いちご農家も“働き方改革”

パック詰めの負担を減らし、収量と単価を向上させたJAからつ

いちごは労働集約性の高い農産物だ。出荷ピーク時には、早朝から収穫し、選別・パック詰め作業が深夜に及ぶこともある。過度な労働負担はいちご生産者減少の要因のひとつとなっており、産地を維持するための負担軽減が避けて通れない。地域づくりの切り札としてだけでなく、農家の「働き方改革」を目的として導入されたのが、出荷調整作業を担うJAからつの「いちごパッケージセンター」だ。

過酷な労働環境に支えられるいちご生産

 佐賀県北西部に位置するJAからつは、2006年に4JAが合併して誕生した。温暖な気候に恵まれ、ハウスみかんの生産は日本一を誇る。次いで売上高が多いのが、いちごである。いちごは労働集約性の高い農作物だ。収穫だけでなく、選別、パック詰めまでかなりの時間がかかる。JAからつ管内のいちご農家は、ほとんどが家族経営で、収穫期は早朝から夜まで働き詰めだった。

働き詰めだった頃を語る本弓寿徳氏
働き詰めだった頃を語る本弓寿徳氏

 その様子をJAからつ いちご部会 部会長 本弓寿徳氏は、「いちごは気温が高くなると傷むため、午前8時までに収穫を終えます。そのためピーク時は午前2時、3時から収穫し始めます。選別・パック詰めには、収穫以上に時間がかかり、最盛期は夜遅くまでかかります。それでも詰め切れず、下位等級のいちごを廃棄することも。寝不足でイライラし、家族とよくケンカもしました。家族全員で食卓を囲むことは夢のまた夢でした」と振り返る。

 このような過酷な労働環境もあり、生産者も減少。管内では1990年の544戸をピークに、2017年には270戸と半分以下になった。政府は「一億総活躍社会」というキャッチフレーズのもと「働き方改革」を推進している。2019年4月、「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」「長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の3つを柱に、働き方改革関連法案が施行された。時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間とし、臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)を限度とすることが定められた。対象範囲も大企業から中小企業へと及ぶ。「働き方改革」は農家においても決して対岸の火事ではない。労働人口減少、生産者減少への対策は喫緊の課題で、労働環境の改革なくしては、いちご産地として生き残っていくことは難しい状況だ。

生産者の負担を劇的に変える「打ち手」

生産者数の減少について危機感を語る山口康宏氏
生産者数の減少について危機感を語る山口康宏氏

 この状況を打開するためにJAからつが設立したのが、いちごのパック詰めを行う「いちごパッケージセンター」だ。同センターに地域のいちごを集め、まとめてパック詰めを行うことで各生産者の負担を軽減し、働き方そのものを変えてもらおうという試みだ。その狙いをJAからつ 唐津中央営農センター(いちごリーダー) 園芸指導係(係長) 山口康宏氏は、「生産者の負担軽減を第一に考えました。生産に集中できる環境を整えることで、販売金額増加や生産者数・生産面積の拡大が図れると考えたからです」と語る。

 同センターの作業の流れはこうだ。生産者が持ち込んだいちごを翌日まで予冷し、エチレンカットを行う。植物が成熟する際に生成するエチレンガスは、流通過程においては過熟や腐敗につながるため、除去することで品質を高められる。翌日、予冷庫から出したいちごは、従業員が1粒ずつ選果機のトレイに載せる。その際、傷があるものは目視で確認し排除する。選果機が重さや色、形、糖度などを自動計測し、それぞれの大きさ、等級のレーンに運んでいく。流れて来たいちごをきれいにパック詰めするのは人の手だ。その際にも目視で傷をチェック。上部にセロファンを貼る最後にもう一度チェックした後、出荷する。

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JAからついちごパッケージセンターの作業風景

 従業員数はピーク時で90名体制。地元の女性やベトナムからの研修生も働く。「作業員の確保が難しいため、2年前からベトナムの研修生を受け入れています。皆真面目に働いてくれます」(山口氏)。

 「働き方改革」においては、外国人労働者の活躍も欠かせない。政府は「日本再興戦略 2016」の中で人材の育成・確保等における施策として「外国人材の活用」を盛り込み、推進している。厚生労働省が2017年におこなった調査「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、対前年比で18%増の1,278,670人に達しており、外国人労働者の数は年々増加。今後、外国人労働者の活躍は、農業分野においても重要となるだろう。パッケージセンターは、こうした外国人労働者の活躍にも一役買っている。

パック詰め作業の時間が軽減され、収量が劇的に増大

 いちごパッケージセンターの稼働により、生産者の労働は劇的に変わった。生産者のパック詰め作業の負担を大幅に軽減しただけでなく、それ以外の作業に注力することも可能にした。本弓氏が「いちごは手間暇かけるほど良いものができ、収量も増えます」と語る通り、いちごは手間がかかる作物だ。しかし、繁忙期は収穫とパック詰めに追われ、管理が行き届かないことも多かった。

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いちごは苗に手間をかけるほど収量も増える

 実際、2016年のパッケージセンターの設立により、面積当たりの収量が増加。10アールあたりの数量は2015年の4083kgが、2017年には4375kgにまで増えた。本弓氏は、「時間と気持ちに余裕が生まれたことで、収量の拡大に積極的に取り組めるようになりました。破棄することもほとんどなくなり、下位等級のいちごも加工用として販売できるようになりました」と語る。