ライバル産地が手を組むと、どうなる?

イチゴの販売44%増を実現した、JAあいち海部

競争すべき相手は誰なのか、見誤ってはいけない。イチゴで言えば、競争相手はブランド確立に成功している「とちおとめ」の栃木や「あまおう」の福岡のはず。同じ県下の狭い地域でいがみ合っていては、現状を打開できない。愛知県の西部を管区とするJAあいち海部では、管内6つの生産組合に合併を働き掛け、あまイチゴ組合として一本化を実現。単位面積当たりの販売金額を40%以上伸ばすという成果をもたらした。

 あまイチゴ組合として一本化した成果は一目瞭然だ。合併前の2014年、イチゴの栽培面積21.3haに対して販売金額は9億7500万円だった。ところが合併後の2020年になると、栽培面積は約4分の3に相当する15.9haに減ったものの、販売金額は10億5000万円まで伸びた。単位面積でみれば、その伸びは44%に達する。

 販売金額を押し上げた要因の一つは、販売単価の上昇だ。

JAあいち海部 園芸部 園芸企画課 課長 村山靖 氏
JAあいち海部 園芸部 園芸企画課 課長 村山靖 氏

 管内の愛知県愛西市や津島市は県下有数のイチゴ産地でありながら、合併前は出荷量の多さを販売単価の交渉に生かし切れていなかった。現在はJAあいち海部園芸部園芸企画課課長で、イチゴ生産組合の合併に奔走してきた村山靖氏は、「平均単価は県下13の産地の中で最下位に近かった」と明かす。

 産地として出荷量は多くても、卸売市場への出荷ロットは生産組合の規模によってまちまち。市場側からすれば、各生産組合との間で仕入れの数量を調整するのは手間が掛かるうえ、希望数量の確実な仕入れに対して不安がつきまとう。そうした問題点が、販売単価を抑える方向に働いていたのである。

 しかし生産組合の一本化によって、販売先との仕入れの調整手間は最小限に抑えられ、仕入れ不安も払拭されるようになった。産地として出荷ロットをまとめ、販売単価の交渉を有利に進められる環境が整った。販売単価は、合併前の2014年は平均で1kg当たり1107円だったが、合併後の2020年は平均で同1265円まで上がった。

 栽培面積が合併後に減少した一因には、こうした販売単価の上昇があるという。村山氏はその結びつきをこう説明する。

 「販売単価が低かった過去は、目標の販売金額を確保するために栽培面積を広げ、収穫量を増やすしかありませんでした。しかし今では、栽培面積を無理に確保しなくていい。収量増加に向けた環境制御技術の導入もあり、各生産者は適正な栽培面積で経営できるようになりました」

あまイチゴ組合 組合長 佐藤進 氏
あまイチゴ組合 組合長 佐藤進 氏

 あまイチゴ組合で組合長を務める佐藤進氏は「一本化を実現できて良かった。何よりも売り上げを確保できるようになりました。また集荷時の荷受け作業は10日に1度程度の当番制に変わり、合併前に比べ負担が軽くなりました」と笑う。


JAグループが販売を担い結果で示す

 JAあいち海部にとってイチゴ生産組合の一本化は長年の課題だった。同じ産地でも生産組合が異なれば、互いにライバル同然。「なぜ、一緒にならないといけないのか」という感情が、現状を打開しようという機運を抑え込んでいた。

 事態が動き始めたのは10年ほど前。村山氏が特命担当に就いたのがきっかけだ。

 村山氏はそれまで、地域農業の担い手を訪ね歩き、その声をJA事業に反映させる業務を担当していた。イチゴ生産者への訪問を重ねる中、その経営改善に向け生産組合を一本化する必要性を当時から痛感し、周囲には「生産組合の合併を成し遂げたい」という思いを打ち明けていた。特命担当への任命は必然だったのである。

 第一歩は協議会組織を立ち上げ、共同販売に乗り出すこと。各生産組合の出荷量の一部について、JAグループで販売先を決める取り組みを始めた。当時、管内の生産組合は6つ。「JAグループの総力を結集してイチゴ販売に臨み、目に見える効果を生み出して各生産組合に示そう、と熱い想いを持っていました」(村山氏)。

JAあいち海部が販売を担うイチゴ関連商品。イチゴは海部地域の重要な農産物の一つだったが、販売単価の低さが課題だった
JAあいち海部が販売を担うイチゴ関連商品。イチゴは海部地域の重要な農産物の一つだったが、販売単価の低さが課題だった

 各生産組合は2013年、共通の課題への取り組みを協議する場への参加呼び掛けに応じ、いちご連絡協議会を設立した。ただJAグループで販売を任された数量は多くても出荷量の3割程度だったため、共同販売の効果はおのずと限られた。

 村山氏は、そこで思い切った手を打つ。6つの生産組合のうち組織規模が小さい3つの組合に対して、1つの生産組合としてまとめたうえで、出荷量の全てをJAグループに販売させてもらえないか、と打診したのである。

 勝算はあった。村山氏は販売単価の引き上げに向け、販売先の見直しも決めていた。新しい販売先は、奈良県の卸売市場。3つの生産組合がそれまで取引していた地元名古屋や岐阜県の卸売市場から全面的に乗り換える方針だった。

 「JAあいち海部では主要作物のトマトを奈良の卸売市場に販売していました。その取引関係の中で、かねてよりイチゴも販売させてほしい、と要請を受けていました。複数品目で取引するほうが、販売条件の設定を有利に進められます」。3つの生産組合は販売単価の低さを課題と捉え、打開策を待ち望んでいた。それだけに、単価引き上げが見込める提案には、すぐに賛同したという。「販売先を生産者自ら見直すことは容易ではありません。何しろ義理人情の世界ですから。しかし、義理人情で売り上げを確保できた時代は過去のものです。こうした難しい課題を解決するのはJAグループ本来の役割であり、そこに我々の存在価値があると思っています」(村山氏)。