
――どのような経緯でDX推進リーダーの役割を担うようになったのでしょうか。
金谷今年1月に前任者から現職を引き継ぎました。臨床開発を長く担当し、その後、がん遺伝子パネル検査事業を立ち上げました。2020年からはデジタルツールを含むテクノロジーの探索を担当することになり、現在の部署と共同で議論してきました。前部署でデジタルに対する知見を深めていたことや新規事業を経験してきたことから今のポジションを任されることになりました。
宮澤以前は自動車会社でコネクテッドカーの開発を統括していましたが、デジタルサービスで社会を変えていくビジネスは都市開発や公共交通のような街のインフラを持っている企業のほうがふさわしいと考えるようになり、2021年4月に東急に転職しました。東急を選んだきっかけは、自分が東急沿線に住んでいてなじみがあったことと、沿線を中心としたたくさんの顧客接点を持って事業を展開していることです。社会を変えていくには顧客の数も重要です。

――伝統的な大企業でDXを進めることの難しさもあるのではないでしょうか。
金谷創薬には多額の費用がかかり、しかも成功する確率は低下しています。そうした危機感の中で当社はDXを成長戦略のキードライバーの1つに位置づけています。2019年10月に部門横断でDXを推進するデジタル戦略推進部を発足させました。
宮澤入社前に想像していた通り、グループ各社のシステムの連携が取れていませんでした。お客様目線でサービスを提供するには、点在しているシステムの連携と顧客の見える化が必要です。
ただ、100年以上リアルな事業を展開してきた企業のため、デジタルで新しいことをするという発想がそれほど強くありません。課題は、デジタルがリアルビジネスの懸け橋になるという発想に至らないことです。知らなければ気づくことはできません。
――DX推進でシステム開発の内製化は必須でしょうか。
宮澤DXでやることはたくさんあります。内製化はあくまでも手法の一部ですが、顧客向けのサービスに関しては変化のスピードについていけません。だからこそDXのど真ん中に内製化を持ってきました。エンジニアを中途採用し、少しずつデジタル活用を広げてきました。
ただ、エンジニアだけでビジネスはつくれません。既存事業の人たちとの共創が重要です。今はお互いに学び合いながら議論しています。座学よりもOJTのほうが大事です。
金谷本丸として目指しているのはAI創薬ですが、足場を固めるために積極的に業務変革のPoC(実証実験)に取り組んできました。KPI(重要業績評価指標)はPoCの数で、年間数十件に上り、本稼働に至ったものも数多くあります。誰でもPoCを提案でき、費用はデジタル戦略推進部が負担します。
これまでPoCと社内教育の両輪で新しい文化を醸成してきました。デジタル技術は成長力のコアですから、自ら身につける必要があると考えています。

根来DXの成功のポイントは、小さく素早く始めることです。TAPではそのノウハウも提供しています。
――TAPにはどのような効果があると感じていますか。
宮澤正式にサービスがリリースされる前から活用してきました。Google Cloudを使ったことがないエンジニアでも短時間で理解できるようになります。大事なことはテーマを決めて活用することです。開発する過程で課題を解決していくことで、より実践的な開発力が身につきます。
金谷Google Cloudのスタッフと一緒に取り組むことにより、開発スピードや効率性への理解が深まったことが大きな成果です。自分たちの抱える課題に対して利用できる武器が増えると同時に、周囲を巻き込んでやりたいことを実現する方法を体得できました。
根来TAPはフレキシブルに対応できることが大きな強みです。伴走しながらバリューを提供できます。
――今後の展開ではどのようなことをお考えでしょうか。
金谷画期的な医薬品とサービスの提供を通じて、新しい価値を創造し世界の医療と人々の健康に貢献することが当社のミッションです。例えば、がんになるリスクをデータから読み取り、予防方法と薬をセットで届けることができれば、発症を防げるかもしれません。
医療データの活用にはハードルもありますが、エコシステムを構築できれば様々な分野のデータを集め、より幅広く深い分析につなげられます。
宮澤そのような連携を実現するためにもデータ基盤の整備が必要です。ただ、多くの企業はシステム開発のような専門性の高い領域は外注することが当たり前という考え方ですから、課題になかなか気づけません。
だからこそ社内にデジタル人材を育てる必要があります。私たちは、100年間でも変革し続けられるサステナブル(持続可能)な組織をつくり開発を継続したいと思っています。正解のないチャレンジなので大変さもありますが、実現できればリアルとデジタルが連動することにより競合優位性を保ち続けることができます。
根来チャレンジするリーダーがいないと変革は起きません。企業のチャレンジをお手伝いすることで、日本および日本企業の将来に貢献していきます。
※中外製薬 金谷氏、東急 宮澤氏による Google Cloud Day ’23 Tour 特別講演の様子をご視聴いただけます(ご視聴にはイベントサイトへの登録が必要です)
Google Cloud Day ’23 Tour DAY 3 特別講演
――東急と中外製薬に聞く、DXを加速させる上での、内製開発、カルチャー変革、人材育成
DX加速に伴い、内製化やクラウドの活用が企業に求められる中、外部委託を行ってきた企業は、最新技術に関する知識不足、エンジニア不足やカルチャー課題に直面しています。そこで、DX先進企業の、中外製薬と東急に直撃インタビュー! エンジニア採用や育成、カルチャー変革を克服し、内製化に成功した秘訣やクラウドの有効活用方法を探ります。

中外製薬株式会社
デジタルトランスフォーメーションユニット
デジタル戦略推進部長
金谷和充(かなたに・かずみつ) 氏
2005年に臨床開発部員として新卒入社。10年以上中外創製品やRoche製品の臨床開発を担当し、複数製品の国内薬事承認をリード。2018年からマネジャーとして国内FMI事業および成長戦略「TOP I 2030」で掲げるインサイトビジネスを立ち上げ、米Genentech社ではデジタルを活用したPersonalized Healthcare(PHC)を担当。
東急株式会社
デジタルプラットフォーム
VP of Engineering
宮澤秀右(みやざわ・しゅうすけ) 氏
2015年までソニーグループの各社で勤務。最後の5年間は、スウェーデンのソニーモバイルで、ウェアラブルやIoTプロダクトのUXデザイン/企画統括を務める。その後日本に帰国。IoT化による自動車業界の革新を予想し、その年に日産自動車に入社。2016年から、ルノー日産アライアンスのコネクテッドカーサービスデザインを統括しながらデジタル内製化組織の立ち上げを実行し、2019年から日産のコネクテッドカーSW&UX開発を統括。2021年4月に、デジタルをフル活用したまちづくりの実現を目指し東急に入社。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
執行役員 マーケティング本部 ディレクター
根来香里(ねごろ・かおり) 氏
東京大学文学部卒業後、日本たばこ産業にてM&Aプロジェクト、商品開発などに携わり、2002年カーネギーメロン大学にて経営学修士号を取得。Amazon、Mozillaを経て、2008年Googleに入社。Google検索、Googleマップ、Google Chrome、Androidの日本でのマーケティングを担当。Google Crisis Responseのコアメンバーとして2013年5月に「イノベーション東北」を立ち上げる。2014年からGoogle Cloudの日本のマーケティング戦略の策定および実行を統括。
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