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2024.06.05
文=茂木俊輔
生産者が丹精して育てた野菜を高く売り、所得向上の手助けをする。そのためにまず、価値の高め方を模索し、取引先とコミュニケーションを重ねる。これぞ、JAの販売担当者としての使命。その使命を忠実に果たすのが、JAきたみらい販売企画部玉ねぎグループ・馬鈴しょグループ調査役の須河秋久氏だ。
タマネギとジャガイモはJAきたみらいの主力品目。とりわけタマネギは、生産量で全国の60%以上を占める北海道の中にあって、その約40%を産出するほどの突出ぶりを誇る。作付面積は4000haを超え、生産量は年間約26万tに達する。
その中には化学肥料の使用量や化学農薬の使用回数を一定程度に抑えた商品もある。JAきたみらい独自の基準に基づくものは「ECOみらい」、農林水産省の特別栽培農産物ガイドラインの基準に基づくものは「特別栽培」と呼ぶ。作付面積はタマネギで言えば全体の5%弱。「安全・安心」へのこだわりを強みに市場を開拓してきた。
須河氏はそこへ新たに、環境保全型商品「カーボンオフセット」という価値の上乗せを呼び掛け、販路の開拓や取引数量の拡大に挑んでいる。

「『国産=安全・安心』という見方が消費者に広がり、栽培方法へのこだわりだけでは価値を打ち出しにくくなっています。そこで新たに、SDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献という、今の社会に求められている価値に目を向けました」
準備段階で生産者に持ち掛けたのは、「安全・安心」という価値の整理である。
管内にはもともと「ECOみらい」「特別栽培」の基準に従ってタマネギやジャガイモを生産するグループのほか、北海道クリーン農業推進協議会が定める「YES!clean」の基準に従ってタマネギを生産するグループも組織されていた。タマネギについては、こだわりの商品が3つ。ところが「ECOみらい」「YES!clean」の栽培基準には、大きな差はない。その分かりにくさを、販売担当として解消したかった。
「同じような商品はまとめたほうが、その価値は市場に伝わりやすくなります。しかも選果・出荷時のロスがなくなり、数量を確保できるようになるため、販売段階では交渉力を高められる。生産者にもメリットが見込めます」
JAの支援の下、「ECOみらい」「YES! clean」の基準に従ってタマネギを生産していた2つのグループは1つに統合された。「安全・安心」という価値を打ち出すタマネギは、「ECOみらい」「特別栽培」の2つに集約されたのである。
「カーボンオフセット」という新たな価値を創出するにあたっては、二酸化炭素(CO2)の排出量が通常の栽培方法に比べどの程度削減されるのか、算定が必要である。計算は、北海道農業生産技術体系をもとに基準値を算定した。そのうえで、削減されてもなお排出される分を、カーボン・クレジット(排出権)※1の購入で相殺する。手間やコストはかかるが、栽培方法は変えずに済む。
ただ正直、CO2の排出削減量は限られる。化学肥料や化学農薬の使用を控えているため、農業機材の燃料は確かに少なく済む。それがCO2の排出削減につながるものの、走行距離自体は大きくは変わらないからだ。「排出量のほぼ全量を相殺できるだけのクレジットを購入する必要があります」と、須河氏は言葉を継ぐ。
カーボン・クレジットは、国が運営するJ-クレジット※2の枠組みを利用する。北海道や道内の自治体が保有する森林でのCO2吸収で生み出し、国が認証したJ-クレジットを、相対取引で各公共団体から購入する。須河氏によれば、取引価格はCO21t当たり税別1万円程度。この購入コストを、生産者が負担することになる。
それでも、須河氏の呼び掛けに「ECOみらい」「特別栽培」のタマネギと「ECOみらい」のジャガイモを生産する3つのグループが賛同した。出荷用の20kg詰め段ボール箱には「ECOみらい」「特別栽培」と並び、「カーボンオフセット」の文字が躍る。
販売に乗り出したのは、2022年産のタマネギとジャガイモから。須河氏は販路の開拓や取引数量の拡大に向け、各地の取引先や市場を巡り、「カーボンオフセット」という価値を上乗せした商品の意義を熱心に説いて回った。
中国・四国エリアを中心に店舗展開するスーパーとの間では、「ECOみらい」の取引数量を年間約350tから約700tにまで倍増させた。