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2018.06.01
文=太田利之
食の欧米化と少子化・高齢化の進行、さらに調理済み食品を自宅で食べる「中食」の増加など、日本人一人当たりの年間の米消費量は減少し続けている。農林水産省のデータによれば、1965年の一人当たりの米の消費量は111.7kgあった。それが10年後の1975年には88.0kgに減少。さらに2016年には54.4kgとなっており、約50年の間に半分にまで落ち込んだことが分かる。
そうした背景から、「稲作だけに頼る農業から、さらに市場競争力のある代替作物を」という動きが各地で生まれているのは周知の通りだ。それは「米どころ」でも決して例外ではない。日本有数の米どころである秋田県の北西部に位置し、世界遺産として知られる白神山地の麓に広がる能代市と藤里町からなるJAあきた白神においても、米に代わる戦略作物として、キャベツ、ミョウガ、山ウド、ネギ、アスパラを主要5品目に設定し、従来より栽培を促進。それぞれ「白神(しらかみ)」の名を冠し、着実に収益を上げてきた。
上記主要5品目の中でも、「白神ねぎ」は2010年に9億6000万円の販売額を記録し、10億円に肉迫しながら、以降伸び悩む状況が続いていた。「白神ねぎ」の市場は関東圏である。そこでの流通をいかに伸ばすかが課題だった。関東で人気の高い白ネギは、千葉、埼玉、茨城が三強体制を築いており、それぞれ『あじさいねぎ』、『深谷ねぎ』、『水戸柔甘ねぎ』などとして指名買いされるブランドを確立。さらに群馬の『下仁田ねぎ』は、高級品として料亭などでも珍重されている。一方当時の「白神ねぎ」は、地元秋田でこそ知られていたものの全国的な知名度は皆無だった。各地のネギブランドに肩を並べ、日本地図の中に秋田『白神ねぎ』の旗を立てたい――。そのためにはどうしたらいいのか?
JAあきた白神が改めてネギ市場を調査してみると7月初頭は春ネギと夏ネギの端境期となり、出荷量が非常に少ないことが判明した。JAあきた白神 営農部 営農企画課 課長 佐藤和芳氏は、プロジェクトの発端をこう語る。
「各地域のネギが品薄となるこの時期に出荷することができれば、より高値で販売することができ、地域振興の起爆剤として機能するはずと考えました。そこで2013年2月、JAあきた白神ねぎ部会、秋田県山本地域振興局、能代市、藤里町の連携の下、JAあきた白神内に『白神ねぎ10億円達成プロジェクト』を発足させたのです」
こうして「春ネギ」、「夏ネギ」、「秋冬ネギ」に加え、10月下旬に播種し4月の雪解けを待って定植する「越冬早穫り夏ネギ」に取り組み、より安定的に利益の出る農業経営への挑戦が始まった。
しかし、「越冬早穫り夏ネギ」を実現させるにはクリアすべき課題があった。10月下旬に播種した後、4月の定植までの間、厳冬の北部秋田でどうやってネギの苗を越冬させるのか?冬季に安定した温度管理を行うためには、相応に大きなハウスも必要になってくる。
「第一に考えたのは生産者の負荷軽減です。もし個別に育苗用のハウスを持つとなると、コストはもとより、貴重な圃場の面積を割くことになります。また、厳しい冬をまたいで半年にわたって苗の状態を管理するために湿度や温度に日々気を配らなければなりません。そうした冬季の育苗を一手にJAが引き受けることで、越冬早穫り夏ネギが現実的なものになると考えました」(佐藤氏)
JAが冬季の育苗を担う大きなメリットはもう1つある。生産者は秋冬ネギの作業に従来通り集中できる、という点だ。
「秋冬ネギの生産と収穫に影響を及ぼすことなく、春を迎えて畑が乾けば即座に『越冬早穫り夏ネギ』の定植に入ることができます。生産者とJAの連携プレーで、周年出荷体制の強化を図ることができました」(佐藤氏)
育苗ハウスの設置にあたって、JAあきた白神は、秋田県の補助事業「農業夢プラン実現事業」を活用。43%の助成を得てJA敷地内に90坪の育苗ハウスを2棟設置し、約2200枚・3ha分の苗供給を行える体制を整えた。こうした補助金の適切な選定も重要な仕事だと佐藤氏は語る。
「どのような時にどの助成を活用すべきか。日ごろから県や市の担当者と情報交換をしています。これまでもミョウガの病気の際に行政に助けてもらったり、生産調整の段階での相談も含め、長年の信頼関係を築いてきました。各種の助成や支援制度についても行政からのアドバイスを受けつつ、生産者のニーズを第一に考えた運用を心がけています」(佐藤氏)
作付面積拡大は生産者とJAの努力で自主的に推進できる。次なる課題は市場価格、つまり単価のアップだった。そのためには全国的な知名度向上も含めた「白神ねぎ」のブランド確立が欠かせない。
「市場競争力の高いブランドを作り上げ、販路を拡大するためには、『白神ねぎ』の品質担保が最重要。できる限りの支援を惜しまないでやってきました」と語るのは、販売促進やプロモーションを進める営農部 販売課の課長補佐 清水貴智氏だ。
「市場から支持される品質を担保するために、高頻度で抜き打ち検査を実施しています。白神ねぎは関東への出荷がメインです。当初東京の取引市場は2つでしたが、年間を通して品質の変わらない『白神ねぎ』の評判を聞きつけた他の市場からの引き合いなどが相次ぎ、徐々に取引先が増えていきました。加えて、大規模生産を可能にし、市場からの増量要請に柔軟に応えられるようになったことも、取引の拡大を後押ししました。現在は関東の7市場とお取引いただいています」
JAあきた白神では“最終顧客が求める食材のあり方”を求めて、丹念に各市場からヒアリングを実施。そこで集められた声に基づいて、出荷形態や箱のサイズまで決定している。
「白神ねぎは、太くてボリューム感があるのも特徴です。以前は3本結束で出荷していたのですが、東京の市場担当者から『核家族化が進んだ都会では、利便性や値頃感からも2本売りが最適な量だ』とアドバイスを受けました。早速、2本結束にしたところ、確かに販売量が拡大しました」(清水氏)
また「白神ねぎ10億円販売達成プロジェクト」発足当初からイメージ戦略にも注力。公募で「白神ねぎ」のロゴマークを設定し、ポスターやステッカー、缶バッチなどを作成した。動く広告塔としても機能する10tのラッピングトラックも、関東地方への納品には必ず出動させている。さらに、県内の土産物販売企業と『白神ねぎラー油』を共同開発するなど、6次化にも着手。『白神ねぎラー油』は、道の駅や秋田空港、東京駅などで販売され『白神ねぎ』の知名度アップに貢献している。