
――サステナビリティー(持続可能性)、特に脱炭素については日本でも意識が高まっています。企業は具体的にどのように取り組めばいいのでしょうか。
伊藤ひとくくりに脱炭素といっても、やれることはいろいろで、企業によってパターンは異なります。化学やセメントのようにCO2を大量に排出する企業は排出量をどう減らすかということが重要になりますが、家電メーカーであれば技術や製品でCO2削減に貢献することができます。
平手海外はもちろんですが、日本でも最近は興味深い取り組みがたくさんありますね。ある通信会社は仮想空間でアパレル商品の試作から流通、宣伝までを行う仕組みを提供してCO2の排出量を抑え、鉄道会社では火力発電に代わる水素で列車を走らせる実証実験を行っています。

――企業はこれからの経営戦略上、脱炭素をどう位置付けるべきでしょうか。
伊藤これからの取り組みについて考える場合、まず、企業にとっての脱炭素は10年前、20年前の議論とは位置付けが違ってきていることを理解すべきでしょう。もともとは社会に大きな影響を及ぼす気候変動リスクを低減するという社会的責任のためのもので、多少はコストがかかっても仕方ないというスタンスでした。でも最近はそれだけではなく、企業が成長するための活力につなげていくためのものという考え方が主流になってきています。
サステナビリティーへの取り組みは市場のメカニズムと連動します。それに背を向けることは企業の業績面でマイナスに働きます。脱炭素への取り組みは、政府や機関投資家だけでなく広く国民が関心を持つようになっているからです。
平手それは検索サービスの使い方にも現れています。世界の主要5カ国でサステナビリティーに関する検索キーワードを調査したところ、多くの消費者が、商品の選択に迷ったときに、しっかりとサステナビリティーに取り組んでいる企業のものを選ぶ傾向があることがわかりました。こうした消費者の行動様式の変化に企業も気づいているのではないでしょうか。
――それにしても「2050年カーボンゼロ」は高い目標ですよね。
伊藤そうですね。まずは、電力や鉄道、化学、自動車などの各領域で雑巾を絞るように着実にCO2を減らしていくことになります。ただ2030年のカーボンハーフ(2000年比で温室効果ガス排出量を半減)まではなんとかできても、2050年のネットゼロはその延長線上では達成できません。削減とは別の“トランスフォーメーション”(変革)が必要です。それには新しいテクノロジーの開発・活用が欠かせません。Google のような最先端のテクノロジー企業に期待される役割はさらに大きくなるのではないでしょうか。
平手私たちも脱炭素に向けては、いろいろな取り組みを進めており、一部はすでに企業が提供するサービスの中で活用もされています。

――具体的には、どのような取り組みでしょうか。
平手例えば米国では2021年、Google マップの経路検索で、到着時間や距離だけでなくエコの観点からルートを検索・選択できるサービスを開始しました。車両の移動ルートに加え、飛行機のフライトやホテルについてもサステナブルな視点から情報を提供しています。
B2Bの視点でも弊社が開発したツールが活用されています。その一つがEIE(Environmental Insights Explorer)です。地図データとモデリング技術によって都市ごとの温室効果ガスの推定排出量と太陽光発電による削減予測量を算出して公開しています。
伊藤脱炭素は組織だけでなく、地域単位で進めることが大切です。データを使って都市の状態を見える化すれば、目標が明確になり、社会全体としての脱炭素への取り組みがスピードアップしていくかもしれません。
平手現在は世界344の都市のデータを公開しています。2030年までに世界の500都市をサポートすることで年間1ギガトンのCO2排出量の削減を目指しています。
――企業が“トランスフォーメーション”を生み出していくとすると、何がポイントになるでしょうか。

伊藤大切なのは自社の目標を設定して具体性と透明性を持って取り組むことです。目標を設定すればアイデアが出てきます。日本企業はそうした取り組みが得意です。
多くの企業がDX(デジタル変革)の推進を掲げていますが、成果が上がっていないのは明確な目標がないからです。一方で、脱炭素を目指したグリーントランスフォーメーション「GX」は目標がはっきりしています。デジタル技術を使ってどんな価値を生み出すかと考えるほうがDXに取り組みやすいのではないでしょうか。
平手確かにユースケースがないとDXは前進しませんね。GXをDXのユースケースに位置付けることにより、企業としての指針が見えてくると思います。

グーグル ・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表
平手智行(ひらて・ともゆき)
1961年生まれ。87年、日本IBMに入社。アジア太平洋地区経営企画、米IBM戦略部門を経て、2006年、日本IBM執行役員と米IBMバイスプレジデントに就任。国内では通信、メディア、流通、公益などの業種別事業やサービス事業を担当。11年末に退職し、米ベライゾンのエリアバイスプレジデント、ベライゾンジャパン社長に転身。15年7月、米デル バイスプレジデント兼デル代表取締役社長に就任。19年8月、デルとEMCジャパンの代表取締役会長に。同11月から現職。
経済学者 東京大学名誉教授
伊藤元重(いとう・もとしげ)
1951年、静岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長などを経て現職。安倍晋三政権の経済財政諮問会議議員。経済学博士。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウオーキング・エコノミスト」として知られる。著書に『マネジメント・テキスト ビジネス・エコノミクス 第2版』『入門 経済学 第4版』など多数。
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