“牡蠣の殻”は農業にとって宝だった!?

「瀬戸内かきがらアグリ」事業の挑戦、JAグループ岡山

「米の地域間競争に備えねば」「牡蠣殻の処分先を広げたい」――。農業と漁業それぞれの課題意識が、地域資源循環型の事業を生み出した。牡蠣殻を施用した土壌で水稲を育て、収穫した米を「里海米(さとうみまい)」というブランドで販売する「瀬戸内かきがらアグリ」事業。仕掛人のJA全農おかやまは、地元の農業・漁業関係者、企業、行政などで構成する協議会を舞台に、「里海米」のバリューチェーン構築や「里海」の再生活動を後押しする。

 米はいま、競争原理の中で流通する。地域間競争を勝ち抜くには、ブランド米という武器が欠かせない。北海道は「ゆめぴりか」、山形県は「つや姫」、新潟県は「新之助」……。今世紀に入り、コシヒカリ超えを目指して各地で開発された米が、その力をふるう。

 潮目が変わったのは2018年。国は米政策を転換し、生産数量の目標を各都道府県に割り当てるのを止めた。米の生産調整にかかる政策の見直しだ。

JA全農おかやま 農産・園芸部 部長 小原久典 氏
JA全農おかやま 農産・園芸部 部長 小原久典 氏

 「この政策転換で地域間競争が激化すると関係者はみていました」。JA全農おかやま農産・園芸部部長の小原久典氏は当時を振り返る。

 小原氏が米の生産・集荷・販売の担当部署に異動したのは、その4年前。日本各地でブランド米の開発・販売がなされる状況を前にして、「岡山県でも何か差別化戦略を考えないと……」と焦りを感じていた。

 そんな時に出合ったのが、牡蠣殻である。

 牡蠣と言えば、生産量日本一は当時から群を抜いて広島県。農林水産省「海面漁業生産統計調査(2014年)」によれば、宮城県、岡山県、兵庫県、岩手県……と続く。瀬戸内エリアは全国の約8割を生産する一大産地だった。

 そこで困っていたのが牡蠣殻の処分だ。一大産地なだけに、むき身を取り除いた後の牡蠣殻が大量発生する。その重量は牡蠣全体の約8割とされ、生産量(2014年)から推計すると、瀬戸内エリアだけで11万4000t超に及ぶ。膨大な量の牡蠣殻を、どこで、どう処分するか――。

牡蠣殻を粗く砕いた製品。植え付け前に土壌に散布し、耕すことでよく混ぜる
牡蠣殻を粗く砕いた製品。植え付け前に土壌に散布し、耕すことでよく混ぜる

 「環境上の理由から、当時も焼却処分は行わず、海底に確保した堆積場で一時保管されます。ところが堆積場が満杯になり、牡蠣殻は行き場を失っていました。広島県では生産量を調整していると聞いています」(小原氏)

 一方で牡蠣殻には、化学的・物理的な特性から一定の効能が認められていた。海域では底質改善などに、陸域では園芸品目の資材として利用されていた。

 資材として利用されるのは、主成分であるカルシウムが土壌中のアルカリ値を上げる一方、植物の細胞壁を強化するため。さらに多孔質の形状が土壌中の有用微生物の活動を促し、その増殖を助けるからである。

牡蠣殻資材の施用で収量アップに期待

 実際それまでも、岡山県内でも牡蠣殻は土壌改良材として利用されていた。「米の裏作として麦を育てるとき、アルカリ土質を好む品目であることから、土壌中に牡蠣殻資材を投入すると良質な麦を収穫できる、と言われていました」と小原氏は解説する。

 その牡蠣殻資材を米にも利用しようという動きが、折しも小原氏が米を担当するころ、県内で出始めていた。

 「化学肥料の多用や酸性雨の影響で土壌が酸性化し、その中性化が求められていたのが動機の一つです。しかも、牡蠣殻資材は中性化によく用いる苦土石灰に比べ、土壌が団粒化しやすい。土壌の通気性や排水性などが向上し、微生物の活動が促進される。水稲の生育に好ましい環境を整えられます」(小原氏)

 これらのメリットは、収量アップへの期待を高める。生育に好ましい環境を整えられるうえ、牡蠣殻から溶解するカルシウム成分やミネラル成分が成長を促す。また茎の細胞壁が強化されれば、収量低下につながる倒伏を起こしづらくなる。

 漁業関係者が処分に困る牡蠣殻を、県内の各JAで組織するJAグループ岡山として米づくりに生かす――。この地域資源循環型の米づくりを、小原氏は岡山独自の差別化戦略として採用することを決める。

牡蠣殻を粗く砕いた製品のほか、粒状の製品や粉末の製品がある
牡蠣殻を粗く砕いた製品のほか、粒状の製品や粉末の製品がある

 牡蠣殻資材は、昭和20年代から製造・販売してきた広島県福山市の卜部産業からJA全農おかやまが仕入れ、県内の2JAに卸す。JAではその牡蠣殻資材を生産者に販売する一方で、収穫された米を集出荷する。

 そこで打ち出したのが、「里海米」というブランドだ。

 「当初は、『かきがら米』や『ミネラル米』という名称を想定していました。ところが、『里海資本論』(井上恭介・NHK「里海」取材班、角川新書、2015年7月)という新書を上司の紹介で読む機会があり、そこで『里海』という言葉と出合ったのです」。小原氏は力を入れて語る。

 解説によれば「里海」とは、「人手が加わることによって、生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と定義される瀬戸内海発の学術用語という。

「里海米」を中心に、純米吟醸酒「里海の環(さとうみのわ)」や「里海野菜」など、岡山県内のさまざまな農畜産物の「里海」ブランド化を進める
「里海米」を中心に、純米吟醸酒「里海の環(さとうみのわ)」や「里海野菜」など、岡山県内のさまざまな農畜産物の「里海」ブランド化を進める

 瀬戸内海の「豊かな海」を取り戻そうと、「里海」の再生活動が展開されていた。

 過去に実施した汚染対策等に加え、海がやせた背景には、米の作付面積の減少もある。「海に流れ込む工場・生活排水への有機物の規制が厳しくなったことも理由ですが、水田から河川を通じて海に流れ込む栄養分が減少したことも無縁ではありません」(小原氏)