
「ここ数年、工場のような定型タスクではなく、これまでロボットが苦手としてきた『人間が生活する非構造的な環境』でのタスク解決がこの分野の焦点になっています」。座談会の冒頭、Google DeepMindで幅広いリサーチに取り組んできたライア・ハドセル氏はこう切り出した。能力の高い生成AIモデルをロボティクス分野に持ち込むことにより、ロボット開発における課題の質そのものが大きく覆されつつあるという。
多くの産業用ロボットを開発してきた安川電機 AIロボティクス統括部長の久保田由美恵氏も「同じことを正確に繰り返すことを追求するロボットは製造現場の生産性を向上させてきましたが、対象物や環境が曖昧な場合は対応できませんでした」と振り返る。しかし、その場の状況に応じて、目的を達成するために最適な行動を選択するAIによって、状況が変わりつつあるという。「AIにより判断力と作業力を併せ持つロボットの導入が進んでいます」と語る。
ここでモデレーターのジョナス・シェン氏が、「こうした状況の中、日本の潜在的な強みやユニークな特徴はどこにあるのでしょうか」と課題提起。これに対し久保田氏は、「日本の強みは、これまで培ってきたものづくりの力と現場への対応力」と語り、最先端のAI技術を「安全に、リアルに使える状態で現場に導入する」点で日本はまだ強いと指摘する。

また、AIとロボティクスを研究テーマとする東京大学特任助教の松嶋達也氏は「労働力不足という社会課題は、社会的には危機ですがロボット産業にとっては日本の強みでありチャンスです。人手不足が深刻だからこそ、汎用ロボットやヒューマノイドの導入ニーズが猛烈に高く、それをどうレバレッジ(てこ)にして技術を発展させるかが重要です」と指摘。さらに、学部 1 年生が Gemini などの生成AIを活用してロボカップで優勝したという例を挙げ「生成AIという便利なツールがあることで、専門的な授業を受けていない学生でも高度なシステムを作れるようになり、研究に取り組みやすい環境が生まれています」と語る。
ハドセル氏は、日本の強みは3つあると指摘。「日本の学生や研究者がロボットに熱意を持っていること、AIに適した新しいロボットを生み出すハードウェア開発力があること、そして世界の他の多くの地域と異なり、文化的にロボットに対して非常に好意的なことです」と話した。

続いてシェン氏は「より安全で効率的な社会をつくるために、ロボットが果たすべき役割はどこにあるでしょうか」と問いかけた。ハドセル氏はまずDull(つまらない)、Dirty(汚い)、Dangerous(危険な)という『3D』の作業を肩代わりすること」を挙げた。災害現場での危険な作業などがこれに当たるという。そしてよりポジティブな役割として、高齢者へのサポートにも注目する。「移動や運動に困難を抱える人々が、より自立して生活できるよう支援すること」にロボットを活用すべきと語る。
久保田氏は「これまでのような省人化、省力化のためだけでなく、経営にインパクトをもたらすソリューションを生み出していきたいと考えています」と意欲を語った。「ロボットが工場の柵の中から出て、人の生活空間に入っていくこれからの時代、機能だけでなく『威圧感を与えない見た目』も重要になります。人に近い外見を持つヒューマノイドなど、適切な場所に適切なロボットを提供する準備を進めています」という。

「責任あるロボティクス」を考える上での課題については、松嶋氏が慎重な社会実装の必要性を挙げた。「『フィジカルAI』という言葉が盛り上がっていますが、これは物理的な力を行使できる技術であり、危うさもあります。技術の成熟度とリスクを見極め、どの領域から導入していくか慎重に考える必要があります」と問題提起した。
グーグルはこうした要求にどのように応えていくのか。ハドセル氏は「グーグルは『大胆かつ責任ある AI の開発』を掲げています。その姿勢は、ロボティクスにおいて何よりも求められていると考えます。課題の一つは『器用さ』と『強さ』のバランスです。人間の手は器用でありながら非常に強力です。ロボットは有能になるほど力も強くなり、危険も増します。人間レベルのタスクをこなす強力なロボットを人間環境に入れるには、安全性に対する深い研究が不可欠です」と決意を語った。
座談会の後半には来場者からの質問を受け付けた。「従来のプログラムベースのロボティクスから、ゆらぎのあるAIに変わると再現性が問題になります。どのように対応すべきでしょうか」との投げかけに対し久保田氏は「プログラムで自動化できていた領域を無理にAIに置き換えることは、我々は絶対にやりません。都度考えるAIは、あらかじめ決められたプログラムの速度には勝てないからです。プログラムでは対応できなかった『不確定な領域』こそがAIの出番であり、手法が増えたと捉えて最適な方を選ぶべきです」と回答。松嶋氏も「両方の特性を知って、使い分けるべきです。産業ロボット的なアプローチでやりきった後で、まだ人間が残っている領域を学習(AI)的なアプローチでやりましょう、というような見極めになっていくと思います」と話した。
もう一つの質問は「日本の強みはハードウェアを作れるところ。自分たちで作ったハードウェアをAIと結びつけていくためには、どのようなやり方が良いのでしょうか」というもの。これに対し松嶋氏は「AIを前提としたハードウェアの設計があると思います。VLM(視覚言語モデル)などを使う際も、どういう設計にすべきかというフィードバックがあるはずで、そこに合わせてパッと作って試せるのが日本の強みだと思います」とした。ハドセル氏は「建設や農業など、人間がいる環境で動くAI制御のロボットには、汚れたり、転んだりしても動き続けられるような『頑丈なハードウェア』が不可欠です。人間はけがをしても治りますが、ロボットはただ壊れるだけです。だからこそ、AIのために、より堅牢でタフな新しいタイプのロボットが必要だと考えています」と話した。日本の製造業が培ってきた応用力が強みとなって生かされるAI時代のロボティクスは、日本にとって大きなチャンスがある分野だと語られ、鼎談は大きな拍手とともに終了した。
当イベントのリポートは、Vol.33、Vol.35でも紹介している。

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