エリア限定戦略で高収益ブランドを創出したJA石垣牛

~特産品の付加価値を高め市場を築いたJAおきなわの取り組み

沖縄本島の南西約400キロに位置し、年間100万人以上の観光客が訪れる石垣島。ここで生まれ育った「JA石垣牛」は、国内外のグルメ通の間でも人気の高いブランド牛として知られている。実際、島を歩くとそこかしこに焼肉店が存在し、その多くが「JA石垣牛」の看板を掲げ、地元の人や観光客で賑わっているのに驚かされる。沖縄本島からも離れた南の島で育まれた牛が、多くの人に愛されるブランドを形成するまでには、生産者とJAのさまざまな取り組みがあった。地域特産品の高収益ブランド形成について成功のポイントを探る。

「ここでしか食べられない」希少性が人気を呼ぶ石垣牛

 石垣島の特産品「JA石垣牛」が人気だ。その販売は島内に限定され、「JA石垣牛」を目当てに観光客が訪れる。市場人気の高まりによる単価の上昇も相まって販売総額も順調に推移し、2014~2016年度におけるJA石垣牛肥育部会の販売高は、約6億1,700万円から約9億6,700万円へと大幅な伸びを示している。

 「石垣牛」の名を世に知らしめる契機となったのは、2000年7月に開催された『九州・沖縄サミット主要国首脳会議』だ。沖縄県名護市で開催されたサミット晩餐会で、メインディシュとして「JA石垣牛」のステーキが提供され、各国首脳から称賛を浴びたのである。

 だが、これだけで「JA石垣牛」というブランドが形成されたわけではない。2001年秋の牛海綿状脳症(BSE)発生では風評被害を受け、出荷頭数もダメージを受けた。そうした危機を乗り越え、JAおきなわでは生産者や精肉業者・小売店と連携、多角的な施策で高収益ブランドの市場を築き上げてきた。工場で大量生産される商品と違い、「牛肉」という食材のブランド化は一筋縄ではいかない。どの要素が欠けてもブランド化成功に至ることはなかった、取り組みの数々を紐解いていきたい。

「JA石垣牛」とは、JA石垣牛肥育部会に加入している部会員が八重山郡内で生産・育成された素牛を郡内で肥育し、JAおきなわ八重山地区畜産振興センターを通して販売された枝肉を指す
「JA石垣牛」とは、JA石垣牛肥育部会に加入している部会員が八重山郡内で生産・育成された素牛を郡内で肥育し、JAおきなわ八重山地区畜産振興センターを通して販売された枝肉を指す

プレミアム感を醸成する地産地消戦略

 まずは特産品の顔となるブランド名の擁立である。2002年には「JA石垣牛」の商標登録を取得。出荷頭数が再度上昇し始めた2006年に、JAおきなわは「JA石垣牛」の地域団体商標を申請した。地域団体商標とは、JAなどの事業協同組合が一括管理することによって、その会員にのみ使用権が保護される「地域名+商品名」の商標だ。JAおきなわ八重山地区畜産振興センター センター長 兼 畜産部長の大城一也氏は、地域団体商標の意義を次のように話す。

JAおきなわ 八重山地区畜産振興センター センター長 兼 畜産部長 大城 一也氏
JAおきなわ 八重山地区畜産振興センター センター長 兼 畜産部長 大城 一也氏

 「石垣牛を地元産業の発展に貢献する旗印にするのと同時に、誰もが簡単に石垣牛を名乗れない抑止力を持たせるのが大きな狙いでした。この地域団体商標があることで、生産者の利益を守ることにもつながります」(大城氏)

 2008年4月、申請から2年間の審査期間を経て、念願の地域団体商標を取得する。また、この段階で基本的に島外の市場への出荷を止め、出荷はJAおきなわと石垣市、竹富町による第3セクター方式で運営される「八重山食肉センター」での枝肉単位の競りに一本化する。ここでは島内の卸業者を対象としており、一部を除いて島外に出荷されないことから、「現地に来ないと食べられない」門外不出のプレミアム感の醸成につながった。限られた肥育頭数を逆手に取った地産地消戦略だった。

 とはいえ、商標登録だけではブランドは守れない。品質の保証された牛肉が確実に消費者に届くよう、精肉業者・小売業者への流通にまで目を配った施策が求められる。JAおきなわでは、「石垣牛」の商標と品質を守るために、枝肉を購入する精肉業者に対して、一頭ごとに「信頼・安心・安全」を保証する証明書を発行。その肉を利用する飲食店やスーパー、小売業者には、石垣牛取扱店舗認定証を発行する仕組みを築いた。

JAおきなわ 八重山地区畜産振興センター 畜産部畜産課 仲盛 拓也氏
JAおきなわ 八重山地区畜産振興センター 畜産部畜産課 仲盛 拓也氏

 JAおきなわ八重山地区畜産振興センターで肥育と販促を担っている畜産部畜産課の仲盛拓也氏はこう語る。

 「現在、島内に散在する焼肉店の中で、石垣牛ラベルを掲げている認定店は約60店舗あります。今後も認定店の数を増やすと同時に、既存の認定店に対しても、順次精査していく予定です」(仲盛氏)

JAおきなわの発行するJA石垣牛取扱店舗認定証と石垣牛ラベル
JAおきなわの発行するJA石垣牛取扱店舗認定証と石垣牛ラベル

 観光地という地域特性を活かした「JA石垣牛」の販促活動も積極的に展開してきた。JAおきなわでは、認定店への主な集客方法として、空港で配布する無料観光案内書やガイドブックへの掲載、スキューバダイビング店での紹介などを促進。さらに、タクシードライバーやレンタカー会社によるロコミ効果なども大きく、島を上げての販促協力体制が敷かれている。

 「加えて、石垣市営球場を拠点とする千葉ロッテマリーンズの春季石垣キャンプに際して、毎年『JA石垣牛』を贈呈するなどの認知度アップ作戦も、着実な成果を上げてきました」(仲盛氏)

生産者ごとの肥育品質のバラつきを無くす

 ブランド形成の最大の柱はなんといっても「品質の担保」である。「JA石垣牛」の場合には、離島という環境からブランドとしての質的均一性が維持しやすいというメリットがある。とはいえ、従来生産者ごとに肉質のバラつきがあったことは否めない。食用牛にとって肉質は重要な問題であり、特に「サシ」と呼ばれる脂肪交雑や、香りに対する影響が大きいのが肥育に用いる飼料の配合だった。

 そこで、JAでは「JAおきなわ八重山肥育センター」での長年の肥育経験を通じて、肉質向上や枝肉の歩留まりの均一化を図るために配合飼料の統一を図った。現在、「JA石垣牛専用配合飼料」を肥育部会全員が使っており、活用のための「飼料給与マニュアル」も作成した。

 自身も20年間にわたって石垣牛を育ててきたJA石垣牛肥育部会 部会長の比嘉豊氏は次のように話す。

 「現在、JA石垣牛肥育部会の会員は41名いますが、いずれも繁殖から肥育までの一貫経営が基本です(※JA肥育センターを除く)。出生から出荷まで一貫して牛の素性が明らで、トレーサビリティが徹底し消費者に大きな安心を届けることができます。一方で、生産者ごとに使う飼料や肥育方法が異なれば、ブランドとしての肉質を一定に保つことが難しくなります。JAの肥育センターで育った牛は当時から品質が評判でした。そのノウハウを生産者全体に行きわたらせる上で統一飼料やマニュアルが役立っています」(比嘉氏)

JA石垣牛肥育部会 部会長 比嘉 豊氏
JA石垣牛肥育部会 部会長 比嘉 豊氏

 また、飼料の価格変動や安全面への配慮は生産者にとって頭の痛い問題だ。そこで「JA石垣牛専用配合飼料」では地元産素材にこだわり、石垣産の稲ワラを利用する独自の体系を樹立した。そもそも石垣島は、沖縄県内でも有数の稲作地域であり、年2回収穫できる二期作が進められ、日本で最初に稲の収穫ができることでも知られている。そこで生産される日本一早い島産米の稲ワラや、暖地型自給粗飼料を活用することで、飼料コスト削減と共に、稲作農家にもメリット還元を図る「耕畜連携」の施策に乗り出している。

 「まさに八重山生まれ八重山育ち、安全な飼料で育った『島の牛』による地産地消体制が、ブランドを支えているのです」と比嘉氏は笑顔で話す。

飼料となる島内産の稲わらは、石垣牛の安心を訴える好材料になっている
飼料となる島内産の稲わらは、石垣牛の安心を訴える好材料になっている