地方発ヒット商品開発のセオリー

地域と連携して6次産業化を推進するJA小松市

400円を超えるレトルトカレーが売れている。その名も「おいしいトマトでつくったカレー」。近年増加する地方発ヒット商品の1つだ。レトルトカレーといえば200円台以下だけで多くの商品がひしめく競争の激しいジャンル。その中で、400円超えといえば結構な高額商品だ。そうしたレトルトカレーがなぜ売れるのか、その秘密を探る。

トマトの産地アピールの取り組みを開始

 ご当地B級グルメとして知られる「金沢カレー」を生んだ石川県は、カレー好きが多い地域である。金沢の空の玄関口、小松空港の土産店でもカレーコーナーが設置され、多くの地元レトルトカレーが競う。その中で、ひときわ存在感を放つのが「おいしいトマトでつくったカレー」(以下、トマトカレー)だ。これは地元のJA小松市が手掛けた商品。小松市は北陸3県(石川・富山・福井)一のトマト産地であり、その豊富なトマトを活用した6次産業化商品だ。JA小松市 営農部 営農企画課 課長 谷口成氏は、「管内のトマト農家は経営が安定していることもあり、後継者が多く30代、40代の若手生産者が半数近くいます。若手が多いのでトマト生産部会の議論や活動は活発です」と語る。

トマトカレーをはじめ、小松産のトマトを使った商品が人気だ

 トマトカレー開発の発端は、2007年にJA小松市の直売所「JAあぐり」がオープンしたこと。「この辺りではJAあぐりが産直のはしりで、かなり話題になりました。生産者が直接食べ方を提案する試みが喜ばれ、競って出品するようになりました」(谷口氏)。

JA小松市 営農部 営農企画課 課長 谷口成氏

 そのような中、JAあぐりでトマト産地としての認知度アンケートを実施したところ、地元の人にほとんど知られていなかった。JA小松市のトマト生産部会はこの現状に危機感を持ち、トマトカレー開発につながった。そんな理由で? と思うかもしれないが、トマトは日本全国で生産され、産地間競争が厳しい。安全意識の高い消費者は、産地を気にするようにもなっており、生産地として生き残るためにはアピールが欠かせない。地産地消が言われ始めた頃でもあり、まずは地元で認知されることからと取り組みを開始した。

トマトカレー商品化に手作りで着手

JA小松市 営農部 営農企画課 北口則子氏

 手始めにJAあぐりで「とまとまつり」を開催。これは、生産者が店頭に立って消費者と対話しながらトマトを提供する販促イベントだ。そこで生産者のレシピによるトマト料理の試食会を実施。人気が高い商品の6次産業化の検討を始めた。JA小松市 営農部 営農企画課 北口則子氏は、「生のトマトは日持ちしませんが、商品になっていれば多くの方に食してもらえる可能性が広がります」と語る。その有力候補として、「とまとまつり」で一番人気だったトマトカレーが挙がった。他にハチミツを加えただけのトマトジュースも人気が高く商品化を検討したが、おいしい商品に加工できなかった。当時、金沢のカレー消費量の多さが話題になっていたこともあり、受け入れられる土壌があるとしてトマトカレーに決定した。

 商品開発を始めた2007年の管内のトマト生産量は約1500トン。その約2%、30トン程度が規格外として廃棄されていた。それを少しでも活用し生産者の収入増につながればという側面もあったが、当初は肝心の生産者の反応は芳しくなかった。

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「小松とまと」は程よい酸味と爽やかな甘さが特徴だ

 規格外を買い取るとはいえ、カビが生えたり、ひどい割れや汁漏れがあるものは除外してもらう必要がある。その作業に手間がかかるのだ。当初の様子を北口氏は、「最初は面倒だと思われていました。そこで繰り返しお願いし、商品の販促を行っている様子などを報告することで、少しずつ理解してもらえるようになりました」と振り返る。

 素材集めを進めつつ開発に着手したが、JA小松市が6次産業化に取り組むのは初めて。どう作ればいいか、全く分からなかった。「調理施設もなかったため、県立翠星高校の施設を借りました。レシピはできましたが、加工技術が未熟で雑菌によりパックが膨張してしまい、売り物になりませんでした」(北口氏)。小ロットで製造してくれる加工業者も見つからず、一旦行き詰まってしまった。

自治体の支援や民間企業との連携で本格的な商品化に着手

 手作りに限界を感じたJA小松市は、本格的な商品化に取り組もうと石川県が実施する「いしかわ産業化資源活用推進ファンド」に応募。採択され、2009年から3年間にわたって石川県と小松市の支援を受けることが決まった。成分分析では北陸学院、試作・製造では地元の桃宝食品と連携する体制を構築。「トマトカレープロジェクト」がスタートした。

 県からコンサルタントを紹介され、指導や支援を受けながらプロジェクトは進んだ。商品開発面では、子ども、大人、健康志向、地元の4ターゲットを決定。飽きられないように、それぞれをターゲットとした商品を2010年から毎年1つずつリリースしていった。子ども向けには「マイルド」、大人向けにはイノシシ肉入りの「ワイルド」、健康志向向けには小松産大豆を使った「ヘルシー」、地元向けには名産の丸いも・大麦が入った「プレミアム」の4種である。

 製造パートナーの桃宝食品は、小ロットの製造にも対応してくれた。2011年には国の総合化事業計画の認定を受け、トマトをカットして冷凍貯蔵するための1次加工施設を整備。当初は規格外トマトの集荷具合に合わせて随時製造していたが、この設備ができたことで年間を通して計画的に製造できるようになった。

 ネーミングやパッケージの大切さも、プロジェクトを進めながら学んだ。パッケージに関してはデザインコンペを実施。コンペ自体が宣伝ツールとなり、認知向上に貢献した。パッケージの折りや梱包は、市内の授産施設に依頼。農福連携により地域社会にも貢献している。