
――昨年10月にグーグル・クラウド・ジャパンと戦略的提携を結びました。背景にはどんなことがあったのでしょうか。
藤井当社は中期経営計画で「AI前提社会」へのシフトを提唱し、私が担当する先端技術部門は「先端技術による事業策定と実践」を使命に掲げ、技術からイノベーションを創出して社会課題を解決する活動に取り組んでいます。
そこでのテーマの一つが、AIでどのような価値を提供していくかです。AIの役割を、ロボットなどを含む「AI労働力」、個人の生活を豊かにする「AI生活力」と定義して、新しい価値を模索しています。そして今、GoogleはAIの世界をドライブしています。KDDIはこれまで、携帯電話向けの検索エンジンからアンドロイド端末の販売などを通してGoogleと信頼関係を築いてきました。今回もGoogle Cloudと組むことで何かできないかと考えました。戦略的提携に至ったのは自然な流れです。
渕上当社のオープン性にも注目していただけました。Geminiにロックインするのではなく、エコシステムを広げていこうとしている点で、今回の新サービスと共通する部分があったのではないでしょうか。

――戦略的提携の成果の一つが、2026年7月に公開した「Buffmee」というわけですね。
藤井そうです。BuffmeeはAI生活力に関する取り組みの一環です。
木村私は3月まで社内でAIをどう活用するかを考える「AI-CoE」を担当していましたが、Buffmeeのアイデアはそのときに生まれました。実はGoogleが提供している「Gemini Notebook」から着想したものです。もともと社内ではGemini Notebookにマニュアルなどの情報を入れて業務サポート用のツールとして使っていました。そんな中で、Gemini Notebookと同じような仕組みをつくって、そこに当社が契約を結んだ出版社やWebメディアのコンテンツを入れたら、個人にAIサービスとして提供できるのではないかと考えました。
そうしてたどり着いたのがBuffmeeです。KDDIが集めた数多くのコンテンツの中から、ユーザーが希望するコンテンツを選んで、対話形式で求める情報を入手できるサービスです。

渕上KDDIはテクノロジーだけではなく、コンテンツをアグリゲーションするネットワーク基盤を有しておられます。そこにGemini Notebookのような仕組みを掛け合わせることで魅力あるビジネスが創出できると考えました。そこで、当社のAI技術者集団である「AI Blackbelt」のメンバーを参画させ、新サービスの技術支援を行いました。
藤井当社が信頼できるコンテンツを集めて提供することで、ユーザーは安心して自分の求める情報を入手できます。目的を決めずに情報を探す傾向が強い日本のユーザーの特性とも合致すると考えました。一方、コンテンツプロバイダーにとっては、使用頻度などに応じてKDDIが利用料を支払いますから、汎用の生成AIを介してコンテンツを無料で読まれてしまう「ただ乗り」の問題を解決できます。
木村AIによるインターネット上の情報の無断利用という社会課題を解決することにもつながりますし、当社はコンテンツプロバイダーと一緒にビジネスすることに慣れていました。Google Cloudと協業することでローカルのキャリアとして日本のユーザーの課題解決と社会課題解決の両方に貢献することができると考えました。
藤井つなげることは通信キャリアの役目です。コンテンツプロバイダー各社が、自らAIを活用して、ユーザーに最適なサービスを実現するのは容易ではありません。これに対して当社なら、アグリゲーターの立場をとれます。私たちがAIを駆使した細かいパーソナライゼーション機能を提供することで、コンテンツホルダーとユーザーの間をつなぐことができます。
――AIがもたらす自由度の高さはパーソナライズの世界を変えていくかもしれませんね。
藤井まさに“ハイパーパーソナライズ”の世界になっていくと思います。例えば、私たちが集めたコンテンツに加え、各ユーザーが持つ各種のコンテンツまで対話型AIが参照できるようになれば、今までよりも高度なパーソナライズが可能になるでしょう。
木村今回の開発ではAI Blackbeltチームからコンテンツの評価とチューニング手法、出版物のレイアウトのAIによる解析方法など、多くの知見をいただきました。その結果、マス向けにつくられたコンテンツをユーザーの意図に沿った形で提供できるという、AIによる検索と電子書籍の中間的なサービスを実現できました。
渕上当社のプラットフォーム上にKDDIで集約されたコンテンツが展開され、そこにAI Blackbeltのエンジニアの知見を融合させることで、新たなビジネスの景色が見えてまいりました。
――こうしたビジョンはB2Bの領域でも通じるものなのでしょうか。
藤井それぞれが自分の視点で情報を探したりまとめたりするというニーズは当然ビジネスの世界にもあります。教育コンテンツやトレーニング、パーソナライズされた秘書サービスなどチャンスは無限大です。ただし、B2Bではセキュアであることも大切です。2026年1月に大阪・堺にB2B向けのAIインフラを整備しました。Geminiをローカルで動かす環境を構築し、一部のお客様と評価・検証を進めています。ソブリン性が高く、機密性が担保できることで、金融や医療向けの新しいサービスに利用できるのではないかと考えています。
渕上新たな労働力として期待されるAIエージェントですが、ビジネスにおいて明確な成果を創出するには、人が介在するヒューマン・イン・ザ・ループのアプローチも不可欠です。セキュアな閉域網環境での活用も見据え、今後もお客様とともに、緻密な検証と評価に取り組んでまいります。
KDDI株式会社
執行役員 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長
藤井 彰人(ふじい・あきひと)氏
大学卒業後、富士通、Sun Microsystems、Google を経て、2013年にKDDIへ。法人部門にてクラウド事業やアジャイル企画開発を推進し、執行役員 サービス企画開発本部長、KDDI Digital Divergence Holdings 代表取締役社長を経て、2025年より現職。2009年から、情報処理推進機構(IPA) の未踏IT人材発掘・育成プロジェクトのPMも務め、若手人材の発掘育成をサポートしている。
KDDI株式会社
事業創造本部 AIプロダクト部 部長
木村 塁(きむら・るい)氏
2007年 KDDI株式会社に新卒入社。2020年データガバナンス室長として全社のAI CoEを率い、KDDIグループのプライバシーガバナンスに従事。2023年よりData&AIセンター長として、AI・データのガバナンスと利活用推進を担当。2026年からはAIプロダクト部長として、AI時代の新サービス開発を牽引している。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
執行役員 情報通信・流通小売物流 営業統括
渕上 和寿(ふちがみ・かずひさ)氏
2019年にGoogle Cloud Japanへ参画。流通小売部門の責任者として実績を積み、2025年より通信・流通小売の両事業部門を統合した営業組織を統括。2026年、執行役員に就任。長年のエンジニアリング・コンサルティング経験と営業リーダーシップを融合させ、AI活用を中核としたコンシューマインダストリーの産業変革を推進している。
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