
――脱炭素に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)を中心としたサステナビリティー達成のために、企業には具体的な取り組みと同時に、その内容や成果についての情報開示が強く求められるようになってきています。
伊藤そうですね。データで現実を可視化することは重要です。企業としての責任を果たし、貢献していることを社会に発信して理解を得ていくためです。責任を問われて息苦しい面もありますが、大事なのは貢献度の部分です。ストーリーとして成果を語ることができれば、社会の理解を得ることができ、それが企業の成長につながっていくはずです。

平手グローバルコンサルティングファームのアビームコンサルティングでは、企業内外の諸データを活用してESGやSDGsの成果を定量的に把握する次世代経営管理を提供しています。そこでは弊社のデータ分析基盤が使われていますが、重要なのはこうしたデータの可視化を通して、「株主」資本主義から「ステークホルダー」資本主義への転換を促していることです。例えばカーボンニュートラルでも、その意義と貢献度をステークホルダーに伝えられれば、コストを価格に転嫁できるようになるかもしれない。今は大きな転換点に立っていると思います。
――そのように企業の価値基準が変わっていくとすると、人材も変わっていく必要がありますね。

伊藤重要なテーマです。2050年カーボンゼロを達成するには、今までとは違う技術や取り組みが必要です。そこにはイノベーションが求められます。それを生み出していく人材の育成・確保は企業の命運を左右します。これまで企業などで活躍してきた人たちに、新たな価値観や考え方、技術を習得させるリスキリングは、今後ますます重要性を増していくはずです。
平手まさにサステナビリティーとイノベーションは密接に関係していますね。そのために Google ではリスキリングのコンソーシアムをリードするなど新しい時代に向けた人材育成の支援を行っています。リスキリングで重要なのは、過去の成功体験を捨て去る「UNLEARN」です。新しい目標を新しい技術で追求するのですから、これまでの成功体験は通用しません。
伊藤世の中が変わり、技術が変わる中でリスキルは大切です。そこでは雇用体系の見直しが求められることにもなりますね。
平手DXを推進する際もそうですが、新たな価値を生み出していくには多様性と専門性の両方が求められます。従来の階層的な組織では上司が部下よりも知識を持っていましたが、これからはそういう時代ではなくなります。それを認めたうえでリスキルの旗を振らないと変革は進みません。
同じ価値観の人を受け入れるカルチャーフィットという考え方を社内にないスキルや経験を持った人を追加的に受け入れていく「カルチャーアッド」という考え方に変えていく必要があります。さらなる多様性を獲得するために外部からの人材を受け入れて融和していくことが求められています。
――サステナブルな社会と、それを意識した企業の経営を推進していくうえで鍵となるのはどんなことでしょうか。

伊藤大きな視点で見ると、国民全体を巻き込む仕掛けをどうつくるかです。消費者は世代によって意識が異なります。変化への対応も変わってきます。こうした変化をうまく取り込み、社会全体を動かすモーメントに変えていけるか、そこがポイントです。
一方、企業にとって重要なのはオープンイノベーションです。スタートアップ企業に駅のスペースを提供して無人コンビニの開発につなげた鉄道会社や、マッチングする場を提供している地方銀行などはオープンイノベーションの好例です。
平手まさにカルチャーアッドですね。実は、そのためにクラウドでできることがたくさんあります。お気づきの方も多くいますが、今のクラウドと、世に登場してきた当時のクラウドでは、できることが大きく異なります。異次元の差といっても過言ではありません。
通信の世界で「5G/6G」「Wi-Fi 6」など番号を付けて進化を示しているように、クラウドにも番号を付けるとすると、今のクラウドは「クラウド5.0」くらいでしょうか。サステナビリティーの達成のためには社内全体やサプライチェーン全体でデータを収集・分析する必要がありますが、今のクラウドであれば幅広くリアルタイムにデータを集めてAI(人工知能)で分析できます。
伊藤著書『フラット化する世界』で有名な米国のトーマス・フリードマンは「技術は急カーブで進化するが人はそうならない」と語っています。逆に考えれば、技術の進歩をテコに社会を変えていくことができるでしょう。
平手そこでもUNLEARNが必要です。過去の経験にとらわれず「危機感はデータで表現し、エグゼキューション(実行)はハートで」を皆さんと一緒に実現していきたいと思っています。

グーグル ・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表
平手智行(ひらて・ともゆき)
1961年生まれ。87年、日本IBMに入社。アジア太平洋地区経営企画、米IBM戦略部門を経て、2006年、日本IBM執行役員と米IBMバイスプレジデントに就任。国内では通信、メディア、流通、公益などの業種別事業やサービス事業を担当。11年末に退職し、米ベライゾンのエリアバイスプレジデント、ベライゾンジャパン社長に転身。15年7月、米デル バイスプレジデント兼デル代表取締役社長に就任。19年8月、デルとEMCジャパンの代表取締役会長に。同11月から現職。
経済学者 東京大学名誉教授
伊藤元重(いとう・もとしげ)
1951年、静岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長などを経て現職。安倍晋三政権の経済財政諮問会議議員。経済学博士。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウオーキング・エコノミスト」として知られる。著書に『マネジメント・テキスト ビジネス・エコノミクス 第2版』『入門 経済学 第4版』など多数。
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