています。IoT(モノのインターネット)、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータ等の新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れてイノベーションを創出し、一人ひとりのニーズに合わせる形で社会的課題を解決する超スマート社会をつくり、世界をリードしていこうという考えです。この構想を具体化するにはデジタルプラットフォームをつくらなくてはなりません。
エネルギーは、その大きな柱となります。