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2022.02.21
文=茂木俊輔
頑丈なスチール製の棚に上下3段に積み上げられたパレット。沖縄の離島、与那国島で生産された黒糖の塊30kgを詰めた箱が、整然と積み重ねられている。その数、1パレットにつき42箱。実に1000kgを超える。甘いにおいが香ばしい。
ここは沖縄県黒砂糖協同組合が那覇港の物流センターに借りる倉庫。パレットを載せた7列の棚が、その奥まで延々と続く。在庫の量は倉庫全体で1000t強。このうち3分の1程度が、協同組合の一員であるJAおきなわが抱える在庫だ。
こうした倉庫をJAおきなわは県内外7カ所に確保する。「検品を考えると県内に置くのが一番ですが、それだけでは足りなくなり、県外にまで置くことになりました」。マーケティング戦略室副室長の栢野英理子氏は説明する。
JAおきなわで抱える在庫は2022年春には最大5000t規模に達する見通し。年間生産量は2000~2500tというからざっと2年分に相当する。「卸や商社の倉庫も黒糖であふれていることから、販売量は大幅に落ち込んでいます」(栢野氏)。
販売量が落ち込めば生産が続く限り在庫は積み上がる。「原料であるさとうきびの不作など非常事態に備え、1年分は在庫として確保しておく必要があります。しかしここ数年、在庫は適正規模を大きく上回ります」。栢野氏は打ち明ける。
JAおきなわが黒糖の生産にあたるのは、与那国島のほか、伊江、伊平屋、粟国、小浜の4島を加えた離島5島。地元産さとうきびを収量と糖度で決まる価格で仕入れ、地元町村が整備した製糖工場で黒糖を生産する。業務用は1箱30㎏の固形黒糖や1袋20㎏の粉黒糖。小売り用は「かち割り」という角砂糖ほどの大きさの黒糖を詰め合わせたものだ。離島で生産される純度100%の黒糖は「沖縄黒糖」と呼び、加工黒糖とは区別する。
原料のさとうきびは気象条件や生育環境が厳しい土地でも栽培しやすい。その特性を生かす形で、これらの離島にはさとうきび栽培と黒糖生産という基幹産業が根付いてきた。ところが在庫がかさむ一方では、生産者とJAおきなわが二人三脚で築いてきた地域経済の先行きが危ぶまれる。在庫問題の解消は喫緊の課題だった。
JAおきなわでは2019年10月、緊急・重要課題を取り扱う「特命プロジェクト推進室」を組織内に新設したのに併せ、特命事項の中心にこの在庫問題の解消を据えた。事態の改善に向けて、こうして一歩を踏み出したのである。
それにしてもなぜ、沖縄黒糖の在庫問題は深刻化したのか――。
理由には何よりまず消費量の減少がある。黒糖の消費量はここ数年、砂糖全体と同様に減りつつある。沖縄黒糖はしかも、昔から食べられていたため高齢者向けのイメージが強く、食習慣が違う若い世代から敬遠されがち。黒糖製品をつくる最終メーカーでは安価な輸入黒糖への切り替えも進んだ。
国産から輸入黒糖への切り替えが顕著だったのは、台風被害が重なり、さとうきびの収穫量が過去最低にまで落ち込んだ2011~12年以降である。原料の収穫が減れば、沖縄黒糖の生産量も自ずと減る。黒糖から自社製品をつくる最終メーカーは供給に支障を来す。
「沖縄黒糖が欲しいのに手に入らないという非常事態が生じ、輸入黒糖への切り替えが進みました。しかもその後、将来の安定供給に不安を感じるなどの理由から、輸入黒糖をそのまま使い続けるメーカーが少なくありませんでした」(栢野氏)
そこに、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけた。沖縄県の入域観光客数はコロナ禍に見舞われ始めた2020年度実績で前年度比72.7%減。黒糖製品の販売は大打撃を受けた。しかも、まとめ買いを期待できるインバウンドはゼロ。栢野氏は「県内のホテルからは『客数も客層も変わってしまい、取り扱い量を3分の1に減らしても黒糖製品は売れなくなってしまいました』との声が上がるほどです」と嘆く。
沖縄黒糖の販売量が落ち込む一方、さとうきびはここ数年、収穫増が続く。「背景には、台風接近数の減少や栽培技術の向上、さらに国や県が2006年から主導する『さとうきび増産プロジェクト』の成果があります」(栢野氏)。
このプロジェクトは、基幹作物であるさとうきびの収穫が当時伸び悩む中、地域産業の振興を図る狙いで経営基盤や生産基盤強化などの面から増産への取り組みを進めようとしたもの。島ごとに目標を定め、その達成に向け関係者が連携してきた。