提供:Google 協力:日経BP 総合研究所

THE NEXT X 変革の扉

テクノロジーによる社会の未来への貢献を目指すグーグル。
「AI の力で解き放とう、日本の可能性」というビジョンに基づく日本における取り組みを紹介する

岩村 水樹 氏
Vol.37

AI時代の人材育成に包括的な解を
スキルとカルチャーの両面から支援

グーグル
岩村 水樹 氏
情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」によれば、生成 AI について前向きな取り組みをしている日本企業の割合は半分以下にとどまり、米国企業の約8割と比較して大きな差が開いている。その背景として、生成 AI への理解不足などリテラシーに関する課題が指摘されている。こうした日本の課題解決に取り組んでいるのが、これまで数々のイノベーションを生み出してきたグーグルだ。実は同社は、その組織運営の中で培い、蓄積してきた人材育成についての知見をベースに、日本の働く人のスキルアップや、日本企業の組織文化変革の支援に取り組み、その多くを無償で提供している。2026年3月には、リーダー向けの新たな育成プログラムの提供を始めた。なぜグーグルがトレーニングプログラムを提供するのか、そこにはどういった意義があるのか。日本における人材育成支援の取り組みをリードしてきたグーグル ヴァイス プレジデント アジア太平洋・日本地区 マーケティングの岩村水樹氏に話を聞いた。

イノベーションは
チームの心理的安全性があってこそ生まれる

岩村 水樹
Google
ヴァイス プレジデント
アジア太平洋 日本地区 マーケティング
岩村 水樹

――人材育成に関わるようになったきっかけを教えてください。

岩村人材育成に直接関わるようになったのはグーグルに入社してからです。その頃の日本法人はまだ小さな組織で、私が唯一のワーキングマザーでした。マーケティングの責任者としての仕事と慣れない子育てとの両立に全力投球していました。

 そうした中、Women@Google という女性社員のコミュニティが米国のグーグルでスタートしました。同様の試みを日本でも始めるために、自分にも何かできるのではと考えて周囲の女性社員にヒアリングしたところ、「今のままでは働き続けられない」という切実な声が返ってきたので驚きました。それまで私も当たり前だと思っていた、長時間オフィスにいるという旧来型の働き方が、彼女たちのキャリア形成の障壁になっている――。そう実感して、女性を含む全ての社員が働きやすい環境をつくれるよう、働き方やカルチャー改革のプロジェクトを自ら立ち上げました。そしてそうしたグーグル社内での取り組みを日本の働き方改革に生かしていただけるのではないかと考え、スタートさせたのが「Women Will」です。2014 年から続けているこの活動では、テクノロジーを活用することで、女性とその周囲の人を含むより多様な人材が活躍できる社会の実現を目指して様々な支援プログラムを提供してきました。

 テクノロジーを活用して、よりスマートな働き方をつくることを提唱した「ワーク・スマート」という書籍を出版したのも、こういった思いからです。当時あまり知られていなかった「心理的安全性」についての啓発にも大きく貢献したと思っています。

――そもそもなぜ、グーグルが社員以外の人や他社にまでこういった支援を提供するのでしょうか。

岩村グーグルは創業以来、テクノロジーを通じて社会の課題解決を目指すという目標に向かってきました。そのために「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスして使えるようにすること」という世界共通のミッションを掲げてもいます。しかし、テクノロジーの恩恵を享受するためには、テクノロジーを使いこなすスキルと、それを持った人が活躍できる環境が不可欠です。そのための支援を提供することは、グーグルのミッションを実現することでもあるのです。

 企業として持続的にイノベーションを生み出していく上で、個人のマインドや能力を伸ばすことが必要なのは言うまでもありません。それに加えてグーグルには「イノベーションは一人の天才から生まれるのではなく、多様な人材で構成されるチームの力を最大化してこそ生まれる」という考え方があります。そのために最も重要なのが安心して意見を言える文化的土壌であることは、グーグル社内の調査でも実証されていました。そこで、心理的安全性の構築を体系的にトレーニングするプログラムも設計して導入してきました。

組織とカルチャーの変革は
リーダーのマインドセット・チェンジから

岩村 水樹氏

――2026年3月に日本で始まった「Google People Management Essentials(PME)」という新しいプログラムもその発想の延長線上で生まれたのでしょうか。

岩村PMEはグーグル社内のリーダー育成機関によって設計された新任および次期リーダー志望者を対象とした約8時間のオンライン講座で、4つのコースで構成されます。2025年10月に米国などで外部への提供を始めました。

 グーグルの20年にわたる社内調査の結果によれば、リーダーは、組織のパフォーマンスとカルチャーの形成に大きな影響力を持つことが分かっています。心理的安全性もリーダーの一言で変わってきます。1on1でやってほしいことだけを言うのはタスクの指示でしかなく、相手の言葉に耳を傾けて思いを見抜く力が大切です。PMEではこうしたスキルを身に付け、リーダーとしての力量をアップすることを目標としています。そのために、傾聴力や具体的なフィードバック方法、心理的安全性を高める言動といったソフトスキルを身に付けるプログラムと、マネジメントツールとしての AI の活用法を学ぶプログラムの両方をカリキュラムに盛り込んでいます。

――カルチャーを根付かせるのは容易ではありません。変革を進めるためのキーポイントは何でしょうか。

岩村重要なのはマインドセット・チェンジです。トレーニングを受けること自体がマインドセット・チェンジであり、組織や受け手の文化的な文脈も踏まえて、相手に刺さる伝え方を設計して実践していってほしいと考えています。実際に手応えがあったケースを振り返り、そのモジュールを翌日の行動変容に応用し、相手の行動が変わった経験を生かして新しい展開につなげていくような、本人の意図的な取り組みが重要です。

 企業としてプログラムやトレーニングを導入する場合には、押しつけにならないように配慮することも大切です。受講者が次の人のトレーナーになるような仕組みや、リスキリングを生かす場をつくることも必要です。戦略的な意図を持って導入しないとリソースの無駄遣いになってしまいます。

日本企業の課題は「スピード感」
AI活用を含めたリーダーの力量が問われる

――AI時代のリーダー人材育成に求められるものは何でしょうか。

岩村AIによって人の可能性は広がりますが、その恩恵を引き出すには、実践的なスキルとカルチャーの両輪が必要です。トレーニングで終わることなく、いかに実践していくかで大きな差が生じてきます。

 私は、AI時代のリーダーシップを「Conviction(確信・信念)」を核とした「5つのC」で整理しています。グーグルでもよく議論しますが、プロジェクトのプロセスを「0から10」のフェーズで考えるなら、「0から1」を生み出すのは、人間にしかできない Conviction(確信・信念)です。「なぜこれをやるのか」「何を変えたいのか」という人間の純粋な好奇心や問いが、全ての原動力となります。

 その後の「2から8」のプロセス、すなわち膨大な情報の整理や構成案の作成などは、AIが得意とする領域です。ここでは以下の3つのCが機能します。

・ Culture(カルチャー):AIを恐れず試行錯誤できる組織の土壌
・ Critical Thinking(クリティカルシンキング):AIの回答の真偽や妥当性を見極める目
・ Creative(クリエイティブ):AIのアウトプットを組み合わせ、新しい価値へと飛躍させる創造性

 そして最後の「9から10」の仕上げ、すなわち最終的な意思決定と魂を込める作業は、再び人間の役割である Craft(クラフト) が担います。AIが導き出した答えを、血の通ったメッセージへと昇華させ、全責任を持って世に送り出す。この「最初と最後」を責任を持って完遂する力こそが、AI時代のリーダーに求められるのではないでしょうか。

――日本企業の課題はどこにあるとお考えでしょうか。

岩村課題の核心は「スピード」です。世界に伍していくには商談のレスポンスや意思決定をいかに速くするかが問われています。そのためにAIの活用は必須ですが、AIの答えを全て受け入れるということではありません。人が判断して次の打ち手に素早く移ることが求められています。

 日本の企業は間違いを避けたいという心理から判断が遅くなりがちですが、それはAI活用のスピードを阻害します。失敗は学ぶことと捉えて試行錯誤を繰り返すことが大切です。そのためにもリーダー自身がリスクを取って失敗から学んでほしいと思います。分からないことを教えてくださいと言える関係性を築くことも必要です。

 しかし、日本のあらゆる人のスキル向上や全国の企業の組織変革を実現することは、グーグル1社ではできません。そこでグーグルが発起人となり、政府や地方自治体、多くの民間企業と連携して「日本リスキリングコンソーシアム」を2022 年に設立しました。現在250以上の団体が加盟し、各種トレーニングプログラムを提供しています。具体的な成果を一緒に創出することで、日本のAI時代のイノベーションに貢献していきたいと考えています。

岩村 水樹氏

Google Japan Blog

このブログでは、Google のサービスや技術に関する日本国内の最新情報、AI 技術の進展、製品のアップデート、企業の取り組みなどが紹介されています。

Google Japan Blog はこちら

CONTENTS