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2019.05.28
文=長田真理
熊本は、2017年の農業総産出額が3423億円で、北海道、茨城、鹿児島、千葉、宮崎県に次ぐ、全国6位である。特にトマト類、デコポン、スイカ、宿根カスミソウ、トルコギキョウ、いぐさは、全国1位の生産量を誇る。販売ルートには、各JAによる販売やJA熊本経済連による販売等があり、2017年のJA熊本経済連による販売金額は、園芸が約824億円、畜産が約110億円、農産が約107億円となっている。
JA熊本経済連とは、熊本県の経済事業の県段階のJA組織である。JAは、農畜産物の販売や資材の供給などを行う経済事業、貯金や貸し出しを行う信用事業、「ひと」「いえ」「くるま」に関する共済事業をはじめとした様々な事業を行っているが、経済連はそのうちの経済事業を専ら扱う。ちなみに、熊本県内にはJAが14あり、それぞれは独立した協同組合だ。同じJAと言っても、規模や運営方針はさまざまである。
農業従事者の高齢化、それに伴う担い手の減少は、日本の農業全体の課題であり、熊本県も例外ではない。熊本県の主力産品である園芸のJA熊本経済連による取り扱い金額は、1990年の955億円をピークに減少を続け、2005年には597億円にまで落ち込んだ。特にバブル崩壊と軌を一にして、メロンやスイカなどの果物が大きく落ち込み、その減少分がそのまま影響したイメージである。
従来、基本的に市場との交渉は各JAがそれぞれ行っていた。JA熊本経済連 園芸部次長(兼)青果物コントロールセンター 担当課長 川部輝久氏は、当時を次のように振り返る。
「JAごとに交渉と販売を行っていたので、価格も販路もバラバラでした。特に年々メロンやスイカなどの瓜類が減少し、JA単位では数がまとまらないので、価格交渉が難しかったのです。みんなで集まって熊本県として交渉や販売を一本化し、メリットを出していこうという機運になり、協力体制をつくろうと検討を始めました」
そこで、JAグループ熊本は、青果物コントロールセンターを設立した。各JAから1名の園芸販売担当者と、JA熊本経済連の園芸部スタッフが集まって情報や意見の交換・共有を実施する。熊本県下のJA全体として、関東、関西、中部などの重点市場に対しどのように価格交渉・出荷計画を行っていくかを決定する企画部門という位置づけである。
同センターは、2008年にJA阿蘇とJAかみましきからスタートした。その経緯を川部氏は、「熊本では年間を通してトマトが収穫できますが、7~10月を夏秋期、11~2月を秋冬期、3月~6月を春期と分けています。そのうち、夏秋期に生産しているのは、JA阿蘇とJAかみましきです。そのため、この2つからスタートすることにしました」と語っている。
その後、徐々に参加するJAが増え、現在の11JA体制が確立した。なお、県内14JAには、同センターに参加していない3JAがあり、地域により生産物が異なるなど参加してもあまりメリットがないという理由が見受けられる。
青果物コントロールセンターの業務の中心は、情報の交換と共有、販売価格の検討である。そのため、収穫期には多くの会議が開催される。全般的な情報共有は、毎週開催される「青果物コントロールセンター連絡会議」で行われる。イベントや研究会開催の情報はもとより、各JA管内での生育状況や出荷予想をもとに会議は進み、実績値をもとにした売上予測など、さまざまな情報交換がなされる。
生産量が多いトマト、ミニトマト、ナス、イチゴ、スイカ、アールスメロンの6品目に関しては「重点品目会議」として、収穫期にそれぞれ週1回会議を開催している。会議に先立って、JA熊本経済連から全国の市場動向や販売先からの要望などが提供される。そのうえで、各JAの担当者が自JA管内の細かい生育状況の報告を行い、今後の予想値など市場対策を練り上げる。青果物コントロールセンターとして、常に市場の期待に応えられるよう戦略を検討していくわけだ。農業ならではの変動要素を織り込んで精緻に未来予測し、出荷を見通す。
自然に左右される農業は売り上げ予測が難しく、それが農業経営を難しくしている面がある。同センターの重要な役割のひとつは、そこをできる限り明確にしていくことだ。「我々の目的は、高く売ることだけではなく、安定供給体制を確立することで実現する安定販売です。1反あたり何トン採れて、1キロあたりの価格が分かれば、経営の予測がつくようになります」(川部氏)。生産者ひとりひとりではなし得ないことを、同センターは果たしてくれる。