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2023.03.15
文=長田真理
福島県の農業生産は、米、野菜や果物などの園芸作物、畜産がそれぞれ約3分の1と、バランスの取れた構成となっている。2021年の農業生産額は約1913億円で全国17位。その中で米は574億円と、全国7位を誇る米どころだ。2022年の作付面積の1位は、東北では福島県が最大の生産量を誇る「コシヒカリ」。特に会津産コシヒカリは、毎年のように最高ランクの「特A」評価を獲得してきた。一方、2位には福島県産のオリジナルブランド米「天のつぶ」がつける。
「天のつぶ」は、穂が出るときに天に向かってまっすぐ伸び、粒ぞろいが良くしっかりとした食感が特徴。草丈が短く倒れにくいため育ちやすい。市場に登場したのは2011年、そのため復興のシンボルともなった。15年の歳月をかけて完成を見た、自慢の一品だ。福島県のオリジナルブランドは他にも、大粒で歯ごたえと適度な粘りが特徴的な「里山のつぶ」や、より個性的な「福、笑い」が並ぶ。特に2021年本格デビューの「福、笑い」は、県が今最も力を入れるトップブランドだ。14年間かけて開発され、生産できるのは厳選された生産者のみ。技術とこだわりを結集して生み出した「かおり、あまみ、ふくよかさ」を強みに、ブランド力向上と消費拡大を図る。


現在はこのように質、量ともに回復した福島県産米だが、2011年当初はかなり厳しい状況だった。現在JA全農福島で米穀部 部長を務める斎藤好忠氏は、事故直後に全農本所へ転勤。3年間を東京で過ごした。その時期、消費者からの厳しい反応にショックを受けたと、次のように振り返る。「東京の駅や繁華街で福島フェアを何度か開催しましたが、なぜ福島の農産物を売るのかと言われたりしました。街で新米のサンプルを配ったときは、何かを知らずに行列に並んだ方が、福島の米だと分かると受け取らずに帰ってしまうこともありました」。
福島県内でも消費者の目は厳しかった。事故前は県産米がスーパーの棚の約8割を占めていたが、急激に他県産米が増えたという。現在全農パールライス 東日本事業本部 福島支店 営業課 課長で、当時JA全農福島の米穀部に在籍していた円谷正博氏は、「当時から出荷する米は放射能検査結果が基準値以下のものしか出していませんでした。それでも、スーパーになぜ置くのかと聞いてこられる方はいます。こうなると店員の負担が増えるため、県産米を置きたがらないという悪循環が起きました」と語る。

2012年4月に厚生労働省が設定した食品中の放射性物質(セシウム)の基準値は100ベクレル/kg以下。この値は食品の国際基準を作るコーデックス委員会の基準値と、内閣府食品安全委員会の評価を勘案し、摂取量と放射能の影響から限度値を算出した上で、最も厳しい値から決定されたものである。2015年以降、セシウムは一切検出されていない。つまり身体への影響はないのだ。しかしそう説明しても、一定数の消費者には受け入れられなかった。
現状の悪循環を断ち切るには、「安全」を訴えるだけでは不十分と考え始めた。「『福島の米はおいしい』というメッセージを打ち出すようになりました」(円谷氏)。米づくりに適した豊かな気候風土と、良味・高品質への積極的な取り組みが育んできた、福島県産米のおいしさ。そこに改めて立ち返ることが、飛躍に向けた重要な一手だった。
いうまでもなく、食品の第一条件である安全性の確保と、情報公開の取り組みは十全に行ってきた。中心的に担ったのが、「ふくしまの恵み安全対策協議会」である。同協議会は福島県が主体となり、JAや漁協を始めとする生産団体や卸、市場、消費者団体などが集まって設立された。
放射性物質の基準値100ベクレル/kgを超えないための対策は、生産と出荷の両面から進められた。生産面ではまず水田の表土を削った。さらに検証を重ねた結果、田植え前の田起こしの段階で土にカリウムを撒くと、稲がセシウムを吸収しないことが判明。土壌改良を地道に進めていった。
生産された米は放射能検査を経て出荷となるが、基準値を超える商品を絶対に見逃さないため、2012年産米から全量全袋検査に踏み切った。食品検査は、生産量の一部のみを抜き取って行うサンプル検査が一般的。生産物の全てを余さず検査する全量全袋検査は、世界初の試みだった。
しかも福島県は米どころである。事故直後はそれまで年間約35万トンあった生産量が25万トン強に減少したとはいえ、それだけの量を全て検査するのは並大抵のことではない。それでも県は約200台の検査機をJAの検査場などを始め県内各所に設置。出荷米だけでなく自家用米、くず米に至るまで、全ての米を検査する体制を整え、検査の仕組みは協議会のウェブサイトで詳細に公開した。