無限の市場に、安心の国産レモンで乗りだせ!

レモンの強みを生かし未来を拓くJA広島ゆたかの取り組み

日々の食卓の彩に、そしてさまざまな食品の原料として欠かせないレモン。実はその8割以上が海外からの輸入に頼っている。「大長ブランド」として珍重される温州みかんを送り出してきたJA広島ゆたかでは、みかんに続く第2の戦略作物としてレモンの育成を図ってきた。輸入品のシェアに食い込み、「大長レモン」のブランド力向上と生産者の収益拡大を実現するために、長期低温貯蔵による周年販売や6次化を展開。安心の国産レモンを武器に地方創生の未来を描く、JA広島ゆたかの取り組みを追う。

輸入レモンの独走が続く中、高まる国産レモンの需要

 現在、国内で年間に消費されるレモンのうち約5万トンがアメリカ・チリを中心とした中南米からの輸入品だ。国内流通量の8割を超えるその占有率の背景には、小売価格の安さに加え、季節によって産地の組み合わせを変えることで安定した周年販売体制が確立されていることがあげられる。

 一方国産レモンに目を向けると、年間生産量約1万トンのうち、63%に当たる6,350トンが広島県産で、2位が愛媛県(2,022トン)、3位が和歌山県(543トン)となっている(2015年 農林水産省調査)。

 菓子や飲料などバラエティ豊かな加工品群を見ても分かるように、本来レモンは果肉・果汁・ピールなど、全ての部分を余すところなく使うことができる作物だ。だが薬剤やワックスが塗布された輸入品では、そうもいかない。消費者の健康志向が高まる中、防腐剤・防かび剤(OPP)など、レモン収穫後に使用される農薬、いわゆる「ポストハーベスト」への懸念から、より安全・安心な国産レモンを求める声は多い。こうした機運を捉え、国産レモンを武器に市場シェア拡大に取り組んできたのが瀬戸内海の呉市豊町に本所を在するJA広島ゆたかだ。だがその道のりは平たんではなかった。

「みかんに続く強いブランドを」レモン増産への道のり

レモンの生産拡大の経緯について語るJA広島ゆたかの山根和貴氏
レモンの生産拡大の経緯について語るJA広島ゆたかの山根和貴氏

 元来広島は、みかんの生産が盛んな地域だ。直近の2016年を見ても、JA広島ゆたかにおけるみかんの年間販売数量は2,084トンとなっており、レモンの1,272トンを大きく上回る。だが、みかんの市場には、その成長性に課題があったと、JA広島ゆたか 営農販売部 部長の山根和貴氏は語る。

 「温州(うんしゅう)みかんの中でも呉の『大長(おおちょう)みかん』は、かつては関東でもそれなりのシェアがありました。しかし現在は広島の市場にしか出ていません。広島ではみかんのトップブランドとして認知されていますが、生産量も下降する中、再び関東の市場に送り出すのは難しい。また消費者の嗜好の変化で、皮をむいて食べる果実が敬遠される傾向にあるなど、みかんの全国的な人気も落ちてきていました。そこで着目したのがレモンです」

 かつて各家庭で箱買いされ、冬季フルーツのチャンピオンだったみかんの消費量は、1980年以降の30年間で約1/3にまで減少。総務省統計局の調査によれば1991年に9,334円だった世帯当たりの年間支出金額も、2011年には4,337円と半分以下になった。その原因としては、和室やコタツの減少など生活様式の変化も指摘される。

 「2000年頃ですが、みかんの価格が大きく下落した時期がありました。その際に、この地域がレモンの栽培に適していることに改めて注目し、『大長みかん』に続くブランドとしてレモンの生産を拡大し、日本一の産地にしよう!という声を上げたのです。みかんとレモンの2軸で、生産者の農業経営の安定と地域経済活性化につなげていきたいとの思いがありました」

 さらに山根氏は国産レモンだからこその“強み”があると語る。

 「ひとつはポストハーベストを行わない、安心して皮まで食べられるレモンだということ。そしてもうひとつは意外に思われるかもしれませんが“美味しさ”です。レモンの酸味に差はないと思われるかもしれませんが、お客様からは“酸味の中に甘みがある”“酸っぱさが柔らかい”など評価されることがあります。大長レモンを、“安心”と“美味しさ”を兼ね備えた、強いブランドに育てたいと考えました」

収穫期、たわわになった大長レモン。広島県におけるレモン生産の最大量を占める
収穫期、たわわになった大長レモン。広島県におけるレモン生産の最大量を占める

夏にレモンを売れ!高単価につながる周年販売を模索

 こうしてJA広島ゆたかが音頭を取り、近年2度のレモン増産計画が進められた。1度目は2003年にさかのぼる。

 「JAからの呼びかけに賛同してくれる生産者も多く、みかんからの転換を図ることで一定の増産に成功しました。ところが、これは私たちの反省点なのですが、増産を進める一方で販路拡大の詰めが甘かったため、5年くらいして販売単価が下がってしまい、増産も停滞。目に見える成果には至りませんでした」(山根氏)

 レモンを高く売るにはどうしたらいいか――。突破口は輸入レモンが席巻していた夏場の需要にあった。国産レモンは収穫期が10月から4月であり、端境期となる夏場は出荷量が不足し、国産レモンの単価は高騰する。何らかの方法で夏場の出荷を可能にすれば、生産者の収益拡大とシェア拡大が同時に図れるはずだ。

 「周年販売のためにまず始めたのが、袋詰めの大長レモンです。2008年頃のことですが、春にとれたレモンをひとつずつ特殊な包装資材の袋に入れて低温貯蔵しておいて、品薄で高値になる夏場に販売する計画をスタートさせました」

 これが現在に続く大長レモンの周年販売体制の始まりとなる。袋詰めには手間とコストを要し、細々とした周年販売体制だったが、ここに時代の流れが味方した。レモンを塩漬けして発酵させたヘルシーな万能調味料として「塩レモン」ブームが到来。これが需要の追い風となる一方で、アメリカの港湾ストも重なり輸入量にブレーキがかかった。さらに2013年には『ひろしま菓子博』が開催され、レモンを巡る地域産業による6次化の動きも加速。「大長レモン」の引き合いが急速に増えていったのである。

 「販路が大きく拓け、生産者への支払い単価も上がってきました。そこで2013年に、2回目の増産方針を打ち出したのです」

個別包装された大長レモン。手間とコストがかかり大量貯蔵に向かないのが難点だ
個別包装された大長レモン。手間とコストがかかり大量貯蔵に向かないのが難点だ

長野県のJAと連携し長期低温貯蔵体制を確立

 だが大長レモンのさらなる増産にあたっては解決しなければならない課題があった。6月から8月、夏場の最需要期の販売体制だ。個別包装の低温貯蔵レモンではとても追いつけない。大量のレモンを効率よく保管できる大型の冷蔵施設が必要だった。

 「民間の倉庫を借りたのではコスト的に見合いません。そこで検討したのが、他地域のJAの遊休施設の活用でした」(山根氏)

 グループ企業内で設備を融通し合うのは一般企業では当たり前かもしれないが、JAはそれぞれ独立した経営体だ。選果場や貯蔵設備にしてもそれぞれのJAが所有・管理している。空いているからといって簡単に「貸してくれ」と言えるものではない。山根氏は各地のJAに空き貯蔵庫を貸してくれるように打診したが、当初はなかなか提携先が見つからなかった。

 「そんな中で、古くから大長みかんの取引があった長野の松本市場から、長野県 安曇野市のJAあづみを紹介されました。あちらでも、ちょうどその時期は桃やリンゴの端境期で、低温倉庫が遊休状態となっていたのです」

 施設を借りるにはJAあづみの組合員の合意を取り付けなければならない。JA広島ゆたかとJAあづみでは役員間で交渉を重ね、双方にとってメリットのある提携を結ぶ。JAあづみにとっては、遊休倉庫を貸すことでパレットや選果機械の使用料が得られ、選果に関わる地元の雇用も生み出せる。一方JA広島ゆたかにとっては、民間に比較して半値以下のコストで大型の貯蔵施設を活用できる、という具合だ。

 レモンの貯蔵のために新たに加湿器を設置したが、これには面白いエピソードがある。「加湿器を設置するにあたって、倉庫の壁に穴をあけ、電気を引いて、水道のパイプも取り付けてもらいました。他のJAの施設を、そこまで改修して使うというのは、全国的に見ても非常に稀有な例だと思います」

 さらにJA広島ゆたかでは、低温貯蔵の運用に広島県の農業関連予算も活用。こうして2015年に、JAあづみと連携した、大長レモンの大量・長期低温貯蔵体制がついに整ったのである。

広島から遠く離れた長野県JAあづみの倉庫で、低温貯蔵を待つ大長レモン
広島から遠く離れた長野県JAあづみの倉庫で、低温貯蔵を待つ大長レモン
貯蔵しておいたレモンの選果風景。JAあづみの地元の雇用創出にも貢献
貯蔵しておいたレモンの選果風景。JAあづみの地元の雇用創出にも貢献

 品薄になる夏期、大長レモンの市場影響力は大きく、生産者により有利な価格設定が可能になった。「量販店と交渉する際、夏期に設定した高単価が規準となって、冬場の価格も有利に設定できる、という効果が生まれています」と山根氏は話す。

 ちなみに店頭では、大括りに「広島レモン」として売られているケースも多々ある。特に量販店などでは、POPや値札などの売場表示やチラシなどでの告知を頻繁に変更したくないというのが本音だ。県内レモンを一括して「広島レモン」としておけば、万一自然災害や交通事情などで「大長レモン」が入荷しなかった場合にも、尾道産などもそのままの表示で売ることができる。

 「いずれにしても『広島レモン』の大半は『大長レモン』なので、『広島レモン』の認知度アップは、結果として『大長レモン』の販売促進にもつながるわけです。そこで『名より実を取る』ではないですが、ブランドをどう表示するかはお客様にお任せしています」