柏木: 産総研は2019年から「RD20(Research and Development 2 0 for clean energy technologies:クリーンエネルギー技術に関するG20各国の国立研究所等のリーダーによる国際会議)」を主催しています。吉野さんも参加していらっしゃると思いますが、どのような内容でしょうか。
吉野: RD20は脱炭素社会を実現するクリーンエネルギーテクノロジーに焦点を当てた国際会議で、2つのセッションに分かれて議論をしています。1つは「テクニカルセッション」で、ゼロエミッションにからむ最先端の技術について情報交換を行いました。もう1つの「リーダーズセッション」では、G20のトップ研究機関の長がテクニカルセッションで集まった情報を踏まえ、国際連携を強化する可能性について議論しています。コロナ渦にあった2020年はリモートでの開催でしたが、新しい技術、コンセプト、発想でゼロエミッションにつなげていく道を見出すことができ、大きな成果がありました。

政府は2020年1月、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づき、「革新的環境イノベーション戦略」を策定しました。5分野・16課題・39テーマを設定し、これにより世界のカーボンニュートラルと、過去に排出された大気中のCO2をも削減する「ビヨンド・ゼロ」を達成する革新的技術を2050年までに確立しようという非常に野心的な戦略です。(柏木氏)
柏木: エネルギー戦略は国家戦略そのものです。島国の英国は、独り立ちできるよう、再生可能エネルギーを拡大しつつ原子力も含めた複数のエネルギー源を取り込むエネルギーミックス政策をとっています。ドイツは原子力発電と石炭火力発電の廃止を決めました。各国が国情に応じた戦略を講じていますが、日本のエネルギー戦略はどうあるべきでしょうか。
吉野: EUのように国際連系線で他国と結びつくことができない日本は再エネを導入する際のハードルが高くなります。場合によっては途上国にプラントをつくった方が合理的なケースもあるかもしれません。確かにエネルギー戦略は国家戦略ではありますが、地球全体を考えた時に、日本だけですべてをまかなおうとする必要はないように思います。
柏木: 国際連系線は敷いていなくても、技術を通してアジアなどと連系する道は考えられるということですね。それを実行する際の要になる存在として、ゼロエミッション国際共同研究センターの重要性は極めて高いと感じます。
一方、産総研は2020年6月、東京湾岸エリアを世界に先駆けてゼロエミッションに関するイノベーションエリアに進化させようと「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会」を設立し、「東京湾岸ゼロエミッションイノベーションエリア」構想を掲げました。私はこの協議会の会長を拝命しています。ゼロエミッション国際共同研究センターは事務局を務めますが、吉野さんはどのような思いを持っていますか。
吉野: 東京湾岸エリアには、様々な企業、研究機関などゼロエミッションにつながる技術開発を行う組織がたくさんあります。製鉄所や石油コンビナートなど、CO2を排出する工場もあります。CCS、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)を実証するには絶好のエリアであり、ゼロエミッション技術の実現に向けた取り組みを加速したいと考えています。
ゼロエミッションを取り巻く環境は、世界でも日本でもこの1年で大きく変わりました。最も変わったのは産業界の取り組み方。今まで、どちらかというと「CO2排出量を減らす努力をして、少なくとも世間からそしりを受けないようにしたい」という受け身の姿勢でしたが、ここへ来て、「ゼロエミッションは大きなビジネスチャンスにつながる。ぜひ参画しよう」という積極的な姿勢に転換しています。私自身も、地球環境問題は決して防御的な課題ではなく絶好のビジネスチャンスだと考えています。産業界が本気で動き出した今の状況は、将来に大きな期待ができると感じています。
柏木: ゼロエミッションによって新たなビジネスモデルが次々に生まれると期待したいですね。吉野さんがヘッドを務める組織が東京湾岸を起点にゼロエミッションを実現しようというのですから、世界に対しても極めてインパクトが大きい取り組みだと思います。私も会長として、東京湾岸ゼロエミッションイノベーションエリア構想の実現に全力を注いでいきます。今後ともご指導をお願いいたします。