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2025.01.08
文=茂木俊輔
「小串トマト」の一番の魅力は甘さ。糖度は平均7度以上を誇る。トマトは一般に3~5度と言われるから、その差は歴然。しかも、うま味があり、酸味とのバランスもいい。味の良さが、食べやすさの決め手である。

JAながさき県央北部営農センター指導振興課で小串トマトを担当する福田智大氏は、その魅力を身近に感じる一人だ。「4歳の息子はトマト嫌いなのですが、小串トマトに限っては、おいしいと食べてくれます」。
トマトの名は、産地である小串郷に由来する。長崎県央に位置し、南に大村湾が開ける高低差のある集落。のどかな風景の中に小串トマトを生産するビニールハウスがひしめき合う。生産者はわずか5軒。希少性の高い作物だ。
本来トマトは夏野菜だが、小串トマトはハウス栽培のため、毎年1月から6月までの間に収穫期を迎える。店頭に並ぶのは他の産地の露地栽培ものが出回る前となり、そこにも強みがある。
わずか5軒の生産者が丹精して育てた、甘くておいしい冬春のトマト――。その希少性の掛け合わせが、産地名を冠したブランド価値を生む。キャッチコピーは、“幻のトマト”。タイミングが合わないと、実物を手に取ることさえできないというわけだ。

生産量は年間200tに満たない水準で、糖度、大きさ、傷の有無など、一定の基準に従って選果し、主に大都市の福岡や地元の長崎・佐世保の市場に出荷する。価格は2024年実績で1kg当たり489円。生産者の一人である一瀬渉氏は「価格は年々上がっています。やはり、希少性の賜物と言えます」と笑顔を見せる。
小串郷でトマトの栽培が始まったのは60年ほど前。一瀬氏の祖父世代がハウス栽培に取り組み出した時期である。当時はハウス栽培の創成期。「そこで何を栽培するのか、試行錯誤を重ねる中、トマトに行き着いたのです」(一瀬氏)。
30年ほど前からは、味にこだわり出した。きっかけは病害への対策だ。当時の経緯を一瀬氏が明かす。「病害の原因は水。その与え方を見直し、できるだけ量を抑えるように注意しました。すると、甘いトマトが実るようになったのです」。
水を減らすと甘さが強まることは、当時から知られてはいた。トマト内の糖分が、水で薄まりにくくなるからだ。その代わり、トマトの大きさは通常の半分程度にとどまる。収量も自ずと半分程度に落ちてしまう。
品種(種)に違いはない。小串トマトで用いるのは、「華美(はなみ)」と「感激」の2種類。いずれも甘みが乗りやすいものだ。ただ、ごく普通の水量でこぶし大にまで育つ通常の大玉トマトを、あえて小さく甘く育てる。

収量を取るか、味を取るか――。小串郷のトマト生産者は岐路に立ち、後者を選択した。理由はひとえに差別化。トマトというごくありふれた野菜でほかの産地と差別化を図るには、味を究めるほかない。そう覚悟を決めたのである。

特殊な栽培法だけに苦労は尽きない。トマト生産者として一瀬氏と同じ3代目にあたる吉本健太氏は「水の与え方をどうすればいいのか、試行錯誤を重ねないと分かりません。いまだに答えを探り続けています」と職人気質を見せる。
何しろ個別性が強い。個体によって蒸散スピードが異なるため、一つひとつの株に向き合う必要がある。「まず目を向けるのは、葉です。シャキッとしている葉が、ダラーッとしてきたら、水の与え時です」。吉本氏は水やりの勘所を明かす。
ただ、この見極めはあくまで感覚。さらに水を与えるにしても、どの程度の量を与えるのがいいのか、判断は分かれる。天候や日差しによっても変わるため、素人目には複雑な方程式を解くかのような難解さだ。

答え合わせの機会はある。糖度計での測定だ。目指す糖度を確保できているか、そこで確認する。目安は平均7度以上。「定期的に糖度を測定し、基準に達しているか確認しあう」と一瀬氏は解説する。
販路の開拓には、JAながさき県央が生産者5軒で組織する小串トマト組合とともに長年取り組んできた。当初は大消費地である大都市を狙い、主に福岡の市場に出荷してきた。希少性があるだけに、そこでさばけはする。ただ、収量を抑えてでも味にこだわる以上、販売単価を最大化し、同等以上の収益を確保したい。
単価の引き上げを目指す戦略は2つ。一つは地元の特産品としてブランド価値をさらに高めること、もう一つは高級感を打ち出せるギフト用市場の開拓だ。
地元の特産品化に向けてはまず、地元である長崎・佐世保の市場を出荷先に加え、同市内に本社を置くスーパーのエレナに供給する仕組みを整えた。小串郷で生産する2品種のうち「感激」は、エレナ向けのものだ。