ドローンは、どこまで農業に使えるか?

年間通してフル活用! 先進地域の実体験、JAレーク滋賀

様々な分野でドローンが活用され始めている。しかし、実際のところ「実証実験」どまりが多いのではないか。農業でも概ね同じだ。そのような中、JAレーク滋賀の大津地区では、年間を通して多種多様な農作業にドローンを活用している。JA主導で導入を進めたが、その効果が評価され、自らドローンを購入する生産者も現れた。なぜここまで地域に受け入れられ、活用が進んだのか。全国から視察が相次ぐ、JAレーク滋賀の取り組みに迫る。

年間通して活躍! 大津の風景にドローンが溶け込む

 2022年10月、JAレーク滋賀の大津北営農経済センター近くの圃場で、写真撮影のため同JA センター長の田中章吾氏にドローンの操縦をお願いした。圃場横の農道は住民の生活道路になっており、かなり頻繁に人が行き来する。撮影中、保護者に連れられた児童の一団がこちらに向かって歩いてきた。取材チームは子どもたちがはしゃいでドローンに近づくことを危惧したが、杞憂だった。口々に「ドローンだ」とは言うものの、おとなしく眺めている。なるほど、この地域の人々はもうすっかりドローンに慣れているのだと実感した。それもそのはず。ここ滋賀県の大津地区では、年間を通して農作業にドローンが登場している。

 以下が現在実施しているドローンの年間利用スケジュールだ。

JAレーク滋賀 大津地区では一年通してドローンの登場シーンがある。作業内容、品種も様々だ
JAレーク滋賀 大津地区では一年通してドローンの登場シーンがある。作業内容、品種も様々だ
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 病気や害虫防除の「農薬」は液体、施肥の「肥料」は顆粒が多く、両タイプの散布に対応している。種まきにもドローンを使っており、用途は幅広い。個々については後述するとして、まずはなぜJAレーク滋賀の大津地区が、これほどドローンを活用するに至ったのか、その経緯を見てみよう。

農薬を撒きたい時に撒けないもどかしさ

JAレーク滋賀 大津北営農経済センター センター長 田中章吾 氏
JAレーク滋賀 大津北営農経済センター センター長 田中章吾 氏

 JAレーク滋賀は2020年、滋賀県南西部の大津・湖南・高島地区の8JAが合併し発足。その中でも大津地区は商業地でもあり、農業地でもある。京都、大阪のベッドタウンでもあるので、若者にとっては働く場所に困らない場所だが、その一方で生産者の高齢化が進み、離農に歯止めがかからない状況にある。

 合併前から長年、営農支援や販売に携わっている田中氏は頭を悩ませていた。高齢者の負担を減らし、若者に魅力ある農業にするには?

 「新たに農業に参入する人もいますが、作業がきつくて続かない人も多い。農産物の品質を高めるには適期適量の防除が必要ですが、重いポリタンク(動力エンジン式噴霧器)を背負っての噴霧は大変で、諦めてしまう高齢者もいます」(田中氏)

 大津地区の主産品は米。この地域はカメムシが発生しやすく防除が必要だ。そのため約30年前から業者に委託し、ラジコンヘリコプターを使ってきた。ただし契約上、1回につき20haほど散布しなくてはならない。同地区には小規模農家が多いため、散布は一度にまとめて行いたいが、1軒でも理解を得られない場合、その付近の散布が実施できなくなるため、一帯の散布が不可能になる。市街地に近いため飛行音は苦情になりうるし、住宅地と農地が密接しているため、上空からの農薬散布に反対意見が出ることもある。

 米は1級から規格外まで4段階の等級がある。防除をしないと等級が下がりやすく、生産者の収入減に直結する。加えてラジコンヘリコプターは受託業者側の都合もあり、使いたい時に使えるとは限らない。「農薬散布は適期に撒くことが重要ですが、撒きたい時に撒けないのは、非常にもどかしかった」(田中氏)。

国の米政策の転換、学校給食拡大の二大転機

 農業をめぐる環境も変わる。2018年、国の米政策が転換。地域ごとの米生産量を明示しないことが決まった。国の主導ではなく、地域で米の生産量を考える必要が生じる。稲作を続けるか、転作していくのか? 現場は混乱した。合併前の大津地区では、麦・大豆の生産を奨励していたが、水稲生産の繁忙期と麦・大豆の防除時期が重なるため、品質や収量に悪影響が出始める。田中氏は「大型機による農薬散布も行っていましたが、育てた麦や大豆を踏んでしまうこともあり、収量が落ちてしまいます。中山間地では機械が入らないという問題もありました」と振り返る。

 もう一つの変化は2020年1月、学校給食が大津市内すべての市立中学校に拡大したことだ。学校給食には地元の野菜を提供したい。野菜の生産振興を始めたのだが、これまで野菜は自家消費がほとんどで、一部を直売所に卸していた程度。需要に対して大幅に供給が不足し、直売所なのに他地域から仕入れる状況だった。そこで、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーの5品目について必要な数量を明示し、生産者に働きかけを行った。特に需要が一番高かったタマネギについて、生産に必要な農機は、JAがレンタルで提供。生産者には日常管理だけ行ってもらい、防除はJAが請け負うことにした。

 ラジコンヘリコプターよりもっと手軽に、撒きたい時に、撒きたい場所へピンポイントで撒くことができる。そんなツールとして、当時利用が始まりつつあったドローンに田中氏は注目した。

 「ドローンなら安価で導入することができ、ラジコンヘリコプターに比べれば音も静かなので、周辺住宅地に対する遠慮も少ない。操縦する楽しみもあります。若い世代にも魅力的に感じられ、農業を始めるきっかけになるかもしれないと思いました」(田中氏)